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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
12/90

12.始動

 早朝の宿屋は静まり返っていた。

 泊まっている客はまだ眠りの中にいるのだろう。

 部屋を出て一階のエントランスに降りていくと、カウンターから店員が微笑みかけてきた。


「おはようございます。昨日は良く眠れましたか?」


 綺麗な女性の店員が愛想よく聞いてくる。


「おはようございます。ぐっすり眠れましたよ、それからお風呂がとても気持ちよかったです」


「それは良かったです。朝食の準備が整っておりますので食堂の方へお越しください」


 にっこりとした女性店員は、食堂へ通ずる扉を指し示しながらカウンターからでてくる。

 店員に連れられて食堂の扉をくぐり抜けると、美味しそうな匂いが漂ってきた。

 サラリーマンをやっていた時には朝食なんて食べなかった。

 ギリギリまで寝床に居たい派だったのだ。

 たまに間違って早く起きたときでも、せいぜい牛乳を飲んでバナナを食べるくらいだった。


 異世界に来て初めての朝は牢屋の中で何も食べられなかった。

 実質初めての朝食は高級宿の朝食になる。


 窓辺のテーブルにつき、朝食がでてくるのを待つ。

 宿屋の外はすっかり明るくなっていて、早起きの住人たちが通りを右往左往している。

 人々が忙しそうにしているのを横目に、朝食をゆっくりと食べるなんて初めての経験だ。



「おまちどおさまです。牛肉の香草焼きと野菜スープです。ごゆっくりお食べください」


 しばらくすると食堂担当の店員がかごいっぱいのパンとともに、良い香りのする料理を持ってきた。

 分厚く焼いた肉の皿を俺の目の前に起き、スープを置いて籠を置く。

 陶器の器に香り高いお茶を注いで一礼して離れていった。


 早速朝食を食べることにする。

 朝食にしては少し重いメニューだが、これからは肉体労働者になるのだ、しっかり食べて力をつけようと思う。


 切れ味が鋭そうなナイフで肉を切ってフォークに刺した。

 肉汁が滴る分厚い肉を口いっぱいに頬張る。

 香草で香りづけされた塩味の肉を口の中で咀嚼そしゃくする。

 今まで食べたこと無いくらいに美味しい肉に驚いてしまった。


 籠から丸いパンを一つ取り出し半分に割って食べてみる。

 出来たてのパンはとても柔らかくいい香りがした。


(そう言えばこの宿のパンは牢屋で出されたパンより白いな、これなら何個でも食べられそうだ。異世界の料理は美味しいな、ライトノベルの異世界は料理が美味しくないとかあるけどあれは嘘だな)


