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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
29/90

29.戦闘の勝利と速やかな離脱

 森林狼の群れとの戦闘に勝利して一息ついた。

 周りにはうず高く狼たちの屍が積み上がっていた。




 見事一刀のもとに首が刎ねられ周囲に散乱している死体は、全てキッドさんが倒した個体だ。

 四肢を切断され、だるま状態になった死体もある。

 最初に襲ってきた狼などは真っ二つになってその表面をテカらせていた。

 全ての死体に共通することは、切れ味が鋭い刃物で殺害されたこと。

 同じことをやってみろと言われても絶対に出来ないことは明白だ。

 伊達に『剣人』のスキル持ちではない、キッドさんの圧倒的な戦闘力を見せつけられて戦慄を覚える。



 対して俺が倒した狼たちは、かなり凄惨せいさんな姿をさらしていた。

 短剣で滅多刺しにされた腹から臓物をはみ出させ、苦しげに目をむいて舌を出した狼たち。

 切り裂かれた臓物からは糞尿が撒き散らされて、凄まじい悪臭を放っていた。

 どこからか大量のハエが集まってきて臓物や血溜まりにたかっている。


 めった刺しにされて失血死した狼が恨めしそうにこちらを睨んでいた。

 武器が短剣ということもあり、このような現状になってしまい、襲ってきた敵ながら気の毒になった。


 倒した森林狼の数はキッドさん九匹、俺が十一匹だ。

 驚くべきことに先日までサラリーマンを生業なりわいにして、殺生とは無縁の生活をしていた俺が、殺しのプロと言うべきゴールドランクのキッドさんの討伐数を二匹も上回っていた。


 戦利品の剥ぎ取りをしている間中あいだじゅう、俺とキッドさんは押し黙り作業を続けていた。

 魔物ではない森林狼は魔石を持っていない。

 その代わりに肉や毛皮を売ることができた。

 そんな狼たちにも討伐部位はある。

 森林狼の討伐部位は、大きな口に生えている一番長い犬歯、いわゆる牙だった。

 短剣の柄頭つかがしらで牙の根本を強く押すと、メキッと音がして牙が折れる。


[森林狼の牙一対…… 価値、銅貨二十枚]


『真理の魔眼』で価値を調べると、正確な値段が表示された。

 あまり高額にならないのはなぜだろうか。

 圧倒的に倒しやすいスライムの核は、一つで銅貨五十枚だったのに訳がわからない。

 色々疑問は残るが、今は作業を優先しよう。

 手早く麻袋に十一匹分の牙を集め、袋を固く紐で結わえ付けた。

 討伐部位でパンパンになった袋を『無限収納』へ放り込む。


 次は肉や毛皮の剥ぎ取りだ。

 本来ならその場で毛皮を剥ぎ取り、肉を小分けにするのが一般的なやり方だった。

 しかし今回は二人で二十匹という、あまりにも大量な獲物を倒すことができてしまい、少々困ったことになってしまった。

 キッドさんは自分の倒した狼たちの討伐部位を剥ぎ取り終わったようで、俺の方に近寄ってきて話しかけてきた。


「ユウヤ、この狼たちはこの場に放棄していこう。惜しいとは思うが解体している時間はない。もうすぐ血の匂いに誘われてゴブリンやワイルドベアーたちが姿を表すだろう。そうしたら戦闘になるのは必至ひっしだ。疲弊ひへいした今なら負けてしまうかもしれない。速やかに撤退するぞ、これはリーダー命令だ」


 有無を言わさずキッドさんが決断する。

 俺はキッドさんの助手扱いなので反対する権限も意思もなかった。


「わかりました。でもその前に『無限収納』に入るだけ狼を入れてみてもいいですか? 入れるだけなら時間もかかりませんからね。それに俺の『無限収納』は時間が止まるじゃないですか? だから腐ることもないと思うんですよ」


「なるほど、やって見る価値はあるかもしれないな。よし、入れてみてくれ。無限収納というくらいだからかなりの容量が入るのだろう?」


 俺の提案にキッドさんは快く賛成をしてくれる。


「多分無限に入りますよ。試したことは有りませんが、大丈夫だと思います」


 俺は答えながら足元の狼たちを収納していった。

『真理の魔眼』で『無限収納』を調べたときに、「物体を際限なく収納できるスキル」だと説明を受けた。

 そのことから全ての狼たちを収納できることは確定していた。


 次々に狼たちが俺の手の平から収納されていく。

 面白いように吸い込まれていく狼を、キッドさんが呆れ顔で見ていた。

 二十匹全ての狼が『無限収納』に収まった。

 もちろんキッドさんが切り飛ばした頭や四肢も余すこと無く収納した。


「驚いたな……、まさか全てを収めてしまうなんて……」


 目を見開いてキッドさんが立ち尽くしている。

 辺りには狼の死体は既になく、血溜まりにたたずむ俺とキッドさんしか居なかった。

 二人とも体中が血まみれで嫌な匂いを放っている。

 このまま探索を続けることがどうしても我慢できない俺は、『クリーン』を唱えたい衝動にかられていた。


(う~んどうしようかな、キッドさんに魔法を使えることがバレてしまうな……。でもこのままでは気持ち悪いしな……)


