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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
26/90

26.見張り

 食事の後、装備の手入れを入念に行ってから見張りの順番などを決めることにした。


「見張りの順番だが最初はユウヤにやってもらう。火が消えないようにかまどの世話をしてくれていればいいぞ。野生動物たちは大半が火を恐れる。魔物は近づけば結界が教えてくれる。居眠りだけはしないこと、わかったな?」


「わかりました」


 緊張しながらキッドさんの話を聞く。

 キッドさんはおもむろに『収納』から懐中時計を取り出した。


「今は午後の八時だ、午前零時になったら起こしてくれ、そこからは俺が見張りをする。明日は午前五時に起床して、朝食をとった後に探索を再開しようと思う」


 懐中時計を俺に見せながらキッドさんが言った。


(異世界にも時計はあるのか、だったら腕時計を見せても大丈夫だろうな)


 俺はあらかじめ腕から外して腰につけた巾着袋にしまっておいた腕時計を取り出した。

 現代日本から持ってきた高性能な時計なので、なるべく他人には見せないようにしていたのだ。

 キッドさんが懐中時計を俺に渡そうとしてくる。


「キッドさん、俺も時計持っているんですよ。懐中時計いらないですよ」


 自慢の腕時計をキッドさんに見せる。


「ん? 変わった時計だな。それにピカピカしていてかなり精巧な作りだ。腕に巻いて使うのか? なかなか機能的だな!」


 俺が色々説明するとキッドさんはとても感心して腕時計をまじまじと見ていた。


「ユウヤ、何処どこで手に入れたか深くは聞かないが、この時計はとんでもない価値があるぞ。むやみに人に見せることはしないほうがいい。わかったな」


 神妙な面持ちでキッドさんが忠告してくる。


「ええ、キッドさんにしかまだ見せてませんよ。俺の秘密をキッドさんは知っているからいいかなと思ったんですよ」


「そうか……、信頼してくれるのは嬉しいが、とにかく秘密にすることだ。悪党に狙われてしまうからな。それでは俺は先に寝かせてもらうぞ」


 キッドさんはゆっくりと立ち上がるとテントへ向かって移動を開始する。

 残された俺は腕時計をはめて、かまどに追加で薪をくべた。

 野菜スープ入りの鍋は俺の『無限収納』に入れてある。

 明日の朝に温かいスープを飲むためで、キッドさんに頼まれたのだ。


 キッドさんがテントへ消えてから十分ほど経過した。

 これから四時間、一人だけで見張らなくてはいけない。

 腰から外して置いた短剣を静かに腰に差す。

 辺りを見渡すと広場の外側は木々が生い茂っていて闇が広がっている。

 改めて闇を覗くと吸い込まれてしまうような感覚におちいった。

 心の奥底から急に恐怖が湧き上がってきた。


 ガサッ……


 後ろのガサやぶがかすかに音を立てる。

 飛び上がるほどびっくりして剣のつかに手をかけて飛び起きる。

 しばらく息を殺してガサ藪を睨んでいたが、危険な物など飛び出しては来なかった。

 おおかた虫が飛び跳ねたのだろう。

 この森の虫はみんな巨大だからな。


 ふと空を見上げる。

 満天の星が夜空を覆い尽くしていて思わず唸ってしまった。

 都会に住んでいた俺は、体験したことがない光り輝く星々を見ながら、異世界の自然に感動してしまった。

 飽きるまで夜空を眺めていたら、少しだけ肌寒くなってしまう。

 チラリと腕時計を見ると時刻は九時近くなっていた。


 かまどに薪を追加でくべる。

 火力が戻って勢いよく燃える火をじっと見つめながら冷えた体を温めた。




 一時間、二時間と時間が過ぎていく。

 暇なのでステータス画面を出して、新たに獲得したスキルを確かめることにした。


(ステータスオープン)


 暗闇にうっすら明るいステータス画面が現れる。

 画面自体が光っているようで文字がよく見える。

 これなら真っ暗闇でもステータスの確認はできそうだ。



[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『剣技』『防御』『投擲とうてき』『突き』『一撃離脱』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『恐怖耐性』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]



(ええと……、どこまで調べたかな……)


 順を追って見ていく。


(万能言語、無限収納、真理の魔眼、全能回復、超熟練……、ここまでは調べたような気がするな。予測回避! そうだ予測回避はまだ調べてなかった)