 異世界の料理はシンプルだが美味しい。

 牢屋で食べたパンと塩スープでさえ美味しかったので、高級宿屋の食事がまずいはずはなかった。

 美味しい料理に食が進み、スープをお代わりしてパンも四個食べてしまった。

 夢中で食べている間に他の宿泊客達も食堂に続々と集まりだす。

 にぎやかな食堂を後にしてカウンターでチェックアウトした。


「またのお越しをお待ちしております」


 先程の女性店員が深々とお辞儀をして送り出してくれる。

 銀貨二枚という高額の宿賃だったが、大満足のサービスだった。

 出来ればまた泊まりに来たいが、しばらくはお金を節約しなければならない。

 いつかまた泊りたいな。

 この宿を定宿にするくらい稼げるようになろうと心に誓った。



 ー・ー・ー・ー・ー



 宿を出た足で冒険者ギルドへ向かう。

 昨日初心者講習を受けたが、圧倒的にこの街の情報が足りない。

 一番厄介なことは街の周辺に出没する魔物の種類を把握していないことだ。

 これは一つ間違ったら即死亡しかねないので、ぜひとも知らなくてはいけない情報だった。



 朝一のギルド前は冒険者たちでごった返していた。

 みんな殺気立っていて、今日の仕事の取り合いをしているようだ。

 背丈の倍以上もある槍を持っている集団や、幅広の長剣を肩に担いだ歴戦の戦士。

 筋骨隆々の大男や魔獣を従えた獣使いテイマーなど、俺には到底勝てそうにない強者達が何人もいる。

 正直怖いので近づきたくないのだが、冒険者ギルドぐらいしか魔物の情報を仕入れることができそうな場所を俺は知らなかった。


 なるべく目立たないようにギルドの建物に近づいていく。

 後少しでギルド内部に通ずる扉に到達できそうだった所で、屈強な男達に行く手を阻まれてしまった。


「おい、兄ちゃん! 今は素人が来ていい時間じゃないぜ、大人しく俺達ベテランが居なくなるまで道の端で待ってろ!」


 顔中に文様のような入れ墨をびっしりと入れている冒険者が俺に絡んできた。


「目障りだ失せろ」


 その相棒らしき男も威嚇いかくしてくる。

 無表情の男の肌は色が紫色で明らかに人間ではなかった。

 二人の冒険者の容姿があまりにも突飛とっぴなので、思わずじっくりと見てしまった。



[名前……フレデリコ・オクトバシー 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……シルバー タイプ……戦士 スキル……『剣技』]


[名前……アザル・デドロム 種族……デモン 職業……冒険者 ランク……シルバー タイプ……アサシン スキル……『剣技』『石化の視線』]



 入れ墨男は別段普通の冒険者のようだが、ランクはシルバー、間違いなく俺より強い冒険者だろう。

 その相棒に至っては種族が人間ではなかった。

 デモン族とは悪魔のことなのだろうか。

 アサシンというタイプは危険な気がする。

 スキルの『石化の視線』というのもかなりヤバそうだ。



『石化の視線は、注視した対象を低確率で石化することが出来るスキルです』



 毎度おなじみイシリスさんの声で『石化の視線』の解説が入る。

 まさか俺にそのスキルを使うことはしないと思うが、ここは大人しく撤退したほうが良さそうだ。


「すみません、大人しく待つことにします」


 言い争うことをせず、きびすを返して立ち去る。

 俺が意外なほどあっさりと引き下がったので、嫌がらせをしてきた二人組は肩透かしを食らってぽかんとしていた。



 通りを挟んで冒険者ギルドの反対側で様子をうかがう。

 いつかは絡まれると思ったが、案外早い内にちょっかいを出されてしまった。

 小説ならあの二人組は俺に打ちのめされて地面に這いつくばるのだろう。

 しかしここは現実の異世界だ。

 屈強な無頼漢ぶらいかんを相手にしていたら、命がいくつあっても足りないだろう。

 触らぬ神に祟りなしだ。

 幸い時間はたっぷりあるので、邪魔者が消えるまでここで時間を潰そうと思った。

 ただぼけっと立っているのも手持ち無沙汰なので、冒険者たちを観察することにした。


 観察の結果、圧倒的に人間族が多い事が判明した。

 七割がヒューマン種で、次にドワーフやエルフ、そして獣人族が続く。

 冒険者にカラムさんのようなノームは見当たらない。

 身体が小さいと冒険者には不向きなのだろうか。


 職業はと言うと、圧倒的に戦士が多く、魔術師や僧侶、盗賊などがちらほらといるぐらいだ。

 先程のアサシンなどはレア職種だったようだ。

 挑発に乗って戦闘になったら怪我をしていたかも知れない。

 自分の感の良さに感心してしまった。



 ピロリンッ!


『スキル、『危険回避』を獲得しました』



 いきなり頭の中にイシリスさんの声が響き渡る。

 なにか新しいスキルを覚えたようだ。

 慌ててステータス画面を開く。


[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 ランク……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『危険回避』 加護……『女神イシリスの加護』]


 画面を見るとしっかりと『危険回避』スキルを取得していた。



『危険回避は、第六感で危ない場所や所作を回避するスキルです』



(こういう具合にスキルを獲得できるのか……)


 突然で驚いたがスキルは案外簡単に覚えられるのかも知れない。

 幸先が良い出だしに口元が緩んできてしまう。





 もう少しすればベテラン冒険者たちも、今日の仕事を見つけてどこかへ言ってしまうだろう。

 さらに人間観察を続けながら冒険者ギルドが空いてくるのを待つのだった。




 ー備考ー


 ユウヤはあまり深く考えていませんが、スキルは簡単に取得できるような代物ではありません。

 今回『危険回避』を簡単に取得できたのは、女神イシリスから授かったスキル、『超熟練』が作用した結果です。

 一般の冒険者はスキルを三つ持っていれば一人前の冒険者なのです。

 既に六つのスキルを取得しているユウヤは、この時点で一流冒険者を超越した存在なのです。

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