 ねっちょりと体中に張り付いている狼たちの血液や、ひどい悪臭を放つ糞尿をどうにかしたい。

 悩みに悩んだ結果、俺は結論を出した。


(よし! キッドさんには出し惜しみは無しだ!)


「クリーン!」


 キッドさんに近づくと生活魔法の『クリーン』を唱える。

 たちまちのうちに俺とキッドさんの体が綺麗になっていく。


「なっ! まさかユウヤは魔法も使えるのか!?」


「まあ詳細はこの場を離れてからお話ししますよ。時間がないんですよね? 行きましょう」


 言い訳をまだ考えていない俺は、適当なことを言ってキッドさんをかせた。


「ああ、そうだな。よし、移動しよう!」


 まだ少しだけ驚いた顔をしているが、そこは歴戦の冒険者であるキッドさんは立ち直りが早かった。

 素早く目的地の方角を割り出し、移動を開始した。




 キッドさんが前を歩き俺がそれに続く。

 しばらくは周囲を警戒しながら無言の行軍となる。

 その間に、先程の戦闘や『無限収納』の事、魔法を使ったことなどを頭の中で整理していった。


 相変わらずスキルがどんどん取得できる。

 既に数えられないくらいの数のスキルがステータス画面の上に踊っていた。

 ステータス画面を横目に見ながら警戒の手も緩めない。

 足元には注意が必要だが『身体能力向上』のスキル取得も手伝って、道なき行軍も余裕でこなせるようになった。


「よし、ここまでくれば大丈夫だろう。ユウヤ、休憩がてらに食事を摂ろう。それから君のことを少し聞かせてくれ」


「わかりました」


 斜面に大きな岩が埋まっていて丁度良く目隠しになっている。

 岩影に背を預け腰を下ろし、『無限収納』からオレンジジュースを出す。

 木のコップに波なみと注ぎ、キッドさんに差し出す。


「悪いな、いただくよ」


 嬉しそうにキッドさんはジュースを受け取ると一気にラッパ飲みに飲み干した。


「う~ん! うまい! よく冷えていて凄く美味しいな!」


「お代わりどうですか?」


「ありがとうよ、もらうぞ」


 二杯目をゆっくりと飲みながらしばし休む。

 俺もオレンジジュースを飲みながら、無言で落ち着くまで座っていた。



 暫くしてからクリスティーナさんが作ったお弁当を出す。

 これでお弁当は無くなってしまったが、狼の肉も手に入ったし野菜もまだ少しだけある。

 それに俺の『無限収納』には屋台で買った惣菜や市場で購入した大量の食料が詰められている。

 この先何日でも余裕で野営をすることができた。


 ホカホカの弁当を食べながら熱々の野菜スープを飲む。

 大自然の中で食べる弁当は、体を動かした後なので特別美味しく感じられた。

 一時間も経たない前に戦闘で臓物や血溜まりを見たのに全く食欲がなくならない。

 たぶん『グロテスク耐性』が常に働いているおかげだろう。



 食後のメンドル茶をキッドさんに淹れて、俺は冷たい水を飲む。

 キッドさんは俺が離し始めることを無言で待っていた。


「それでは話を聞いてもらえますか? なぜ俺があれだけの戦闘能力を持っているのか。そしていろいろな便利なスキルや魔法を持っているのか」


「ああ、聞かせてもらうよ。ユウヤが話せる範囲でいいからな、誰にも言わないことをもう一度誓おう」


「わかりました」


 あまり手の内をばらしてはいけないのが冒険者の常識だが、数日一緒に活動して、森林狼との戦闘という死線も共にくぐり抜けた。

 高々数日だがこの世界に転移して色々親身になって教えてくれた人だ。

 それにもう限界だった。

 俺は一人で生きるにはあまりにも弱すぎた。





 誰かに聞いてもらいたい。

 その一心でこの世界に来た経緯をゆっくりと、静かに語りだすのだった。

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