30.秘密の暴露
「それでは話を聞いてもらえますか? なぜ俺があれだけの戦闘能力を持っているのか。そしていろいろな便利なスキルや魔法を持っているのか」
落ち着いたところでゆっくりと話しを切り出す。
「ああ、聞かせてもらうよ。ユウヤが話せる範囲でいいからな、誰にも言わないことをもう一度誓おう」
「わかりました」
キッドさんを真正面に見ながら真剣に話し始めた。
「今から言うことは全部本当のことです。キッドさんがどう思うかは勝手ですが、俺が嘘を言っていないことだけは信じてください」
「わかった」
「俺はこの世界の住人ではありません、異世界から転移してきたんです」
そこまで言ってキッドさんの様子をうかがう。
突飛な告白に怒り出したり笑いだしたりするかと思ったが、かなり真剣な顔をして俺を見つめていた。
「信じてくれるのですか? 言っている俺でも奇妙なことを言っている自覚はあります」
「大丈夫だ。ユウヤの目を見れば嘘を言っていないことぐらい俺にもわかる。それに思い当たる節もある」
「思い当たる節ですか?」
俺は困惑してしまう。
キッドさんはなにか知っているのだろうか。
「ああ、後で話すから先を続けてくれ」
「わかりました」
一息深呼吸をしてから静かに話し始める。
「俺は異世界で一度死んだんですよ。そしてこの世界に転移してきました。その時に神様からいろいろなスキルをもらったんです。『万能言語』というスキルを知ってますか? どんな言葉も話せるスキルだそうです。そして『無限収納』は知ってますよね、それも一緒にもらいました」
「神か……、ユウヤ、その話もう少し詳しく聞かせてくれないか」
キッドさんは一瞬驚いた顔をした後で深刻そうな顔をして質問してくる。
明らかに何かを知っている顔だ。
俺は少しの間、黙って考えてしまった。
女神様のことを具体的に話してもいいのだろうか……。
言った場合にキッドさんはどんな態度を取るのか、とても不安だった。
「キッドさん、教えてもいいですが、絶対に誰にも言わないでください。そうしなければ俺は街を出ていかなくてはならなくなります」
女神様のことが街中に知れ渡るのは絶対に避けなければならない。
最悪の場合、教団に身柄を拘束されてしまうかもしれない。
ここまで話してしまったが、だんだん怖くなってくる。
「大丈夫だ、俺の冒険者人生に誓って誰にも言わない、教えてくれ」
「女神……、女神イシリス様です。俺にスキルを授けてくれた神様のお名前ですよ」
長い沈黙の後、俺は意を決して名を告げた。
キッドさんは押し黙って考え込み固まってしまった。
その様子を俺はじっと見つめていた。
「そうか……、やはりユウヤは超越者なのかもしれないな……」
妙に納得した顔でキッドさんはつぶやく。
「超越者ってなんですか?」
「超越者というのはな、ユウヤのように異世界から来る人間のことだ。極稀にだが突然、強い力を持った人間が現れることがある。古い文献にも時々でてくる事があるんだよ。おとぎ話にも登場したりするな」
「越えてくる者ですか……。俺は超越者なのでしょうか。もう少し詳しく教えてくれませんか?」
詳しく知っていそうなキッドさんに話をせがむ。
「いや、俺も詳しくは知らないんだよ。おとぎ話にでてくる超越者は、奇跡を起こしたり、魔王を討伐したり。果ては魔物の居ない理想の国を建国したらしい。その多くの超越者伝説に関わっているのが女神イシリス、この世界をお作りになった最高神だ。そして超越者は女神様から強大な力を授かることが多いんだ。あくまでも物語の中の話だ、全て信用してはいけないぞ。文献の方は聞きかじりでよくわからない、すまないな」
「そうですか……、わかりました。今度街に戻ったときにでも自分で調べてみますよ」
冒険者ギルドの図書室がちらりと脳裏に浮かぶ。
あそこなら何か情報が手に入るかもしれない。
「それがいいだろうな。 ……ところでまだユウヤの強さの秘密を教えてもらってないぞ。言葉を話せたり物をたくさん収納できるだけでは強くはなれないだろ? こう見えても俺は、若い頃に冒険者界隈で名を馳せたアタッカーだったんだ。今でも攻撃力には自信がある。その俺より森林狼たちを多く倒した秘密を教えてくれないか」
