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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
32/90

32.洞窟の奥深くで

 まさかのゴブリン討伐に駆り出されてしまった。

 俺は覚悟のないままにキッドさんに付いていくのだった。




 洞窟に一歩足を踏み入れると嫌な匂いが鼻を突いてきた。

 表現するのが難しいが、強いて言うのならば獣の死体があった場所の匂いだ。

 直接的というわけでは無いが、空間にまんべんなく死臭が漂っている。

 両腕が盾と短剣でふさがっているので、鼻をふさぐことができず臭い匂いが肺にダイレクトで入ってくる。

 胃がムカムカして戻しそうになるのを必死に我慢した。


 そんな俺を知ってか知らずか、キッドさんは慎重だが迅速に歩みを進めていく。

 キッドさんの持つ松明が左右に振られ、辺りを照らしているがかなり暗い。

 洞窟の壁はゴツゴツとした岩肌で、表面は湿り気を帯びていた。

 当然天井からは水滴がしたたり落ちてきていて、所々に水たまりを形成していた。


 キッドさんが立ち止まりこちらを振り返る。


「ユウヤ、道が二手に分かれている。洞窟や迷宮で一番の危険はなんだと思う?」


 前を指差しながらキッドさんが小声で聞いてきた。


「そうですね、暗がりからいきなり敵に攻撃されることでしょうか」


「うん、それもあるな、しかしもっと危険なのは道に迷うことだ。一度迷うと方向がわからなくなってどんどん深く潜ってしまうことがある。そうすればいづれ食料が尽き体力も奪われる。そして最終的に餓死してしまうんだ」


「そうなんですね」


 俺はキッドさんに付いていけばいいと思って道のことなど考えていなかった。

 このまま進んでいけばキッドさんなしでは地上に戻れなくなるだろう。

 いちいち丁寧に教えてくれるキッドさんに感謝しかなかった。


「一番古典的な迷わない方法を教えてやろう。それは右左どちらの壁でもいいから手を添えながら移動していく方法だ。帰りは逆の手を使えば地上に戻ってこられる。間違っても途中で手を入れ替えてはいけないぞ」


「そうですか、一つ勉強になりました」


 俺もその話は聞いたことがある。

 もちろん実践などしたことはなく、情報としてならばの話だ。

 しかし知ったかぶりをするのは恥ずかしいので、キッドさんには初めて聞いた風を装った。

 間違いなくキッドさんは自分で実践したことを教えてくれているのだ。

 俺のニワカな知識なんて紙っぺらのように薄い知識だった。


「他にも炭や白墨で印を付けて進む方法があるが、ベテラン冒険者はそんな方法は使わない。俺たちはこれを使うのさ」


 キッドさんは得意げに『収納』の中から小さな釘のようなものを取り出した。


「なんですかそれは」


 初めて見る道具に興味をそそられる。


「これはな、『ポインター』と呼ばれる魔道具だ。壁や地面に打ち込めばステータス画面に周囲の地形を映し出してくれるすぐれものだ。いいか見ていろよ」


 キッドさんはそう言うとポインターを壁の割れ目にねじ込んだ。


「さあ、ステータス画面を開いてみろ」


「わかりました」


 俺は心の中で「ステータス」と唱え、薄透明な画面を出した。

 するとスキルや名前の書いてある欄の下に、小さく地図が表示されていた。

 その地図を詳しく見ると、二股に別れた洞窟は左が行き止まりで右がさらに奥へとつながっていた。

 驚くべきテクノロジーに絶句してしまった。


「キッドさん! 道がわかりますよ。左が行き止まりです!」


 興奮してキッドさんに報告する。

 もちろん小声で周囲に気を配りながらだが……。


「そうだな、それじゃあまず左の行き止まりを調べよう。何もなければ次は右だ」


 機嫌よくキッドさんが答える。


「わかりました!」


 異世界には独自に進化した驚異の魔法技術が発達していた。

 現代日本の科学技術にも引けを取らない技術に心底感心してしまった。




 ひとしきり興奮してしまったが、ここは敵であるゴブリンたちの領域テリトリーだ。

 そのことをすぐに思い出した俺は、盾を構え直して気を引き締めた。

 相変わらずキッドさんが先頭を行き、その後を俺が続いていく。

 どこまでも暗い一本道が続いていて気持ちが萎えてくる。


 周りには幸運にもゴブリンたちの姿はない。

 しかしいつ壁の割れ目からゴブリンたちが出現するかわからず、緊張の探索を強いられていた。


 道は程なくして行き止まりになった。

 ステータス画面をずっと開いていたので、終点が俺にもわかった。


「なにもないみたいですね。本命は右の道の奥でしょうか」


「そうだな、そちらに進めばゴブリンたちとの戦闘になる確率が高いだろう。ユウヤ、くれぐれもパニックは起こすなよ。ゴブリンたちの攻撃は、今のお前なら十分にさばけるはずだ。落ち着いて俺について来い」


