表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
14/90

14.南の森

 南門が見えてくると門の周りに人々が集まっているのが見えた。

 冒険者もいるが、商人風の人々が多いようだ。

 幌馬車の隊列が街を抜けてゆく。

 護衛についている屈強な冒険者達も足早に門を抜けていった。


 列の最後尾に並び順番が来るのを静かに待つ。

 少々暇なので辺りを見渡し、人々の様子を観察した。


 一番多いのは俺と同じ人間族だ。

 肌は白人種に近く、俺と同じ有色人種はそれほどいない。

 一人の農夫が農具を荷車に乗せ、街の外の畑へ向かうのが見えた。

 農夫は丸腰で武装していない。

 そこから導かれる情報は、ミュンヘル周辺に広がっている畑の周りには危険な生物は居ないということだった。

 魔物が闊歩する中で農作業など出来るはずがない。

 少なくとも畑が途切れる場所まではそれほど警戒せずに移動できそうだった。



「よし次の者、通っていいぞ」


 目視で俺の姿を検査した衛兵が門の外へ出してくれた。

 身分証明を見せることになると思っていたが、街を出る分にはそれほど厳しい確認はないらしい。


 異世界で初めて街の外へ出て辺りを見渡してみる。

 異世界の主な主食は小麦なので、小麦畑が延々と連なっていた。

 まだ収穫時期ではないらしく、青々とした穂が風になびいて揺れている。

 心地よいそよ風に俺自信も身を晒し、ゆっくりと南へ向かって歩き出した。


 薬草を探しつつ歩いていると、朝早くから畑に出ている農夫たちが見えた。


「お前さん何か探しものかね」


 腰の曲がった老農夫が、にこやかな表情で話しかけてきた。


「ええ、さっきから薬草を探しているのですが見当たりませんね」


「おっほっほっ、それは当たり前じゃよ、ここいら辺の薬草はみな儂らが刈取ってしまうからな。薬草を見つけたければ南の森の近くまで行くしか無いぞ」


「そうなんですか、教えてくれてありがとうございます。ちょうど今から南の森へ行くところなんですよ」


 話し好きの老農夫につられて俺もおしゃべりになってしまう。


「そうかね、森の中は危険じゃから気を付けなされ、薬草が見つかるのを祈っておるよ」


「ではさようなら」


 農夫に別れを告げて南へ進んでいく。

 この辺に薬草が無いなら用はない。

 一旦薬草集めを諦め、伐採所のある南の森を目指した。




 一時間ほど移動した後、南の森のふちに到着した。

 鬱蒼うっそうと茂った森の中は、木々が重なり合って遠くまで見通せない。

 森の中へ続く道には深いわだちが刻まれていて、重い荷物を運搬した跡がくっきりと残っていた。

 轍はそれほど古くないようで、この道が頻繁に使われていることがわかる。

 道の脇に申し訳程度の看板が立っていた。


『この先、ファーガソン森林組合 伐採所あり』


 かすれて文字が読みづらいが、人が少なからず活動しているようだ。

 暗い森の中に続く細い道を見据えて気合を入れる。


(しかし、一昨日まで電車に揺られて通勤していたサラリーマンが、鎧を着込んで剣を差しているなんて考えられないな。まさか夢でも見ているんじゃないだろうな)


 もし夢ならえらく長い夢だ。

 危険が伴わない夢の中ならもう少し楽しんでもいいのだが……。


 ピシャっとほおを叩いてみる。

 現実的な痛みが襲ってきてここが夢ではないことが証明された。


(まあ、夢ではないよな。よし! 気合を入れて行くぞ)


 何が待っているかわからない暗い森の中へ一歩踏み出す。

 どのくらいの密度で魔物は生息しているのだろう。

 強さも未知数で不安だらけだ。

 しかしいつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。

 俺は微かに震える足を引きずるようにして、のろのろと森の中へ入っていくのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 森の中へ一歩踏み込むと急に辺りが暗くなり、信じられないくらいに静かになる。

 ムッとするほど湿り気を帯びた空気が、鼻から肺の中に流れ込んでくる。

 今立っている細い道は舗装されておらず、焦げ茶色の土がむき出しになっている。

 雨が降ればぬかるみになり歩行困難な泥道になるのだろう。

 深いわだちは馬車が付けたのだろうか?

