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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
28/90

28.戦闘

 ウォォォォン!


 突然、獣の鳴き声が聞こえた。

 犬の鳴き声に酷似しているが、かなり低めの鳴き声で腹にずしりと響いてくる。

 鳴き声の数はどんどん増えて重なっていき、終いには四方八方、全方位から聞こえてくるようになった。

 未知の敵との戦闘という緊張から胃がキリキリと痛みだした。


「囲まれたようだな、ユウヤ、木の幹を背にして身を守れ。森林狼は直線的な攻撃が多いが集団で襲ってくる。後ろを取られたら厄介だぞ、戦闘は俺に任せろ。ユウヤは襲ってきた狼だけを相手にすればいい」


 キッドさんは幅広の長剣を両手で構え、近場の太い木の幹を背にした。

 キッドさんの位置はちょうど俺の右の位置、距離は三メートルほど離れている。

 俺も慌てて木の幹を背にしてキッドさんの真似をする。

 短剣を構え盾を握り直した頃には、ガサ藪の中に巨大な動く物体が見え隠れし始めた。

 森林狼の数はまだわからない。

 しかし数匹程度の群れではないことはわかる。

 見え隠れしている個体数だけでも五匹以上確実にいるのだ。

 鳴き声は一定の距離からだけではなく森の奥からも聞こえている。

 推定の粋を出ないが、十数匹から下手をすれば二十匹を越えているかもしれない。


「キッドさん! 数が多すぎませんか!? 身を守れる自信がありません!」


 俺はキッドさんの顔を見ながら泣き言を言ってしまった。

 数日前までサラリーマンだったので、当然のごとく命のやり取りなどには慣れていないのだ。

 ましてや、戦闘などまるっきりの素人なので、どうしていいかわからず混乱してしまう。


「いいか、全部相手にする必要はないぞ! こちらが強敵だとわかれば狼たちは逃げていく。ユウヤは防御することだけを考えろ、俺が狼たちを倒すまでなんとか踏ん張るんだ! 弱音を見せれば食い殺されるぞ、しっかりしろ!」


