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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
17/90

17.きれい好き

 狭い部屋に何もしないで居るのは息が詰まるので、クリスティーナさんと共に一階に降りる。

 まだ従業員たちが帰ってくる時間には早いので、再び放置されてしまった。

 俺一人で事務所に居ても手持ち無沙汰だ。

 入り口の扉を抜け外に出て周りを散策することにした。


 外に出ると午後の日差しが強烈に差し込んできて思わず顔を背けた。

 目が光に慣れてきたので、改めて広場を見渡してみる。

 街から来た道は北に向かっている。

 広場にはその他に何本もの道が森に向かって伸びていた。

 道はおそらく各々(おのおの)森の奥深くに続いていて、そこで木の伐採が行われているのだろう。


 俺はその道の一本に向かって歩いていった。

 道は緩やかに下っている。

 クリスティーナさんによれば、少し降りたところに水場があり、体を洗ったり衣類を洗濯したり出来るらしい。

 事務所の裏手にも井戸はあるが、飲水に使っているので他の用途には使用禁止だそうだ。


(まあ、従業員が何人居るかわからないが、一斉に井戸の水で体を洗ったらすぐに干上がってしまうからな)


 少々不便だが、郷に入れば郷に従えと昔から言うからな。

 俺は水場を確認するためにゆっくりと道を下っていくのだった。




 三分ほど下った頃だろうか、川のせせらぎが聞こえてきた。

 空気も何だか新鮮な気がしてきて、思わず深呼吸をしてしまう。

 これが俗に言う森林浴というものなのか。

 都会では味わえない清々(すがすが)しい空間に一時の安らぎを感じ取った。

 二時間ほど前にゴブリンとの死闘を繰り広げたことが信じられない。


(まさかゴブリンと戦闘になるとは思わなかったな。明日からは奴らを駆除する仕事をするのか……。何だか憂鬱ゆううつになってきたな)


 生命の危機にさらされたので、少々気が滅入ってしまう。

 短剣に腹部を貫かれた感触がまだ生々しく思い出せるので仕方がないのだが、このまま冒険者をやっていても良いのか考えてしまうな。

 ギルドの美人受付嬢ダイアナさんは、森林警備のクエストをおすすめだと言っていた。


(こんな危険なクエストなら受けなかったのに……)


 自分の不注意を棚に上げて一人愚痴をこぼす。

 しかしすぐに考えを改めた。


(全て自分が悪いんだ。人のせいにしてはいけないな)


『あの情報が間違っていた』


『言っていることが違うじゃないか』


 ……と、そんな甘い言い訳は通用しないのだ。

 大怪我して廃業するのも自己責任、死んで食い荒らされるのも自己責任なのだ。

 もちろん嫌なことばかりではない。

 手柄を上げれば全て自分の名声に直結して、高い地位や高額な報酬だって独り占めできる。


 何より一人前になれば、人に使われてペコペコ頭を下げたり、嫌な上司に胡麻をすることもしないでいいのだ。

 稼ぎたいときに稼ぎ、休みたい時には休む。

 危険をコントロール出来るのなら冒険者は理想の職業だ。


 結論としてはゴブリンに殺されそうになった俺が全面的に悪いのだ。

 これからはヘマをしないように慎重に行動しようと心に誓うのだった。




 いろいろ考えながら歩いている内に、小川が前方に見えてきた。

 いま季節は初夏になったばかり、小川の水は冷たいだろうか。


 水場は足場が組まれていて、洗濯や行水がしやすいようになっていた。

 俺は『無限収納』から水筒を出して小川の水をんでいった。

 ゴブリンの戦闘の後、たくさんの水を使ってしまったので、補給をしておくことにしたのだ。


(生水だから飲料水とわけておこう。森の中でお腹を壊したら警備どころじゃなくなってしまうからな)


 汲んだ水を『無限収納』に入れる際、麻袋にまとめて飲水とは別にした。

 


 水を確保したついでに鎧を脱いで本格的に体を洗う。

 鎧下の衣服は血液やゴブリンの体液で汚れたままだったのだ。


(結構汚れているな……、こんな格好で事務所に上がりこんでしまって、クリスティーナさん嫌じゃなかったかな)


 気にしていなかったがゴブリンの体液の匂いが酷い。

 俺の流した血液と混じり合って得も言われぬ体臭になっていた。


(よし! 思い切って飛び込むか!)