 キッドさんは俺の目をしっかりと見て頼もしいことを言う。

 ベテラン冒険者が太鼓判を押してくれたのだ、俺も少しは自信を持ってもいいのではないだろうか。


「わかりましたキッドさんの指示に従います」


「よし、その意気だぞ。ゴブリンを倒したら一財産稼げるはずだ。装備だって良いものが買えるぞ、これはチャンスでもあるんだ頑張ろう」


 キッドさんは拳を握って俺に見せてきた。

 俺も拳を握りキッドさんの拳にぶつける。


「行きましょう!」


 勇気をもらって移動を開始した。

 目指すは洞窟の奥深く、ゴブリンたちのねぐら。

 刻々と戦闘の時が近づいていた。



 ー・ー・ー・ー・ー



 それほど時間がかからずに分岐点に戻り、そのままの勢いで右の洞窟を進んでいく。

 道はゆっくりと下っていて曲がりくねっていた。

 ときおり枝道が出てくるが、『ポインター』を埋め込み探索しても、何も成果は挙げられなかった。

 枝道の奥にはゴブリンたちの食べ残しの骨や、ボロ布のようなガラクタが無造作に捨ててあった。

 そのガラクタにはなんの手がかりも無いので、全てが無駄足に終わった。


「なかなかゴブリンたちいませんね。こんなに奥まで来ているのにおかしいですね」


 相当奥深くまで潜ってきた。

 探索も既に一時間以上おこなっていた。

 俺は不安になってキッドさんに質問をする。


「キッドさん、洞窟の前にたむろしていた五匹で、ゴブリンたちは全部だったんじゃないのですかね。洞窟内には居ないのでは?」


「いや、必ずゴブリンはこの洞窟内に居るはずだ。ゴブリンは暗がりを好む習性がある。目の前に洞窟があるのに、その前で暮らしていることは考えられないんだよ。それにゴブリンだって少しの持ち物を持っているんだ。それが見当たらなかったから、あの五匹は見張りに違いないんだよ」


 確かに言われてみればそのような気がしてくるから不思議だ。

 ステータス画面を開いて洞窟の内部を見ると、複雑ではないがどんどん地下に潜っていっていることがわかった。

 周りの空気も一段とカビ臭くなってきて腐臭も強くなってきている。


「ユウヤ見てみろ、ゴブリンのくそが落ちているぞ。かなり新しいものだからここにゴブリンが居ることが証明されたな」


 いつゴブリンが姿を表してもおかしくないので、周囲を警戒しながら小声で話しかけてきた。

 更に道の端を指差して俺に注意を促した。


 道端には細いがとぐろを巻いている大便が落ちている。

 このようなところに人間が住んでいるはずがないので、間違いなくゴブリンのものだろう。

 ゴブリンが生活している生々しい証拠を見た瞬間、心臓が締め付けられるように痛み、俺はその場に倒れ込んだ。

 ここが紛れもなくゴブリンの巣であり、いつ襲われてもおかしくない状況をリアルに感じ取ってしまった。

 暗闇からゴブリンが今にも出てきそうでパニックに陥ったのだ。


「うあぁぁっ!」


 急に心臓が早鐘のように鳴り響き目の前が赤くなっていく。

 気分が悪くなり冷たい汗が滝のように流れ出した。

 完全に恐慌きょうこう状態に陥った俺は、地面にうずくまって頭を抱えてしまった。


「ユウヤ、落ち着くんだ。ここで慌ててしまったら生きて地上に戻れないぞ。大きく深呼吸をするんだ。いいな?」


 顔面蒼白になって震えている俺をなんとかなだめようと、キッドさんが背中に手を回した。

 軽く革鎧を叩いて俺を介抱する。


「いいか、大きく深呼吸をするんだ。そう、それでいい」


 俺がキッドさんの指示通りに深呼吸をすると、恐慌状態が少しずつ改善してきた。

 視力がだんだん戻ってくる。



 ピロリンッ!


『スキル、『恐慌耐性』を獲得しました』


『スキル、『恐怖耐性』と『恐慌耐性』が『勇敢ゆうかん』に統合されました』


 目の前が一気に明るくなり体調が回復していく。



 ピロリンッ!


『スキル、『暗視』を獲得しました』



 さっきまでの慌てようが嘘のように落ち着く。

 心臓は平常まで心拍数が落ち、おまけに洞窟内が明るく感じられた。

 その明るさは尋常ではなく、昼間の森の中にいるような明るさだ。

 岩の小さな亀裂までもがよく見えて、全く怖くなくなってしまった。


「す、すみません。もう大丈夫です」


 キッドさんに謝罪をしながら起き上がる。

 顔色が元通りになった俺を見てキッドさんはびっくりしている。


「本当に大丈夫なのか、もう少し座っていたほうがいいのではないか?」


「いえ、もう平気です。完全に元通りになりましたからね」


 短剣を握り直し盾を構える。

 通常通りの俺にキッドさんはいぶかしがっていた。


「行きましょう、ゴブリンたちを倒しましょう」


 しっかりと宣言してキッドさんを見る。


「本当に大丈夫なんだな? よし……、それでは探索を再開しよう」


 キッドさんは半信半疑ながらも探索再開をした。





 洞窟でのパニックを乗り越え俺はまた一歩強くなった。

 そしてピンチのたびに強化していくステータスに、頼もしさを感じるとともに少しだけ不気味さを覚えるのだった。





 ー備考ー


[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『剣技』『防御』『体捌たいさばき』『投擲とうてき』『突き』『連続突き』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『勇敢ゆうかん』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]


・NEWスキル……『勇敢ゆうかん』(『恐怖耐性』と『恐慌耐性』が統合)、『暗視』


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