俺は食う側
サァァァァ……
川の勢いよく流れる水音がする。
ぼんやりとした景色が広がる。だがその景色が徐々に輪郭をハッキリとさせていく毎に今が朝では無いことを明確にしていく。
「あぁ、そうだった……。」
エルフ共の策略で街ごと崩されたのだ。その報復に奴らの陣地に乗り込もうとした時、大きな陥落があって俺もそれに巻き込まれたのだった。
俺は丸い石で埋め尽くされた河原の様な所で仰向けになっていた。どれほど落ちたのかは分からないが恐らく偶然にも川に落ち、その後ここに流れ着いたのであろう。魔導や武術に秀でた者ならなんとかしているかもしれないが、一般人は俺のように水辺に落ちない限り即死であろう。
体を起こす。服がびしょ濡れの為寒い。また辺りは点々と発行するキノコ?や小石が灯す小さな明かり以外に光源は無く、暗く淀んだ闇が溢れていた。
「クソッ。こんな事をしてタダで済むと思うなよ……」
1人で悪態を付く。侵略戦争からの一般人を巻き込んだ街ごとの崩落。身寄りの無い職業軍人とは言え愉快な仲間達や日々を懸命に生きる人達が生きていた国、生きてた街である。もはやエルフを殺す事は躊躇わないだろう。
ブシュンッッ
大きなくしゃみが出た。気温は高く無いだろう中でずぶ濡れなのだから当然だ。
辺りを見渡すとレンガの山が見えた。瓦解した家屋だ。少し物色してみると鍋などの調理器具から服・毛布、着火に使えそうな物等生活必需品があらかた揃った。足りない物は他の家屋を探せば見つかるだろう。
火を起こす場所を探そう、そう思った時瓦礫の下から何かが出ているのに気づく。
近ずいて見るとそれは人の『腕』だった。
「惨い死に方だ…。」
瓦礫に押し潰されたのか、取り敢えず埋めてあげないと。そう思い体の上の瓦礫を退かす。
しかし、そこに体は無かった………。
腕だけが瓦礫の近くに落ちているだけであった。
「………これらの物をお借りしますね。」
そう言い残すと腕だけとなった家主の元を去った。
火のオレンジ色が辺りを照らす。それは体だけでなく心も暖めてくれるかのようだった。
「さて……これからどうしようか。」
目を覚ました時は怒りからエルフへの復讐ばかり考えて居たが少したった今は違う。
エルフに復讐したいのはそのままだが今はどう生きるかで頭の中はいっぱいだ。
まず腹が減った、水は近くの川を念の為煮沸消毒すれば問題無いだろうが食料は別だ。辺りには草がそれなりに生えているので草食獣は居るだろう。だがこんな場所で生きている奴なんてろくな奴では無いだろう。ましてやこの暗さだ。
「シャァァァァッ。」
潰れた喉で強く息を吐いた様な音。後ろを向くと焚き火の光に照らされた大きな蛇が居た。
俺と大蛇の目が合う。
全力で右へ飛び込むように跳ねる。すると先程まで座っていた位置に大蛇の頭が打ち込まれバコォンッ!っと大きな音が鳴り、砂煙が舞う。
横に飛び退いた事で俺は大蛇の全身を見る事が出来た。恐らく15m以上はあるだろう。
土煙がブワッと晴れる。初撃を外した大蛇がこちらを見定める際に勢い良く首を振ったからだ。
再び目が合う。自然における一般的な捕食者と被捕食者の体格差、大蛇は本能で俺を餌と判断したのだろう。
しかし、残念な事に俺は食う側であった。両手に力を込めグローブの魔法陣に魔力を流す。すると数多の敵を切り裂いてきた非物質の刃が形成される。
大蛇が少し後ろへ首を引く。さすが野生の生物。これもまた本能で俺が餌では無いことに気付いたか。
しかし、大蛇は少しの思案をした後、覚悟を決めたのか勢い良くこちらへ突進を開始する。
直線的な動きだが下手に避けようとすればそこを狙われるだろう。
ギリギリまで引き付ける、3m、2m、1m……
大蛇が目の前まで迫った瞬間横へ倒れ込むように避ける。大蛇は常にこちらの目を見ていた、恐らく狙っていたのは俺の顔だろう。全長は長いが胴体は立っている状態から倒れ込んだ俺を捉えれる程太くは無い。
すぐさま起き上がり波打つ腹が目の前に来た瞬間2つの刃を突き刺す。そのまま振り回されるかと思ったが大蛇はその痛みに静止する。
チャンスだっ!
差し込んだ刃をそれぞれ胴体の外側に向けて振り抜きその部位に大きな切れ込みを付ける。
血が勢い良く溢れ出す。この状態で蛇行は難しいだろうし、した所でこの箇所でちぎれるだろう。
俺は首だけでこちらを捉えようとする大蛇の頭へ走る。再び目が合う。しかし今回でそれも最後だ。
「うぉぉぉぉぉお!!」
両手のひらを組み大蛇の首へ。そのまま腕を振り抜きながら体で断ち切る。2つの刃が大蛇の胴体に薄いスライスを切り出し、大蛇の首はボトリと落ちた。