8 姉妹
最近の俺は、かなりマメにベルモン伯爵家を訪れている。
自分の感じている罪悪感を少しでも和らげたくて、足繁くオリーヴの元に通っているのだ。つくづく自分勝手な男だな、俺は。
婚約者としてオリーヴと付き合うようになってから、俺は彼女に惹かれ始めている。「チョロいヤツだ」と言いたければ言ってくれ。否定はしない。
真面目で賢い淑女である一方で、初心で恥ずかしがり屋で俺の言葉一つで真っ赤になったり焦ったりするカワイイ一面のあるオリーヴ。おまけに近頃の彼女は、会う度に綺麗になっていく――
「姉は『綺麗になって堂々とルイゾン様の隣に立てるようになりたいの』と言って、それはもう、すごーく頑張っておりますのよ。肌のお手入れでしょう。ヘアメイクの研究でしょう。それからダイエットに――」
「コラリーったら、やめて! 恥ずかしいわ!」
オリーヴが妹のコラリー嬢の言葉を慌てて遮る。
今日も俺はベルモン家を訪れ、オリーヴとコラリー嬢と一緒にティータイムを過ごしている。
コラリー嬢の暴露に顔を赤くして慌てるオリーヴ。愛らしいな、おい。
俺はオリーヴに言う。
「恥ずかしくなんかないだろう? 私の為に綺麗になる努力をしてくれているなんて、本当に嬉しいよ。男冥利に尽きるというものだ」
「そんな。私はパッとしない見目なので、少しでもマシになればと……」
「オリーヴ。謙遜し過すぎは良くないよ。貴女は美しくて魅力的だ」
「ルイゾン様……」
熱のこもった目で俺を見つめるオリーヴ。そんな目で見られると、イロイロとヤバイんだが――
「はーい。はーい。そこまで!」
パンパンと手を叩くコラリー嬢。
「まったく。私の前でイチャイチャしないで下さいませ」
「コラリーったら。私たちは別に――ねぇ、ルイゾン様」
「あぁ、イチャイチャなんてしてないよな」
「はぁ~、さようでございますか。それではお邪魔虫はこの辺で失礼致しますわ。ルイゾン様、どうぞごゆっくり」
コラリー嬢は大袈裟に溜め息を吐くと客間を出て行った。
相変わらず、コラリー嬢は美しい。燃えるような赤い髪にパッチリとした金色の瞳。彼女の華やかな容姿は、俺の好みのタイプそのものである。
3ヶ月前、俺はコラリー嬢に一目惚れしたんだよな……。
ロイクの言葉を鵜呑みにせず、自分できちんと調べて婚約を申し込んでいたら、今頃、俺の婚約者はコラリー嬢だったはずだ。
「ルイゾン様? どうされました?」
「え? ああ、何でもない。コラリー嬢は本当に行ってしまったな」
「あの子は気を利かせたつもりなのでしょう」
「そうなのか?」
「ルイゾン様。実は私、今までに2度ほどお見合いをしたことがございますの」
「え?」
――そう言えば、俺が初めてベルモン伯爵家を訪れた時、オリーヴの母である伯爵夫人が、オリーヴについて「なかなか見合いも上手くいかなくて」と話していたな……
「そして2度とも、相手の方が私ではなくコラリーを妻にしたいと望まれたのです」
「はぁ?」
思わず低い声が出てしまった。何だよ、それ!?




