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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
25/90

25.初めての野営

「ユウヤ、魔物よけの結界を張るからよく見ておくんだぞ」


 キッドさんは奇妙な杭を俺に見せてから真剣に作業を開始した。


 まず、下草を刈り取った広場の四隅に謎の杭を設置していく。

 杭は木製で五十センチぐらい。

 六角柱で片方の先端が鋭利に尖っていた。

 表面にはびっしりと謎の文字が書いてある。

『万能言語』で読み解けるかと思いのぞいてみたが、何が書いてあるかさっぱりわからなかった。


「野営で重要なのは言うまでもなく安全の確保だ。休息をとっている時が一番危ないから気をつけろよ」


 キッドさんは広場の隅へ杭を打ち込みながら詳しく教えてくれた。


「この魔除けの結界は七本一組の特殊な杭でできている。四隅に一本ずつ、そして少し離れた二箇所に一本ずつ打ち込む」


 広場から数メートル離れたところに一本の杭を打ち込む。

 そして広場をまたいで反対側にも一本打ち込んだ。


「これで六本の杭が打ち込まれた。最後に中央付近に特別な杭を打ち込むんだ」


 そう言って『収納』から取り出した一メートルほどの杭を地面に突き刺す。

 杭の先端には魔石に似たきれいな宝珠が取り付けられていた。


「ガード」


 キッドさんが短く呪文を唱えた。

 途端に杭の先に取り付けられていた球体が強い光を発した。

 その光はすぐ弱まったが、未だに淡く輝いている。


「何が起こったんですか?」


「いま呪文を唱えたろ? これで結界が完成したんだよ。この結界は弱い魔物を寄せ付けない。手強い魔物なら防ぎきれないが、音と光で接近を知らせてくれるんだ」


 キッドさんは得意になって説明する。


「こんなすごい魔道具があるなら、キッドさん一人でも大丈夫なのではないですか?」


 俺は感心したのと同時に疑問も湧き上がってきて思わす聞いてしまった。

 魔物を避けられるなら、俺みたいな初心者冒険者を連れてこなくてもいいはずだ。


「ユウヤ、今朝も言った通り一人では野営は難しいんだよ。この結界は便利だが欠陥もある。魔物の接近は感知するが、危険な動物たちには反応しないのさ。やはり見張りは必要ということだな」


