33.ゴブリン殲滅戦①~開戦~
新たなスキル『暗視』を手に入れた俺は、本来暗いはずの洞窟内を昼間のような明るさで探索していった。
洞窟の奥までくっきりと見える。
これならば岩陰にゴブリンが潜んでいても瞬時に見つけられそうだった。
あれだけ緊張した洞窟内が、普段探索している森の中と変わらない雰囲気になる。
それだけ明るさが重要だったということだろう。
いくつかの分岐点に『ポインター』を打ち込み、さらに洞窟の奥へと進んでいく。
周りの空気が徐々にだが腐臭が強くなってきているので、洞窟の最深部、すなわちゴブリンの棲家が近いことが予想できた。
ステータス画面に映し出されている洞窟内部は、少し広い広場を最後に行き止まりになっていた。
普通に考えならばそこがこの洞窟の終着地、ゴブリンたちの棲家はそこにあると予想された。
「ユウヤ、警戒しろ。この奥の空間は少し広がっている。ゴブリンたちの棲家にはうってつけの場所だぞ」
ささやき声でキッドさんが指示してくる。
「わかりました」
俺も声を小さくして返事をした。
移動速度は限りなく遅い。
足元に注意をしてなるべく音を立てないように気をつけた。
しばらく非常に遅い速度で前進していく。
もう少しで最深部の広場に到着するという頃、前方で物音が聞こえてきた。
「ユウヤ、とまれ。岩影に隠れるんだ」
右手を素早く上げたキッドさんが小声で指示を出してきた。
俺は中腰になってキッドさんに近寄り、大きな岩陰に隠れる。
「いま物音がしましたね。あ、前方にゴブリンが動いてますよ! 二匹のゴブリンが武装しています」
広場の入口には粗末な松明が掲げられていて、おぼろげながらゴブリンたちの様子が見て取れた。
その薄暗い明かりの中でも『暗視』がある俺ははっきりと前方の様子がわかる。
二匹のゴブリンたちはそれぞれに短剣を持っていて、一匹は盾まで持っている。
洞窟の入り口で見張りをしていた個体とは明らかに武装の度合いが違っていた。
「ああ、おそらく見張りだろう。奴ら奥の広場の入口に見張りを立てていやがるな。数は二匹か、問題ないな」
「どうするんですか? これ以上隠れて近づくことができそうな岩陰はありませんよ」
今隠れている岩陰から広場の入口までは平坦な地面が続いていて隠れる場所はない、これ以上隠密行動をすることは出来ないと断定できる。
「いいかユウヤ、ここからは一気に近づきゴブリンたちを殲滅する。奴らはおそらく数十匹単位で居るだろう。俺の経験から五十匹くらいだと思う。しかし恐れることはないぞ、森林狼を二人で二十匹倒した俺達なら、倒せない数ではないからな」
キッドさんは自信満々に作戦を披露した。
しかし俺にはその作戦は無謀だと感じられた。
「そうでしょうか……、奴らは武器を持っているんですよ、ゴブリンたちのほうが脅威だと思うのですが……」
いくら森林狼たちの体格が大きくても、武器を手にしている複数のゴブリンたちのほうが攻撃力が高い気がする。
そのゴブリンが数十匹襲いかかってくるのだ、考えるだけで背筋に冷たい汗が流れた。
「ユウヤ、何も全部のゴブリンたちが襲ってくるというわけではないぞ。奴らにも子供や年老いた個体、雌も少ないがいるだろう。まともに戦闘を出来る個体は多くても二十匹前後だと考えていいからな」
「なるほど……。俺、ゴブリン全体が武器を手に取って襲ってくると勝手に思っていましたよ。確かに戦えない個体もいそうですね」
経験豊かな冒険者のキッドさんは、俺の知らない知識を豊富に持っている。
この情報もその一つで、数々のゴブリンの巣を破壊してきたキッドさんならではの知識なのだろう。
「そうだぞ、しかし注意しなければいけない点もある。決して広場には入り込むな。周り中がゴブリンだらけで、すぐに押し倒されてしまうぞ。戦闘開始したら、広場の入口のゴブリンを速やかに排除してそこで戦うぞ。そうすれば正面からの敵だけを相手にすればいいからな、それに大群と戦うときは狭いほうがこちらに有利だからな」
「わかりました」
具体的な戦闘方法を聞いていると緊張で口の中がカラカラになってしまった。
こんな時、緊張を緩和するスキルでも取得できればいいのだがな。
そんなスキルあればの話だが……。
馬鹿な考えが脳裏に浮かんでくる。
一人密かにほくそ笑みながらキッドさんの突撃号令を待った。
ピロリンッ!
