表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すみません! 人違いでした!  作者: 緑谷めい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/18

11 「あーん」




 俺はその日のうちにオリーヴの見舞いに行った。

 俺を迎えてくれたオリーヴの右手は、小指に添え木がされ包帯できっちりと固定されていた。

「オリーヴ。クラリス嬢から事情は聞いた。大丈夫か? 痛むのか?」

「ルイゾン様、ご心配をお掛けして申し訳ございません。昨晩はさすがに痛みが強くて、痛み止めの薬もあまり効きませんでしたが、今日はずいぶんと和らぎましたわ」

「そうか。無理をしてはダメだぞ。当分はゆっくり休むんだ」

「はい」


 コラリー嬢も交えて三人で話をした。姉を傷付けられたコラリー嬢は、俺と同じく怒り心頭で、オリーヴとクラリス嬢を取り囲んだ5人の令嬢の名前を書き付けたものを俺に渡してきた。

「姉とクラリスを囲んで言い掛かりを付けたのはこの5人でございます。我が家より格上の侯爵家令嬢アナベル様が主犯ですので、ベルモン家からは強く抗議が出来ません。ルイゾン様、ブロンディ公爵家の権力を思い切り使って、この5人の令嬢を完膚なきまでに叩き潰して下さいませ」

 うゎ、美人が怒ると迫力があるな。だが、コラリー嬢に言われるまでもない。


「任せてくれ。私の婚約者に怪我を負わせた連中に、麦粒一つの慈悲さえ掛けるつもりはない。私を怒らせたらどうなるか、目に物見せてくれようぞ!」

「ルイゾン様、素敵です! 台詞が魔王みたいですわ!」

 コラリー嬢がパチパチと手を叩き、俺をおだてる。

「魔王みたい? そーか、そーか。ワーッハッハッハ!」

「悪そうなお顔が頼もしいですわ! ぜひ、姉を傷付けた令嬢達を成敗して下さいませ!」

「任せとけ! ズタズタのギッチョギチョにしてやる!」

「さすがですわ! いよっ! 魔王様!」

 悪い顔をして盛り上がる俺とコラリー嬢。

 オリーヴは、やや呆れた表情で俺たちを見ていた。



 その後、メイドがお茶とケーキを運んで来たのだが、利き手である右手を使えないオリーヴは、左手でフォークを持ち四苦八苦している。

「オリーヴ。ここに座って」

 俺はポンポンと自分の膝を叩いた。

「は?」

「いいから私の膝に座って」

「え? イヤですわ」

「何で嫌なんだよ? 私がケーキを食べさせてあげるから、早く膝に乗るんだ」

 俺はそう言うと、オリーヴを抱え上げて横向きに自分の膝の上に乗せた。


「ちょ、ちょっと、ルイゾン様。恥ずかしいですわ」

「気にするな」

「気にしますー! コラリーの前ですのよ!」

 俺の膝から降りようとジタバタするオリーヴ。逃がさないよう、俺はがっちり彼女の腰を抱く。

 テーブルを挟んで俺たちの向かい側に座っているコラリー嬢が、ニヤニヤしながら、

「あら、お姉様。私のことはお気になさらず」

 と、言った。

「コラリー、助けて!」

「イヤです。ルイゾン様とイチャイチャなさいませ」

「裏切り者ー!」


「ほらほら。オリーヴ、諦めるんだ。はい、あーん」

 俺は片手でオリーヴの腰を抱き、もう片方の手でフォークを持ってケーキをオリーヴの口に運ぼうとする。

「『あーん』って何ですか? 『あーん』って? ルイゾン様!?」

「右手が不自由だと食べ辛いだろう? 私が食べさせてあげる。ほら、あーんして」

「もうっ! ルイゾン様ったら!」

「お姉様。素直に食べさせて頂いたらよろしいでしょう?」

 コラリー嬢よ。ナイスなアシストだ。

 

「そうだぞ、オリーヴ。左手でフォークを使うのは大変だろう? こういう時は素直に甘えるものだ。ほら、お口あーん」

「……」

 ようやく観念したのか、オリーヴが口を開けてくれた。

「オリーヴ。あーん。うん、上手だ」

「……ルイゾン様のバカ」

 俺の胸をポカッと叩くオリーヴ。何だ、この可愛らしさ!?


 俺はひたすらケーキをオリーヴの口に運んだ。オリーヴは途中で開き直ったらしく、俺が「あーん」と声を掛けると「あーん」と応え始めた。

「オリーヴ、あーん」

「あーん」

「ほら、あーん」

「あーん」

 

 そうしているうちに、最初はニヤニヤしながら俺とオリーヴを眺めていたコラリー嬢が、ついに限界に達したようだ。

「私、何やら胸やけがして参りましたので、失礼致します。ルイゾン様、どうぞごゆっくり」

 コラリー嬢よ。⦅このバカップルめ!⦆と思っているんだろ? 顔に出てるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