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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
36/90

36.ゴブリン殲滅戦④~後処理~

「クリーン!」


 生活魔法『クリーン』を唱え、身体をきれいにする。


「ありがとうよ、汚いままでも平気だが、きれいな体で食事ができるのはいいな」


 広間の片隅にある岩の上に腰掛けながらキッドさんが笑う。

 俺は『無限収納』からキッドさんが好きな『メンドル茶』を取り出してコップに注ぎ手渡した。


 キッドさんは嬉しそうにコップを受け取ると美味しそうに飲んだ。

 そして一息ついたようで少し肩の力を抜いて遠くの方を眺めていた。

 俺も冷たい水を飲みながら周りの様子をぐるりと見ていった。


 まず目につくのは広場の中央にうず高く積まれているゴブリンたちの死体だった。

 討伐部位や魔石を抜き取った後の不要な肉塊なので、ぞんざいな扱いだ。

 原型をとどめていないゴブリンたちが大半で、何体分の死体があるかわからない。

 その死体の山からは青い血液の川が流れていて、俺達の足元に青黒い池を形成していた。

 いくら『クリーン』で周りをきれいにしても、ゴブリンたちの死体から臭ってくる悪臭だけは消すことが出来ない。

 俺はスキルがあるから平気だが、キッドさんはどうして平然としていられるか不思議だ。

 歴戦の冒険者は皆これほどまでに豪胆なのだろうか。

 遠くの方を見ながらくつろいでいるキッドさんを横目で見ながらさらに辺りを見ていった。

 ゴブリンの死体の横には山のようにガラクタ武具が積み上がっている。

 棍棒が大半だが錆びた短剣や槍などの金属製の武器もあった。

 汚らしい革鎧にボロボロの盾、一番多いのが木を削っただけのナイフに見立てた武器だった。


(こんな粗末な防具ではゴールドランクの冒険者の攻撃は一撃も受けきれないだろうな。キッドさんが森林狼より楽だと言った意味がわかったような気がするな)


 さらに討伐部位や、魔石でパンパンに膨らんだ麻袋を見る。

 あれは相当な金額になるだろう。

 一気に小金持ちになり、嬉しくなってしまった。


(そろそろ食事にしようかな。温かいものが食べたいよ)


『無限収納』から串焼き肉や野菜炒めを取り出す。

 皿に盛り付けると籠いっぱいの白パンも出し、岩の上に置いた。


「どうぞ食べてください、いくらでもあるので遠慮はいりませんよ」


「わるいな、ユウヤの食料を分けてもらうなんて、後できちんと料金を払うからな」


「別に構わないですよ。今回の報酬でかなりの黒字になりましたからお気遣い無用です」


「そうか、わかった」


 キッドさんはご機嫌で串焼き肉を美味しそうに頬張っていった。

 スプラッター状態の現場で肉を食べる俺達は、かなりおかしいのかもしれない。

 しかしこれが冒険者なのだろうな。




「しかしユウヤのナイフ投げは凄まじいの一言だな。あの距離の弓の弦を切り飛ばすなんて達人でも絶対にできないぞ」


 食後の雑談中に戦闘の話題が出た。


「全てはスキルのおかげですよ、『精密投擲せいみつとうてき』というスキルを獲得しましたよ」


「そうか、ユウヤはこれからどんどん強くなっていくだろう。この仕事が終わったらどうするつもりなんだ?」


「まだ何も決めてませんよ。でもお金が溜まったら世界を見て回りたいですね。俺が居た世界とはここはかけ離れているので興味があります」


「そうか羨ましいな、俺も昔は世界各地を回ったものだよ。世界は驚きに満ち溢れているぞ、素晴らしい体験が出来るだろうよ」


 遠い日の記憶を思い出しているのか、キッドさんは嬉しそうに語った。


「キッドさんはどうして森林警備隊なんてやっているのですか? あっ、別に森林警備隊がわるいと言っているわけではないですよ。あれだけ強いのにもったいないと思ったんです」