 周囲のガサ藪を睨みつつ俺に檄を飛ばすキッドさん。

 その説明を聞いて俺は覚悟を決めた。


「わかりました! なんとかしてみます!」


「その意気だ! 獣たちに冒険者の恐ろしさを思い知らせてやろうじゃないか!」


 長剣で足元の雑草を薙ぎ払いキッドさんが叫ぶ。

 俺も短剣を握り直して腰を深く落とした。




 ガサ藪が一気にざわめき騒がしくなる。

 そして雑草をかき分けながら何頭もの森林狼が姿を現した。

 狼と言うくらいなのでハスキー犬の体格を一回りほど大きくして、凶暴にしたものと俺は勝手に想像していた。

 しかし目の前の森林狼は、想像していた狼の姿とはかけ離れていた。


 まず森林狼の巨大な体格にびっくりしてしまった。

 体長は尻尾の先まで入れれば三メートル以上あるのではないだろうか。

 全身が硬そうな灰色の毛皮に包まれていて、とてもじゃないが俺の短剣では傷をつけられそうにない。

 さらに大きな頭が普通の動物の域を超えている。

 身体の三分の一くらいありそうな巨大な頭に、大きな口から鋭く長い牙が何本ものぞいている。

 目はギョロ目で血走っていて、こちらを睨みつけている。

 さらに絶望的なのは、全身の筋肉がムキムキに発達していて、灰色の毛皮を押し上げていることだ。

 丸太のように太い四肢ししには太く鋭い爪が生えていて、歩くたびにその太い爪が地面を深くえぐりガリガリと音を立てていた。

 観察して出した俺の結論は、俺では一対一でも絶対に勝てないということだった。



 絶望の戦闘が始まる。

 攻撃は突然前触れもなく狼たちの突撃から始まった。

 一匹の森林狼が極太の前足をキッドさんの首筋めがけて突き出し、牙をむき出しにして飛びかかってきたのだ。

 驚異の跳躍力で一気に飛びかかる森林狼。

 空中を飛ぶ狼のあまりにも巨大な体格に驚かされてしまう。

 それを迎え撃つべく長剣を構えたキッドさんが一歩前に出る。


「はぁぁぁっ!」


 キッドさんが鋭い掛け声とともに構えた長剣を上段から振り下ろす。

 キッドさんの身体が一瞬光り、剣が高速で振り下ろされた。

 一陣の風とともに狼の身体が左右に切り別れてキッドさんの横をすり抜けていく。

 さらに鋭い爪が生えた両前足があらぬ方向へちぎれ飛ぶ。

 二枚におろされた森林狼は地面に叩きつけられて即死した。

 目の前の状況に理解が追いつかない。

 一瞬この場の状況を忘れて凝視してしまった。

 狼の死体を見ても何が起こったのかはわからない、しかしキッドさんが強いことだけはわかる!


「油断するな! 次々にくるぞ!」


 俺が呆けたように棒立ちになっているのを見てキッドさんが叫ぶ。

 叫び声で現実に引き戻された俺は短剣を構え直した。


 目の端に森林狼が一直線にこちらに走ってくる姿が見えた。

 かなり怖いがやるしかない。

 俺は腹をくくって襲いくる森林狼と対峙した。

 一筋の淡い光が狼からこちらに流れ出ているのが見え、その光から逃れるように半身だけ横にずれた。

 スキル『予測回避』が発動して、森林狼の攻撃の軌道が俺には見えたのだ。

 ギリギリ目の前を狼の鋭い爪が通り過ぎる。


(あ、危なかった! もう少しで顔の肉を持っていかれるところだった!)


 俺に攻撃をかわされた狼は、そのまま大きな音を響かせて樹木の幹にぶち当たった。

 極力冷静に行動して、森林狼の目玉めがけて短剣を突き入れる。


 ギャンッ!


 森林狼が盛大に吠える。

 短剣は鋭く素早く頭蓋骨を貫通して、致命傷を与えた。

 狼が死に際の痙攣けいれんをして暴れだす。

 素早く短剣を抜き去り後ろに下がると、さらに新手の攻撃が『予測回避』で捉えることができた。



 二匹同時に飛びかかってくる軌道が薄っすらと見える。

 その軌道に沿って狼が襲ってくるが、軌道がわかっているので簡単に回避ができる。

 体も何故かわからないが素早く動くことができた。



 ピロリンッ!


『スキル、『身体能力向上』を獲得しました』



 狼たちの攻撃を素早く避け、柔らかそうな腹に短剣で鋭い突きを連続で入れる。

 無我夢中で突きを入れて狼に致命傷を与えた。



 ピロリンッ!


『スキル、『体捌たいさばき』を獲得しました』


『スキル、『連続突き』を獲得しました』



 脳裏にスキル獲得のお知らせが次々に鳴り響く。

 しかし無心で動く今の俺は、さらなる森林狼の攻撃を受け流すことに精一杯だった。

 大量の血液の生臭い匂いや、腹を傷つけたために臓物から漏れ出した糞尿の匂いが漂い始め、森林狼の死体が周囲に積み上がっていく。

 それでも狼たちの数は増えていくばかりだった。



 唐突に斜め後ろから首筋を淡い光がかすめる。

 俺は素早く体を反転して死角から襲ってきた狼の噛みつきを盾で受け流した。

 盾は大きな音を立てて狼の頭を跳ね返す。



 ピロリンッ!