『予測回避』を注視してスキルの効果を調べる。



『予測回避は危険回避の上位スキルです。未来の事柄を事前に予測して可視化します。攻撃の軌道や魔法の影響範囲などが目視できるようになります』



 一人で見張りをしているので、イシリスさんの声が聞こえてきてホッとしてしまう。

 イシリスさん本人が直接喋っているわけではないだろうが、懐かしい声を聞くだけでも嬉しいのだ。

 さらにどんどん調べていく。



『瀕死回復は即死攻撃を受けづらくするスキルです。本来即死するような攻撃でも瞬時に回復します。一日一回限定』


(またすごいスキルを獲得したもんだな……。これはもう首でもねられなければ死なないんじゃなかろうか……)



『剣技は短剣、長剣等を十全じゅうぜんあつかう上で欠かせないスキルです。このスキルは刀剣を扱うことに熟練した者に発現します』


『防御は盾を十全じゅうぜんに扱う上で欠かせないスキルです。このスキルは盾を扱うことに熟練した者に発現します』


『投擲はナイフなどの投擲武器を十全じゅうぜんに扱う上で欠かせないスキルです。このスキルは投擲武器を扱うことに熟練した者に発現します』


(う~む、初めて使った武器や盾で発現するようなスキルではないな。本来なら血がにじむような努力をして獲得するスキルなのではないだろうか)



『突きは鋭利な武器での突き攻撃で発現します。効果は本来の倍の攻撃力です』


(なかなかいいスキルだな、こういうスキルはどんどん獲得していきたいな)



『一撃離脱は攻防一体のスキルです。素早く攻撃をして素早くその場から離れる。このスキルが発動した場合、敵の攻撃は全て回避されます。一部無効の場合あり』


(なんか必殺技らしきスキルを獲得していたようだ。スライムを初めて倒したときにもらったような気がする。こんなに簡単に獲得していいのだろうか……)


 調べたスキル全てが、初心者冒険者である俺が獲得できる代物ではなかった。

 それを可能としているのはもちろんイシリスさんにもらった『超熟練』のおかげだろう。

 努力をせずにどんどん強くなっていって何だか申し訳ない気がしてきたぞ。


 この世界の冒険者達はたゆまぬ努力と命をかけてスキルを獲得するはずだ。

 俺はどんどんスキルを獲得できてしまう。

 女神様が知り合いだからって許されることなのだろうか。

 しばらくぼ~っとしながら焚き火の炎を見つめていた。

 後一時間ぐらいでキッドさんを起こす時間になる。

 残るスキルを急いで調べてしまおう。


(ステータスオープン)


 ぼ~っとしている間にステイタス画面が消えていた。

 もう一度、呪文を唱えて画面を出した。


(さて、後は耐性だな、クリーンは調べたし加護も調べたからな)


 残りのスキルを『真理の魔眼』で調べる。



『激痛耐性は耐性スキルです。激痛を緩和します』


『グロテスク耐性は耐性スキルです。吐き気を及ぼすほどの気持ち悪い事象でも平気になります』


『恐怖耐性は耐性スキルです。恐怖に強くなります』


(これはわかりやすいな。グロテスク耐性を獲得した瞬間から、ゴブリンの死体が気持ち悪く思わなくなったからな。それに恐怖耐性もすごいスキルだ。あの気持ちの悪い虫を、素手で掴んでもなんとも思わなくなったからね)


 探索の間、森じゅう虫だらけでしょっちゅう黒い虫が飛んできた。

『恐怖耐性』を獲得してからは素手で握りつぶしたり追い払ったり、日本にいるときでは考えられない行動をしてもなんとも感じなくなった。

 今も膝の上に黒い虫が止まっている。

 俺は素早く虫を握ると勢いよく森の中に投げ捨てた。

 黒い虫は空中で羽を出して飛び去っていった。


「一、二、三、四……」


 俺はスキルの数を数えていった。

 加護や魔法を入れると全部で十七個あった。


(なかなかの数だな、この調子でどんどんスキルを取っていこう)


 気分良く立ち上がると背筋を伸ばして深呼吸する。




 そろそろキッドさんを起こす時間だ。

 午前零時を二分ほど回ったのでテントに近づきキッドさんに声をかけることにした。





 ー備考ー


 この異世界ではスキルを三つ獲得することができれば熟練の冒険者なのです。

 ユウヤは既に十七個ものスキルを獲得しています。

 これは驚異的で、まさに人間を超越しているのです。

 この事にユウヤはまだ気づいていません。

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