 歩くのにも気をつけなければ足をくじいてしまうほど凸凹な道をゆっくりと進んでいった。



 森に入ってしばらく進み、ようやく落ち着いてきた。

 俺は道端の草木を観察するため一旦立ち止まって周囲を見渡すことにした。

 目的は老農夫に教えてもらった情報をもとに薬草を採集するためだ。

『心理の魔眼』を発動させ、雑草や低木をくまなく調査していった。


 目の前のなんでもない草木に文字が浮かび上がってくる。

 聞いたことがない名前の草木が所狭しと生えている。



[メンドル草…… 解熱作用のある薬草。ありふれた雑草と似ているので注意。根から採取するとなお良い]


[ラカン草…… ハイポーションの原料になる薬草。近年数が激減している珍しい草。資源保護のため茎から上を採取推奨]


[鬼苺…… 低木になる甘酸っぱい果実。生食可]



 ざっと見渡して調べた限り、薬草が二種類見つかった。

『メンドル草』は群生していて取り放題なようだ。

 対して『ラカン草』という草は、目視できる範囲に三本しか生えていなかった。

『心理の魔眼』の説明通り、希少植物なのだろう。

 腰の近くまで雑草が生い茂っているこの場所で、スキルを使わず探し出すことは、かなり慣れた者でない限り不可能と思われた。



 雑草の中に分け入って辺りに生えている薬草を採集する。

『メンドル草』は根っこから引き抜き、土を振り落として十本ずつ束ねる。

 ギルドの美人職員ダイアナさんが説明してくれた通りに、見様見真似で作業していった。


 問題は『ラカン草』だ、ギルドではこの草のことは教えてくれなかった。

 採集して持っていってもお金にならないかも知れない。

 しかし希少植物なので一応採っておくことにする。


『無限収納』から折りたたみナイフを取り出し、『心理の魔眼』の説明通りに根元付近の茎を刈り取る。

 三本採取して適当な雑草でひとくくりにして『メンドル草』とともに『無限収納』に入れた。



 粗方薬草を採取し終えたので先程から気になっていた『鬼苺』の低木に近づく。

 俺の腰の高さと同じくらい、一メートル無いぐらいのこんもりとした常緑樹だ。

 細かな葉っぱの影に濃い赤色の実がなっている。

 熟しきった『鬼苺』が、樹木の下に落ち干からびている。

 異世界にもありはいるようで、『鬼苺』に群がり森の恵みを享受きょうじゅしていた。



 街の市場でも見かけた果物である『鬼苺』を俺も一粒採取する。

 親指の爪ぐらいの大きさの実は意外に柔らかくて、採取するときに少し潰れてしまった。

 食用可能だと『心理の魔眼』で説明してあったので、迷うこと無く口に放り込む。

 奥歯で噛み潰すと甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり良い香りがした。


(おお! 結構いけるじゃないか!)


 薬草採集でのどが渇いていたのも手伝い、とても美味しく感じられた。

 夢中で『鬼苺』を食べまくる。

 まだ熟していない実は、硬い上に若干青みがかっていた。

 試しに口に放り込んで見ると、すっぱすぎてとてもじゃないが食べられたものではなかった。

 食べ進む内に酸っぱい実と甘い実の区別がわかってくる。

 甘い実は軽くつまむだけでぽろりと取れてしまうので、気を付けなければ地面に落ちてしまうのだ。

 もちろん落ちた『鬼苺』も拾って食べる。

 異世界は潔癖症ではやっていけないのだ。



 満足いくまで食べた後は、麻の小袋に『鬼苺』を詰めていった。

 後で大事に食べようと思う。

 市場で買ったらそこそこいい値段になるほどの『鬼苺』を集め、一人満足気にうなずくのだった。



 夢中で採集活動していたら、時刻はお昼近くになってしまった。

『鬼苺』だけでは腹持ちが悪いので、『無限収納』から屋台で買った串焼き肉を取り出す。

 少々行儀が悪いが道を森の奥に向かいながら食べ歩きをする。

 森の中には誰も居ないし、異世界ではマナーをとがめるおせっかいな人物など一人も居ないのだ。

 心ゆくまで串焼き肉を食し、森深く進んでいく。

 時折分岐点が現れるが、荷車のわだちに沿って歩いていけば道には迷わないだろう。





 今一番注意することは森林狼やワイルドベアー、ゴブリンなどの敵に気が付かずに遭遇することだ。

 この時俺は森を舐めていたと思う。

 一人で森に分け入るということは、相当な自信とそれを裏付ける確かな実力が伴わなければただの自殺行為になってしまう。

 森の捕食者達は、暗い木々の間から俺を襲うためのタイミングを静かにうかがっていた。

 そして狙われていることなど全く気づいていない俺は、のんきに鼻歌を歌いながら森の奥深くへと進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