『スキル、『受け流し』を獲得しました』


 頭を跳ね返されてもそのままのしかかろうとしてくる狼の懐に入り込み、動きを止めずに短剣を狼の腹に沿って一気に引き切った。

 狼は柔らかい腹をぱっくりと切り開かれ、内臓を撒き散らしながら痛みに暴れまわっている。

 そのスキに元いた樹木からキッドさんの居る樹木へと移動をした。



「驚いたな……、ユウヤ、君は一体何者なんだ……」


 合流したキッドさんは、俺の戦闘に度肝を抜かしていた。


「……自分でも驚いています。しかし今は話しているときではありません。詳細は戦闘の後で話します」


 間違いなく獲得したスキルのおかげだろう。

 自分でもいまだに信じられないのだが、増え続ける狼たちを倒すことが優先なのだ。


「わ、わかった。ユウヤが戦力として十分に通用することがわかったので、こちらから仕掛けるぞ」


「わかりました!」


 体が異常なほどに動く、剣も問題なく扱える。

 敵の攻撃もかわせるし、何より敵の攻撃がわかるのだ。

 ゴブリンとの戦闘時より、明らかに俺の戦闘能力は上がっていた。

 驚きと戸惑いが心の大半を占めてはいるが、妙な高揚感が湧き上がってくることが感じられた。




 俺とキッドさんは左右に展開して森林狼たちに突撃した。

『予測回避』で森林狼達の攻撃の軌道が俺やキッドさんの周りを飛び交っているのが見える。

 左から飛びかかってくる森林狼の懐に入り、短剣を腹に突き刺す。

 素早く抜き去り、『一撃離脱』を発動して瞬時に次の目標に移動する。

 盾をかち上げ狼の頭をけ反らせると、首筋に短剣をめった刺しする。

 その間中、隣のキッドさんが居る方向から、長剣が振り回される鋭い音が聞こえていた。


 俺の戦いは盾でいなして短剣で突き刺す細かい動きだが、キッドさんは違う。

 幅広の長剣を両手で構え、鋭い一撃を狼たちに浴びせていた。

 切っ先は目で捉えることができない。

 俺の短剣より明らかに重量のある大剣をいとも簡単にあつかっているのだ。



 狼の屍がどんどん積み重なっていく。

 それに合わせて少しずつ前に移動していく。

 既に十数匹を倒して残りは少ないはずだ。

 狼たちの鳴き声もどんどん遠ざかっていく気がする。


「ユウヤ! あと少しだぞ! 狼たちが撤退を始めた。オレたちの勝利だ!」


 弾んだ声色でキッドさんが叫ぶ。

 キッドさんは叫びながら倒れ込んでいる森林狼の喉元に長剣を突き立てていた。


「わかりました!」


 俺も嬉しくなって返事をする。

 キッドさんの方を見ると死角から狼が襲いかかって来る軌道が見えた。

 キッドさんは少なからず疲労していたのだろう、その時、狼の攻撃に気づいていなかった。


「キッドさん危ない!」


 俺は大声で叫び攻撃を知らせる。

 それと同時に短剣を無意識に狼めがけて投擲とうてきした。


 スキル『投擲』が発動して、短剣は吸い込まれるように森林狼の眉間に突き刺さった。

 その速度は尋常ではなく、刀身が柄の部分までしっかりと埋め込まれた。

 キッドさんが慌てて長剣を振り、狼にとどめを刺す。

 しかし既に狼は絶命をしていてぐったりと横たわっていた。


「すまないユウヤ、助かったよ」


「危ないところでした」


 お互い顔を見合わせて苦笑いをする。

 その頃には周囲から狼たちの鳴き声は無く、かすかに遠吠えが聞こえるだけだった。



「終わったかな?」


 周りを見渡しながら俺はつぶやく。


「ああ、終わったな……。思ったよりも大群だったみたいだ……」





 辺一面に森林狼の死体が転がっていた。

 いまだに信じられないが、約半数が俺が倒した狼たちだ。

 危機は去ったので戦闘の後処理が始まろうとしていた。





 ー備考ー


[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『剣技』『防御』『体捌たいさばき』『投擲とうてき』『突き』『連続突き』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『恐怖耐性』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]


・NEWスキル……『身体能力向上』『体捌たいさばき』『連続突き』『受け流し』

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