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9 過去の見合い




「そして2度とも、相手の方が私ではなくコラリーを妻にしたいと望まれたのです」

「はぁ?」

 思わず低い声が出てしまった。何だよ、ソレ?!

「もちろん、父が怒ってどちらも我が家の方からお断りをしたのですが、私は一時期、本当に落ち込んでしまいまして――」

 そりゃ、自分と見合いした男が「妹の方がいい」だなんて言い出したら、年頃の令嬢には堪えるだろう。なんて酷い野郎どもだ!!(ひとまず自分のことは棚に上げる俺)

「誰にも会いたくなくなって、しばらく自室に閉じこもって過ごしました」

「そんな事があったのか……」

「正直、コラリーが羨ましくて妬ましくてなりませんでした。同じ両親の元に生まれた姉妹なのに、どうしてあの子だけあんなに華やかな美人なのだろうって」

「オリーヴ……」


 俺はテーブルを挟んでオリーヴの向かいの席に座っていたが、立ち上がり、そしてオリーヴの隣に腰掛けた。

 彼女の華奢な肩をそっと抱き寄せる。


 オリーヴは続ける。

「コラリーに八つ当たりもしました。あの子は何も悪くないのに、醜い嫉妬心から私はあの子に当たり散らしてしまったのです。そして、そんな自分に嫌気が差して絶望して――」

「もう、いい。それ以上、言わなくていい」

 俺は堪らなくなってオリーヴの話を遮ると、強く彼女を抱きしめた。

 俺の腕の中で小さく息を吐くオリーヴ。

「そんな事があって、でも数ヶ月経って何とか立ち直り、久し振りにコラリーと一緒に夜会に出席したのです。そうしたら、その直後にブロンディ公爵家から婚約申し入れの書状が届き、ルイゾン様が私を見初めて下さったことを知って……本当に嬉しゅうございました。最初は信じられなくて、父に何度も何度も確認しましたのよ。『私ではなく、コラリーへの申し込みではないのですか?』って。でも、父が『間違いなくオリーヴへの申し込みだ。良かったな』と言ってくれて夢を見ているのではないかと思いましたわ」


 オリーヴの話を聞きながら、俺は罪悪感で胸が張り裂けそうだった。

「オリーヴ。絶対に貴女を大切にする。約束するよ」

 他にどう言っていいか分からず、俺はそんな言葉を口にした。


「ルイゾン様。私、ルイゾン様と婚約して、以前の自分を反省しましたの」

「ん? 反省?」

「はい。私はコラリーを羨むばかりで自分を磨く努力をしてきませんでした。どうせ地味な容姿なのだから、どうしたって綺麗になる訳が無いと、何もしないうちから自分で自分を諦めていたのですわ。その分、勉学やマナーやダンスの習得を頑張れば良いと、そちらばかりに力を入れました。もちろん、それらが無駄な事だったとは思いません。けれど、ルイゾン様と婚約をしてから、綺麗になりたい、その為にはきちんと努力をしてみようと思うようになりました。その……少しでも美しくなってルイゾン様の隣に立ちたくて――うぅ、自分で言ってて恥ずかしいですわ」

 両手で顔を覆い身悶えするオリーヴ。俺は理性を試されているのだろうか?


「オリーヴ。私の可愛い婚約者ひと。それ以上、私を煽らないでくれ」

 そう言うと、俺は顔を覆っているオリーヴの手を退け、彼女の顎を持ち上げた。

 少し驚いた表情で俺を見上げているオリーヴ。

「オリーヴ。こういう時は目を瞑るんだ」

「は、はい」

 オリーヴは素直に目を閉じた。素直過ぎてちょっと心配になる。

 

 俺はその日、清らかな婚約者の唇を奪った――

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