 革鎧や革のブーツはなんとか洗えたが、衣服や下着はなかなか汚れが落ちない。

 面倒くさくなったので川の中に飛び込むことにした。



 ザブンっと盛大に音を立てて川に飛び込む。

 まだ初夏なので冷たい水で身体が引き締まった。


「うひゃっ、冷たい!」


 思わず声を上げてしまう。

 川遊びなどしたことがなかったので、川の水の冷たさなどわからなかった。

 しかし慣れてくると気持ちがいいものだ。

 衣服を脱いでもみ洗いをする。

 汚れが落ちて水が濁る。

 しかし豊富な水量の流水が汚れをどんどん下流に流してくれて、清潔な水がとめどなく流れてきた。


 上半身裸になったので、脇腹の刺された部分を見た。

 そこには薄っすらと傷跡があり、肉が盛り上がっている。

 戦闘の証を身体に刻みつけ、少しだけ冒険者らしくなった気がした。

 身体もゴシゴシときれいにこする。

 無心になって身体や衣服を洗い清めていった。



 ピロリンッ!


『魔法、『クリーン』を獲得しました』



 唐突にスキル取得のお知らせが来た。

 少々驚いたが、だいぶ慣れてきたので冷静にステータス画面で『クリーン』を調べる。


『クリーンは生活魔法です、自分の体や周辺を綺麗にします。発動呪文は「クリーン」です』


(ナイスタイミングな取得だ。生活魔法と説明が出たからスキルではないな、俺は呪文まで唱えることが出来るのか……)


 岸に上がりながら少々呆れてしまう。

 欲しいときに発現するスキルや呪文。

 女神様に強化してもらった初期スキルは、とても優秀だな。

 心の中で女神様にお礼を言ってから、濡れた衣服を着る。

 ついでに革鎧や革のブーツを装着して完全武装した。


(よし! いっちょ派手に唱えるか!)


 気合を入れて呪文を叫ぶ。


「クリーン!」


 森の中に俺の詠唱が木霊こだまする。

 身体が一瞬だけひかり、濡れていた装備や衣服が乾いて軽くなる。

 そして瞬間的に身に着けているもの全てが新品のようにきれいになってしまった。


(おお凄い! これでいつでも清潔なままで居られるぞ!)


 俺は小躍りして喜んだ。

 現代日本育ちの軟弱者としては毎日風呂に入れないのは辛かったのだ。

 香りの良い石鹸や肌触りの心地よいタオルなど無い異世界で、清潔に過ごすことを半ば諦めかけていた。

 しかしここに来て有用な呪文取得に至った。

 嬉しくないはずもなく、一人でしばらく盛り上がってしまった。


 スラリと短剣を抜く。

 ゴブリンの体液が付いていたはずの剣は、きれいになってピカピカ光っていた。

 ノームのカラムさんに売ってもらったときよりも輝いている気がする。

 装備の手入れまで同時にこなしてしまう『クリーン』の魔法に、驚きを隠せなかった。


 もしやと思いゴブリンの攻撃で穴を開けられた革鎧をみる。

 穴が修復されているかと思ったが、そう都合よくはいかないようだ。

 革鎧は新品のように綺麗にはなっているが貫かれた穴は健在で、鎧下の衣服が見えていた。

 修復機能は『クリーン』にはないらしい。

 しかし汚れを気にしなくて済むようになったことは、大変素晴らしいことなのであまりがっかりはしなかった。


(そろそろ事務所に戻ろうか、従業員たちも戻ってくる頃だろう)


 時計を見ると午後四時半を過ぎていた。

 意外と時間が経過していたようだ。

 お腹もいい具合に空いてきている。

 まかない飯があるとギルドの掲示板には書いてあった。

 どんな料理が出るか楽しみだ。


 事務所への小道をゆっくりと登っていく。

 今日もいろいろなことがありすぎて大変だった。


「へへへっ」


 思わず一人で笑ってしまう。

 死にかけたことが夢の中の出来事みたいだ。

 異世界は刺激的で危険に満ちている。

 しかし嫌いではない。





 サラリーマン時代には味わえなかった、何が起こるかわからない生活。

 俺は少しずつ異世界を楽しみ始めていた。





 ー備考ー


[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『剣技』『防御』『投擲とうてき』『激痛耐性』『グロテスク耐性』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]


・NEW魔法……『クリーン』

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