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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
24/90

24.順調な探索

 森で行う探索は、とにかく動き回って異変を感じ取っていく単純な作業だ。

 出発点から終点に向けてひたすら辺りを見渡しながら移動するだけ。

 少しでも気になったことが起これば、その場で方針をいちいち決めて行動をする。


 今回の探索の目的は、ちかごろ伐採所付近の森で見かけることが多くなったゴブリンの大規模な巣穴を発見すること。

 今はそれほど数は多くないが、放っておけば確実に数を増やして伐採どころではなくなってしまう。


 そして何よりも恐ろしいことは、ゴブリンという魔物は数を増やすと突然変異を起こし、強力な上位種が誕生してくるのだ。

 戦闘に特化したゴブリンファイターや、生意気にも呪文を唱えることができるゴブリンメイジなど、中級の冒険者達では歯が立たない魔物が生まれてしまう。

 そうなると危険レベルは一気に跳ね上がり、事と次第によっては軍隊を派遣してもらわなくてはいけなくなることもある。


 そして数がさらに多くなっていくと、最悪の場合ゴブリンキングというレアモンスターが誕生することがある。

 ゴブリンキングはその名が示す通りゴブリンの王様だ。

 普通のゴブリンの体格は人間の幼児ほど、背丈は一メートルにもみたないくらいだ。

 上位種であるゴブリンファイターたちも普通のゴブリンとそれほど変わらない。

 しかしゴブリンキングは驚異的な体躯をしている。


 古い文献によればゴブリンキングの体長は二メートルを優に超えるらしい。

 筋骨隆々で知能も高く、あろうことか配下のゴブリンたちを統率し支配する特殊能力まで兼ね備える。

 まさに王と呼ばれるにふさわしい魔物で、生半可な軍隊では刃が立たず、ゴブリンの大群に蹂躙じゅうりんされて滅んだ王国もいにしえの昔にはあったらしい。


 そのような危険なモンスターが発生しないように、ゴブリン駆除のクエストは、どんなに小さな街の冒険者ギルドにも常にあるのだ。

 そして森林警備隊のような公共機関も、自分たちの管轄内でゴブリンの間引きを日々行っていた。


 改めていうが今回の遠征の目的はゴブリンの巣穴の発見、そして巣穴が無い場合は増えてきているゴブリンの数を減らすことだ。

 俺はキッドさんと少しだけ間隔を開けて南に向かって進行を開始した。



 昨日まで雨が降っていた森の中は、急に気温が高まったことで湿度も高まりむっとした空気で満たされていた。

 そのねっとりと体にまとわりつく空気は、森の地面に敷き詰められた落ち葉からなんとも言えない臭気を立ち上らせていた。

 カビ臭い匂い、微生物が分解した土の香り。

 湿り気のある泥が革のブーツにまとわりつき、一歩ごとに足が重くなっていく。

 バランスを崩して倒木に手を付けば、苔むした表面がぬるりと剥がれ落ち、たちまち手のひらが泥だらけになってしまう。

 手のひらをよく見ると無数の小さな虫たちが這い回っており、虫嫌いの人間ならば数刻も正気を保っていられないだろう。


 日本に居た時、黒光りして素早く動く虫に恐怖を感じていた。

 アパートの台所などに突如として現れる平べったい虫を、専用の殺虫剤などでよく殺したものだ。

 その気持ち悪い虫が、異世界の森にはたくさん生息していた。

 どこに居るのかと聞かれれば、至るところにいると答えるしか無い。


 先程手をついた倒木の窪みにも居たし、スライムが生息していそうな木々のうろにも固まって張り付いているのだ。

 しかも尋常じゃないほど大きい。

 先ほどなど手のひら位の大きさがある例の虫が、空中を飛んで俺に向かってきた。

『予測回避』が反応して素早くかわし事なきを得る。



 ピロリンッ!


『スキル、『恐怖耐性』を獲得しました』



 巨大な虫の攻撃をかわしスキルを獲得する。

 大きな虫はそのまま飛んで森の中に消えていった。




 虫も気持ちが悪いが今の俺はそれどころではなかった。

 一番の脅威はなんと言ってもスライムだ。

 音もなく頭上から降ってくる大質量の半透明の粘液生物。

 一度でものしかかられたら最後、強力な酸で体を溶かされてしまう。


(やばい!)


 咄嗟に横飛をして、スライムの攻撃を避けた。

『予測回避』に従って移動したのだが、今しがたまで居た空間に、半透明の塊が降ってきた。


「ユウヤ! 大丈夫か!?」


 異変に気づいたキッドさんが慌てて俺に近寄ってくる。


「大丈夫です! いまスライムを倒します!」


 いつまでもキッドさんに頼り切っていても仕方がない。

 俺は短剣を構えると一気にスライムめがけて踏み込んだ。

 短剣の切っ先が正確にスライムのコアを突き刺す。

 瞬時に後ろに飛び離れ、酸の攻撃をかわす。



 ピロリンッ!