『スキル、『平常心』を取得しました』
頭の中にスキル獲得のお知らせが響き渡る。
そして心がすっと落ち着いて心臓の鼓動が緩やかになった。
(なんてことだ……、本当にスキルが取得できてしまった……)
驚いてはいるが心は穏やかだ。
欲しいときに欲しいスキルが獲得できる、これは凄まじいチート脳力だな。
いつ戦闘開始しても問題なく動くことができそうだ。
イシリス様に感謝しながら戦端が開かれるその時を待つのだった。
ー・ー・ー・ー・ー
そしていよいよ戦闘の時が訪れた。
見張りに立っていた二匹のゴブリンたちの視線が、一瞬だけ正面から離れた。
その時をキッドさんは見逃さず、素早い動きで立ち上がる。
「よし、突撃だ! 遅れるな!」
キッドさんが叫びながら岩陰から躍り出る。
さすがはアタッカー職の冒険者だ、一気に加速をしたキッドさんは猛烈な勢いでゴブリンたちに迫る。
俺も慌てて立ち上がるとキッドさんに続いた。
一気に広場の入口まで進み見張りのゴブリン達と対峙した。
「ギギギ!? ギギッギッ~!」
見張りのゴブリンが大声を上げる。
その声は洞窟内に反響して全ゴブリンたちに伝わった。
今まで静かだった洞窟内は、蜂の巣をつついたかのような大騒ぎになる。
広場にゴブリンたちが溢れ出し、みな侵入者を倒すために武器を取り始めた。
「おらぁぁぁ!」
戦闘の狼煙はキッドさんの横蹴りから始まった。
走り寄る勢いを殺さず体重をしっかりと載せた蹴りが、見事に油断していた見張りのゴブリン一体をとらえた。
サッカーで言うところのボレーキック、格闘技で言えばミドルに近いローキックがゴブリンの小ぶりな体にまともに炸裂する。
メキッと音がして胸が陥没したゴブリンが一直線に壁に激突した。
口から青い体液を撒き散らしながら即死したゴブリンが、壁からずり落ちてぐったりと横たわる。
それほどキッドさんの体重が乗った蹴りは強烈だった。
蹴り飛ばし、その場で回転したキッドさんは、短剣を横薙ぎにもう一体のゴブリンを切り飛ばした。
その間一秒にも満たず、反応できなかったゴブリンの首が天井高く吹き飛んだ。
スッパリと切り飛ばされた首から青黒い血液を吹き出しながらゴブリンが倒れる。
倒れると同時に天井まで吹き飛んでいた首が落ちてきてカツンと地面に激突する。
ゴブリンの首はまるでボールのように跳ねながら広場に転がっていった。
一瞬で見張りのゴブリン二匹を倒したキッドさんは、入り口を奪って仁王立ちになった。
「よし、ここは押さえたぞ。後は正面から来るゴブリンたちを相手にすればいいだけだ」
圧倒的なキッドさんの戦力に俺は驚いてしまった。
あれだけ強いのに若い頃のほうが今よりも強いというのだから驚異的だ。
スキル無しであそこまで出来てしまうゴールドランクの冒険者に戦慄を覚えざるを得なかった。
すでに広場はゴブリンたちの絶叫で騒然となっている。
次々に湧き出てくるゴブリンを見ながら俺は短剣を今一度しっかり握り直すのだった。
ー備考ー
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『剣技』『防御』『体捌き』『投擲』『突き』『連続突き』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『勇敢』『平常心』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『平常心』