 素朴な疑問で思わず聞いてしまった。

 正直な話、森林警備隊のような地味な仕事なんて、キッドさんには似合わないと思ったのだ。

 先程の戦闘はキッドさんの一人舞台だった。

 俺が倒した数の倍以上のゴブリンたちを血祭りにあげたキッドさんは、今でもバリバリの現役冒険者だと思えた。


「俺がこの街に落ち着いた理由は、足の怪我だよ」


 左の膝をさすりながら俺の疑問にキッドさんが答える。

 その答えに俺は絶句してしまった。


「えっ!? でもさっき素早く動いていたじゃないですか」


「あんなのは現役時代の半分以下だぞ、昔はあんなものじゃなかったんだ。今の俺は肩書こそゴールドランクだが現役の実力はないよ」


 驚くべき事実をキッドさんは語る。


「ユウヤ、エイシス王国に冒険者は二万人ほどいるが、現役のゴールドランクの冒険者はどれ位いると思う?」


「そうですね……、二百人ぐらいでしょうか」


 百人に一人はゴールドランクなのではないだろうか。

 あまり考えずに答える。


「いいや、正解は二十人だ、エイシス王国で現役のゴールドランクの冒険者は二十人いるか居ないかだぞ。大陸全土を合わせても三百人は居ないだろう、それほどまでにゴールドランクの敷居は高い」


 キッドさんの言葉に驚いてしまう。

 ゴールドランクの冒険者は俺が考えているより凄い存在らしい。


「だから足を怪我してしまい現役時代の動きができなくなった俺は、冒険者を続けてはいるが半分引退したようなものなんだよ。それに娘がいるからな、今更無茶なことは出来ないさ」


「そうだったんですか……、変なこと聞いてしまってすみませんでした」


「別に気にしていないぞ、落ち着いたことでジェシカも授かったことだし、今の暮らしにも満足している。女房には先立たれたが娘もいるし俺は運がいい方だよ、大体の冒険者の最後は魔物にやられて死んでしまうんだ。高ランクになればなおさらだぞ」


 キッドさんの重みのある言葉に俺はうなずくことしか出来なかった。

 初心者が半年以内に半分死に、高ランクになってもまともな死に方をしない冒険者家業。

 やはり選ぶ職業を間違ったみたいだな。


「さて、休憩は終わりだ。戦利品をまとめたら早々にここを出るぞ。まだ森の探索は残っている。遅れた分を取り戻すため急がなくてはならないからな」


「わかりましたがんばります!」


 気合を入れて立ち上がる。

 戦利品の剥ぎ取りはすでに終わっている。

 そのお宝を収納して後は洞窟を出ていくだけだった。


「ユウヤ、悪いが戦利品を『無限収納へ入れてくれないか。俺の『収納』はすべてを収めるほど広くないんだ。バラけさせて持っていくより一人で運ぶほうがいいだろう、頼むぞ」


「わかりました」


 もとより荷物持ちに雇われたようなものなので、快く引き受けて麻袋を収納していく。

 どんどん収納してさらに魔石の入った小袋も入れる。

 最後はガラクタの武具だが、まだまだ入れることができるので片っ端から収納していった。


「しかしユウヤの『収納』は凄い容量だな、普通ならこんなクズ武具なんて放置していくしか無いぞ」


 呆れ顔のキッドさんを横目にどんどん収納していく。

 広場にうず高く積もっていた戦利品はまたたく間に俺の『無限収納』に収まってしまった。


「ゴブリンの死体はどうするのですか?」


「う~ん、どうしたものかな。放置すればアンデッドになることが確実だし、かと言ってこの場所で燃やすわけにもいかないからな。本来なら人海戦術で洞窟から運び出して外で焼いてしまうんだよ」


 キッドさんは悩んでいるようだ。

 時間がもったいないので俺はキッドさんに提案することにした。


「とりあえず俺の『無限収納』へ入れておきますよ。まだまだ入るので後で焼きましょう」


 そう言って次々にゴブリンの死体を『無限収納』に放り込んでいった。

 面倒くさかったのでゴブリンの生活道具や食べ残しの骨、地面に流れている血液までまとめて収納してしまった。

 キッドさんが驚きの表情をしてこちらを見ている。


「終わりましたよ、出発しましょう!」


 広場にあるもの全てを収納してしまった俺は、キッドさんに向き直るとニッコリと笑いながら報告した。


「お、おう、では行こうか」





 キッドさんはそれ以上何も言わなかった。

 がらんとした空間は今しがたまで戦闘があった場所とは思えないほど何も無くなってしまった。

 その空間を後にして地上に向けて俺たちは歩き始めるのだった。


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