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5 王宮での夜会





 馬車が王宮に着いた。そう、今夜の夜会は王宮で催される大規模なものなのだ。

 俺とオリーヴは婚約後初めての夜会となる。

 今夜は婚約の挨拶で忙しくなるな――


 オリーヴをエスコートして会場に足を踏み入れた途端、俺たち二人は多くの視線を浴びることとなった。特にオリーヴには令嬢達の突き刺さるような眼差しが向けられている。女ってコエーな。

「あんな地味顔で、よくルイゾン様の隣に立てるわね」

「一体、どんな手を使ったのかしら?」

「鏡を見たことが無いのではなくって?」

「身の丈を知ればいいのに!」

 よくもまぁ、次々と悪口が出て来るもんだな。

 決して大きな声ではなく、けれど確実にオリーヴの耳に届くボリュームで悪態をつく女ども――一周回って尊敬するぞ。


 オリーヴを見ると、さすがに堪えたのか俯き加減になっている。

 俺はオリーヴの手をギュッと握り、彼女の耳元で囁いた。

「オリーヴ。俯いてはダメだよ。顔を上げるんだ。大丈夫。私がついてる。何を言われても気にすることはない」

 オリーヴは俺の言葉にハッとした様子で顔を上げた。

「それでいい。私の愛しいオリーヴ」

 私の愛しいオリーヴ……って! どうしてこう、スカした台詞がさらっと出て来ちゃうかな? 俺よ!


 オリーヴは俺を見上げると、ほんのり頬を染め安堵の表情を浮かべた。

「はい。ルイゾン様」

 俺の言葉一つで、そんな表情をするんだな……

 俺は何だか堪らない気持ちになり、ついオリーヴの髪に口付けてしまった。

「えっ? えっ?」

 と、小さな声を上げ、慌てるオリーヴ。

 その様子があんまり初心で可愛くて、俺は調子に乗ってしまった。

「足りないな」

 と、呟き、オリーヴの額、そしてうなじへと口付けを落とす俺。わざとリップ音を立てる性質たちの悪さだ。オリーヴは真っ赤になって焦っている。彼女の黒い瞳が潤み始めた。

 やべっ。やり過ぎた。


 俺たちに注目していた連中がざわめく。以前よく俺を取り囲んだ女どもが、悔しそうな顔をしてオリーヴを睨み付けている。

 俺はオリーヴの肩を抱き寄せ、彼女への悪意ある視線を遮った。そして、わざとゆっくりと周囲を見渡した後、これ見よがしにもう一度オリーヴの額に口付け、うるさい外野にトドメを刺す。”誰が何と言おうとオリーヴは俺の婚約者だ。オリーヴを悪く言う者は許さない”というメッセージだ。思い知ったか! 猛禽オンナどもめ!



「オリーヴ。先ずは陛下に御挨拶に行くぞ」

「は、はい」

 国王陛下は俺の伯父に当たる。俺の母はこの国の元王女であり、現国王陛下の妹なのだ。

 俺はオリーヴを伴って王家の席へ向かった。


「おう、ルイゾン! 婚約おめでとう!」

 陛下はけっこう気さくな方である。

「ありがとうございます。陛下」

「うんうん。君がルイゾンの婚約者だね?」

 陛下がオリーヴの顔をマジマジと御覧になる。

「は、はい。ベルモン伯爵家の長女オリーヴにございます」

「そんなに硬くならなくていいよ。ワシはルイゾンの伯父だからね。ただの親戚のオッちゃんだと思って仲良くしてくれ」

「……畏れ多い事にございます」

 深々とこうべを垂れるオリーヴ。

「ハハハ。真面目な令嬢だな~」


 陛下の隣にいらっしゃる王妃様もにこやかに祝福して下さる。

「ルイゾン。本当におめでとう。ブロンディ公爵家もこれで安泰ね」

「ありがとうございます」

「オリーヴさん。私のことはただの親戚のオバちゃんだと思って仲良くしてね」

「め、滅相もございません」

 オリーヴは目を白黒させている。

 国王夫妻よ。あんまりオリーヴを揶揄うなよ。


 そこへ、急にトゲのある声が割り込んで来た。

「ふんっ。相変わらず真面目だけが取り柄か? 面白味のない女だな」

 オリーヴに向かって、そう言い放ったのは、王太子アランだった。俺にとっては従弟に当たる男だ。

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