キッドさんは本来の話題に話を戻してきた。
これ以上は俺の過去には関わらないほうがいいと判断したのだろうか。
もとより強さの秘密は教えるつもりだった。
催促されるがままに俺の強さの秘密を語ることにした。
「俺、人より早くスキルを習得できるんですよ。『超熟練』というスキルを持っているんです。先程の戦闘中もかなりのスキルを取得しました。ゴブリンと戦ったときよりも今は数段強いんですよ」
強さの秘密をキッドさんに教える。
最初の内は静かに話を聞いていたキッドさんが、とうとう黙っていられなくなり質問してきた。
「ちょっと待ってくれ、いまスキルをどんどん取得すると言ったよな? 『超熟練』なんてスキルは聞いたことがないぞ、スキルってのはそんな簡単に取得できるものじゃないんだ! 苦労して、血反吐を吐くほどの修行をして数年に一つほど取得するものなんだ。三つあれば一人前の冒険者だと認められるほどに、スキルの取得は難しいんだぞ!」
キッドさん自身も苦労をしてスキルを取得してきたのだろう。
一言一言噛みしめるように言葉を紡いでいく。
「そうなんですか? 知らなかったですよ……」
「……ちなみに、今ユウヤはいくつのスキルを持っているんだ?」
キッドさんが鋭い表情で聞いてくる。
目がとても怖い。
本当のことを言ってもいいのだろうか……。
「なんか怖いんですけど……、怒らないでくださいよ?」
「すまん、少々興奮していたようだ。怒ってないから安心してくれ」
キッドさんは無意識に俺を睨んでいたことに気づいて謝罪してくる。
俺はキッドさんが落ち着いたのを見計らって、ステータス画面を開いて全てのスキルを数えていった。
「二十一個です……。俺が今取得しているスキルは魔法や加護を入れて二十一個です」
「でたらめだ!」
大きな声を出してキッドさんが立ち上がる。
森の中から多数の鳥が羽ばたき逃げていった。
キッドさんは拳を握りしめて目を見開き、信じられないという表情で俺を見る。
顔色は蒼白で唇は青い。
相当なショックを受けたらしく、全身がブルブルと震えていた。
しばらく無言で立っていたが、ようやく落ち着いたキッドさんが力なく座る。
「すまない……、取り乱してしまったな。魔物の生息する奥地で大声を出すなんて冒険者失格だな……。しかし、あまりのことに我を忘れてしまったんだ。決してユウヤに対して怒っている訳ではないからな」
未だに青白い顔をしてキッドさんが語りかけてくる。
「ユウヤ、今話した内容は誰にも言ってはいけない、君は間違いなく超越者だろう。聞いた俺から言うのも何だが、本来なら俺にも言ってはいけなかったんだぞ。魔法はともかく加護とはなんだ? 恐ろしくてこれ以上は聞けないぞ……」
「加護は一般的ではないのですね? 持っている人はいるのですか?」
「俺の知る限り加護持ちなんていないな。持っているとすれば、それこそさっき言ったおとぎ話の人物たち位だぞ、彼らは英雄だ。勇者と呼ばれた人物も加護持ちのはずだ」
キッドさんが丁寧に説明をしてくれた。
『イシリスの加護』はかなりやばい物なのだろうな。
女神様の名前が入っているんだから間違いないだろう。
キッドさんはそれ以上俺のことを聞いては来なかった。
聞いてしまえば秘密に押しつぶされてしまうと思ったのかもしれない。
「まあユウヤが超越者だったからこそ、こうして生きていられるのかもしれないからな。あの数の狼たちを俺一人で捌ききれたかと言うと少々疑問が残る。この話はこれぐらいにしよう」
キッドさんは話を切り上げ立ち上がった。
「わかりました」
俺も慌てて立ち上がり、探索の準備を始めた。
「ここからは通常通りの探索に戻る。まずは滝の洞窟へ向かうぞ、ゴブリンたちが住み着いている可能性が一番大きい場所だ、油断するなよ」
「了解です!」
完全防備で剣を構え、俺とキッドさんは移動を開始する。
森の奥には様々な生物が待ち構えているだろう。
気合を入れ直した俺は、辺りを警戒しつつ一歩ずつ足を踏み出すのだった。