 俺が質問したことは、初心者は誰でも考える疑問なのだろう。

 キッドさんは嫌な顔をせず丁寧に教えてくれた。


「そうなんですか、精一杯見張りをやらせてもらいます!」


 疑問も解消したので元気いっぱいに返事をする。


「おう、頼むぞ!」


 キッドさんは嬉しそうに言い放つと『収納』から野営をするための必要物資を取り出した。


「ユウヤ、テントを張るぞ。俺とお前だけだからテントはひと張りだけでいいだろう。ユウヤは寝袋は持っているか?」


「はい、持っていますよ」


 俺も『無限収納』に収められている中古の寝袋を取り出す。


「よし、広場の中央はかまどを設置する予定だから少し離れた所……、あの木下にテントを設置するぞ」


「わかりました!」


 俺はテントなんか張ったことはない。

 ましてやキャンプなどしたことがないので楽しくなってきた。



 テントは綺麗に折りたたまれて袋に収納してあった。

 巾着袋のような大きな袋を開封していく。

 中には頑丈で大きな布と一本の長い棒きれ、そしてくさびなどが入っていた。

 キッドさんはなれた手付きで布を地面に広げ、布の端を楔で地面に止めていった。

 そして長い棒を布の中央に差し込んで気合とともに立ち上げる。

 あっという間に三角錐さんかくすいのテントが立ち上がり驚いてしまった。


「ユウヤ中に入ってみろ、意外に広いぞ」


 キッドさんにうながされてテント内部に入ってみる。

 地面はむき出しで草が刈られた状態で、そのまま寝転ぶと虫にたかられそうだ。

 しかし寝袋に入って寝れば問題ないように思う。

 それよりもテント内部は風が全く無くてとても暖かかった。

 二人で寝るには少々狭いと思うが、どうせ一人は見張りに立つことになるはずだ。

 思いの外快適なテント内部に感心してしまう。



「よし、お次はかまどだな。広場の真ん中に設置するぞ」


「わかりました!」


 嬉しくなって元気に返事をする。

 キッドさんは満足げにうなずくと、かまどを設置するために移動していった。

 その後を俺もついていく。


「本来なら一人はかまどの設置で、他の者がまきになる木の枝などを探してきたり、飲水を水場からんで来るのが野営の迅速な行動だが、ユウヤは初めてだからよく見ておけよ」


「はい!」


 キッドさんは『収納』から大きめのレンガを取り出して次々に並べていった。

 ぐるりと円形に並べられたレンガに、これまた収納していた薪をくべていく。

 キッドさんの『収納』はなかなかの容量があるようだ。

 一抱えほどの薪をかまどの横にも出して積み上げる。


「今日のところは備蓄している薪を使う。燃料を節約する場合は明るい内に森の中で調達してくるんだぞ」


「はい!」


 レンガでできたかまどには、きれいに薪がくべられた。

 これで野営の準備は整ったようだ。

 最後にキッドさんは背の低い椅子を二脚出してかまどのそばに設置した。

 後は食材を料理して食べるだけだ。

 食材の確保はできなかったが、俺の『無限収納』にはクリスティーナさんが入れてくれた肉の塊や野菜がある。


「よし、手っ取り早くスープでも作るか。ユウヤ、クリスティーナが持たせてくれた食材を出してくれ」


 キッドさんに促された俺は、『無限収納』から肉の塊と野菜を取り出した。

 その間にキッドさんは火打ち石を出して薪に火を付けていった。

 おがくずに火打ち石の火花が飛び散り着火する。

 燃え移った火は、細かな枝をまたたく間に燃やし、最終的には薪全体が火に包まれた。

 しばらく燃やしていると全体的に火の勢いが弱まってきた。

 赤々と燃える熾火おきびが丁度よい火力になったことを知らせてくれる。


 かまどに網を敷き鍋をかけて水を入れる。

 水が沸騰するまでの間に食材の下ごしらえをすることになった。


「ユウヤ、芋の皮を向いて鍋に入れてくれ。適当に刻んで入れるのを忘れるなよ」


「了解です!」


 キッドさんの支持に従って野菜の下処理をした。

 一人暮らしで自炊をしていた俺はこの手の作業はお手の物だった。

 芋や根菜類を適当な大きさに刻んで鍋に入れていると、キッドさんが細かくした肉を鍋に投入した。

 パシャパシャと音を立てて鍋の中に肉が入っていく。

 味付けは塩と胡椒こしょう、そして香草だけのシンプルなものだが、野外で食べれば十二分に旨い料理になりそうだ。


 鍋に蓋をして出来上がりまで煮込む。

 段々といい匂いが鍋から漂ってきて思わず食欲をそそられた。


「肉がまだあるな。ユウヤ、ステーキ食べたいか?」


「ステーキですか? 食べたいです!」


 一日中歩きづめでおまけにスライムとの戦闘までこなした。

 正直スープだけでは体が持たないと思っていたのだ。

 現に今お腹の虫がグ~と鳴いて早く食わせろと催促していた。


 キッドさんは『収納』からフライパンを取り出すと、肉の脂身を投入した。

 徐々に脂身から油が溶け出してくる。

 頃合いを見て分厚い肉を二枚投入する。

 ジュワッといい音が聞こえて肉が焼ける香ばしい匂いが漂い始めた。

 味付けはこちらも塩と胡椒のみ。

 何かの草を入れていたが、いい香りがしたので香り付けの香草だろう。


 肉がこんがりと焼けた頃に鍋の方も出来上がったようだ。

 深皿にスープを入れ、追加で出したちゃぶ台のようなテーブルに置く。

 料理に気を取られて気が付かなかったが、辺りはすっかり暗くなっていた。

 俺は『無限収納』からカンテラを取り出してちゃぶ台の上に設置した。

 明かりをつけると淡い光に照らされて広場が若干明るくなる。


「おお、ユウヤいいもの持っているな」


 キッドさんも嬉しそうにカンテラを褒めてくれた。


「市場の雑貨屋で見つけたんですよ。掘り出し物です」


 皿を二枚用意してちゃぶ台に置く。

 キッドさんが出来たてのステーキを皿の上に置いてくれた。


「よしできたぞ、冷めない内に食べてしまおう」


 女神様にお祈りをして早速食べ始める。

 強めの焼き加減のステーキは、肉汁がよく閉じ込められていてとても美味しい。

 塩味の野菜スープも野外で食べているせいか妙に美味しくて食が進んでしまった。

 白パンはいくらでもあるとのことなので、遠慮しないで食べ進める。

 パンをスープにつけて一緒に食べると、これまた一層美味しかった。



 若い頃キッドさんが潜った迷宮の話や、その時の危険な罠のこと。

 九死に一生を得た魔物との戦闘など、興味深い話を聞きながら食事をする。

 俺の過去はキッドさんはあまり聞いてこなかった。

 キッドさんなりに気を使ってくれているのだろう。

 日本で満員電車に揺られていたなんて言えるわけないのでとてもありがたく思う。

 たっぷりと時間を掛けて夕食を食べ終えた。





 何事もなければ野営は楽しいものだ。

 ここが異世界で危険な森の中でなければ、お酒などを飲んで更に楽しく食事ができただろう。

 そのことだけが少しだけ心残りだった。

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