6 王太子の暴言
「ふんっ。相変わらず真面目だけが取り柄か? 面白味のない女だな」
何だと!? 他人の婚約者に向かって何て言い草だ!?
俺が王太子アランを睨むと、王妃様が慌ててアランを窘めた。
「これ、アラン。失礼でしょう? というかその前に、貴方、オリーヴさんと面識があるの?」
「オリーヴとは学園の同級生でしたから」
アランが不機嫌そうに低い声で答える。
そうか、そう言えばオリーヴもアランも俺より2つ年下の18歳だったな。二人は王立貴族学園の同級生だったのか――いや、そんな事より、俺の婚約者を呼び捨てにするな!
「ルイゾンよ。目付きが国家反逆罪じゃぞ」
陛下がふざけた事を仰る。
「何ですか、それ? 私は、私の婚約者に失礼な物言いをした男を睨んでいるだけです。その男が偶々この国の王太子なのですよ」
俺の台詞を聞いて、アランが「ふんっ!」と鼻を鳴らした。
「こんな地味で冴えない女と婚約するなんて、ルイゾンは女の趣味が悪過ぎるんじゃないか?」
コイツ、何でこんなに突っかかって来るんだ? オリーヴよりもっとずっと地味なクラリス嬢とロイクが婚約した時には、特に何も言わなかったくせに。どうしてオリーヴのことを、ここまで悪し様に言う? 学園時代にオリーヴと何かあったのか?
「アラン! いい加減になさい!」
ついに王妃様がキレた。それでもアランは言い募る。
「おい、オリーヴ。調子に乗るなよ。お前みたいなダッサい女、すぐにルイゾンに捨てられるに決まってる」
「そんな……あんまりです」
目に涙を浮かべるオリーヴ。確かに、これはあんまりだ。言っていい事と悪い事があるだろうが!
しかし、何かおかしい。アランは普段、ここまで常識のない男ではない。一体、どうしたっていうんだ?
「アラン殿下。これ以上、私の婚約者を侮辱するなら、たとえ殿下でも許しませんよ」
そう言って更に強く睨み付けた俺を、アランは睨み返してきた。
何なんだ? まったく。訳が分からん。
だが、アランの真意を探ろうと、俺を睨むアランの目をジッと見ているうちに、俺は気付いてしまった。アランの瞳の奥に、確かに「嫉妬」の炎が宿っていることに――コイツ……まさか、オリーヴのことが好きなのか?
けれど、アランの真意がどこにあろうと、とにかくこれ以上オリーヴを傷付ける訳にはいかない。俺は国王夫妻に、
「私とオリーヴは、これにて失礼させて頂きます」
と、告げ、沈んでいるオリーヴの肩を抱いて王家の御前を下がろうとした。
すると、突然立ち上がったアランが、乱暴にオリーヴの腕を掴むではないか。
おいおいおい! 何してくれちゃってるの?!
「オリーヴ。オリーヴ……ルイゾンに捨てられたら、私の側妃になればいい。だから、だから……」
コイツ、思春期かよ!? 18歳にもなって何だ、その情けない告白は!?
「アラン殿下。手をお放しください。オリーヴは私の婚約者です」
俺の尖った声にハッとした様子で、
「す、すまない」
と、言って、慌ててオリーヴから手を放すアラン。
何か、ムカムカしてきたぞ!
「殿下。私がオリーヴを捨てるなどあり得ないことです。オリーヴは私の妻になる女性です。殿下の側妃になることは決してありません。諦めて下さい」
「オリーヴ……」
縋るような目でオリーヴを見つめるアラン。
あれだけ悪し様に言っておいて、今更そんな目で追い縋ってもムリに決まってるだろ。
「殿下。私はルイゾン様と生涯添い遂げたいと思っております」
オリーヴはキッパリとした口調でそう言ってくれた。
何だか、すごく嬉しい!
アランはオリーヴの言葉を聞くと、ガックリと肩を落とし項垂れた。
アランよ。当たり前だろう。好きな女に散々悪態ついて気持ちが伝わる訳がない。それがたとえ好意の裏返しであったとしても、その言葉によって傷付けられた側は確かに痛みを感じるのだ。そして、その痛みは簡単に消えるものではない。
王太子アランには10歳の頃から婚約者がいる。同盟国の王女と政略の婚約をしているのだ。
アランはきっと、学園時代からオリーヴのことが好きだったのだろう。けれど彼には決して蔑ろに出来ない婚約者がいた。オリーヴに素直に愛を伝えられなかったのも、分かる気はする。だが、本気でオリーヴを手に入れたかったのなら、やはり正直に思いをぶつけるべきだったのだ。そうすれば、正妃には出来なくとも、側妃にすることは恐らく可能だったろうに……
そこまで考えて、俺はハッキリと ”それはイヤだ” と、思った。
アランに寄り添うオリーヴの姿を想像するだけで苛々してくる。
この時、俺は初めて自分の中の独占欲に気が付いた。
人違いをしてオリーヴに婚約を申し込んだ俺が、そんな欲を持つ資格などあるはずが無いというのに……