『スキル、『突き』を取得しました』


『スキル『一撃離脱』を取得しました』



 スライムの攻撃回避方法は昨日散々キッドさんから教わった。

 その甲斐あって見事にスキル習得できたようだ。


 スライムの討伐のコツは素早さだ。

 剣を突き刺して、もたもたしていれば、瀕死のスライムに最後の攻撃を繰り出す機会を与えてしまう。

 回避方法は一撃離脱。

 核を破壊したら素早くスライムから遠ざかる事。

 必勝の攻撃方法を嫌というほど練習させられたのだ。


 結果はスライムを一撃で仕留めこちらは無傷、そしてスキル取得という美味しいおまけ付きだ。

 嬉しいことに今回の討伐部位は俺の物になることになった。


「なかなか見事な突きだったぞ。あれ程の速さはなかなかできるものではないな」


 キッドさんに褒められて嬉しくなってしまう。


「ありがとうございます!」


 笑顔で返事をすると、溶けて無くなったスライムから核の部分を拾い上げた。



[スライムの破壊された核…… 価値、銅貨五十枚]



『真理の魔眼』で鑑定した核は思ったよりも価値はなかった。

 必死になって討伐した割には安すぎるのではないだろうか……。

 しかし魔眼は決して嘘をつかない。

 スライムの核の価値は銅貨五十枚で決まりだ。



「ユウヤは初めての討伐か? おめでとう、スライムを倒せるのなら冒険者としてやっていけるはずだ」


「ありがとうございます!」


 もう一度お礼を言ってスライムの核を『無限収納』に放り込んだ。

 その後も順調に探索の距離を稼いだ。

 残念なことに夕食の食材になりそうなウサギや鹿などの動物は、全く姿を現さなかった。

 その代わりにスライムが大量に出現した。

 キッドさんが討伐したスライムの数は五匹。

 俺もあの後二匹のスライムを倒し合計で三匹。

 臨時収入が銀貨一枚と銅貨五十枚、なかなかいい稼ぎになってとても嬉しい。


 そろそろ夕暮れ時に差し掛かろうとしている。

 時計を見ると午後四時だった。


「ユウヤ、そろそろ野営の準備をするぞ」


 辺りが明るい内に野営地を決めるのはキャンプの鉄則だ。

 暗くなってからでは足元が見えずに怪我をする危険が高まる。

 俺とキッドさんは丁度よい野営地を探しながらひたすら南下していった。


「キッドさん、この辺なんてどうですか?」


 俺は丁度良く開けている場所を指差す。

 木々がいい具合に倒れていて小さな広場のようになっていた。


「なかなか良さそうなところだな、よし、今日はここで一晩明かすぞ。ユウヤ、下草を刈り取ってくれ、俺はテントを張る準備をするからな」


「了解です!」


 元気に返事をして短剣を鞘から抜き去った。

 地面ギリギリを狙って剣先を走らせる。

 もちろんこの時、薬草を探すことを俺は怠らなかった。

『真理の魔眼』で野営地をまんべんなく鑑定して薬草を見つけていく。


『メンドル草』はここでも大量に発見できた。

 一方『ラカン草』は残念ながら見当たらない。

 実は午後中『真理の魔眼』を発動して『ラカン草』を探していたのだ。

 結果は七本しか採取できなかった。

 数時間探してたったの七本。

 一昨日採取した三本と合わせてもわずか十本。

『ラカン草』がいかに希少な植物なのかがわかる。


 俺は『無限収納』から『ラカン草』の束を取り出して凝視した。



[ラカン草の束…… 価値、銀貨三十枚]


 先程一度確認はしていたが、思わずもう一度見てしまった。

 その価値銀貨三十枚、驚異の高額査定に思わずにやけてしまう。


「ユウヤ、下草は刈り終わったか!?」


 背中からキッドさんの声が聞こえた。


「終わりました!」


 慌てて薬草を『無限収納』にしまって返事をする。





「ユウヤ、魔物よけの結界を張るからよく見ておくんだぞ」


 キッドさんは俺に奇妙な杭を見せてから真剣に作業を開始した。

 初めての野営が始まろうとしていた。





 ー備考ー


[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『剣技』『防御』『投擲とうてき』『突き』『一撃離脱』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『恐怖耐性』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]


・NEWスキル……『恐怖耐性』『突き』『一撃離脱』

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