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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「再会できたからこれでエピローグ」だったはずのプロローグ

作者: 野之ひと葉

 ちいさな頃から何度も見ていた夢は、ぼんやりとした視界と遠い声。

 彼が私を抱き締めていて、私はそれが幸せで。そして途切れそうな意識の中で、このまま死ねるならもういいと諦めているのに、彼を残して逝ってしまう後悔で涙が止まらなくて、声も出なくて、苦しくて。

 目が覚めるといつも、鈍い頭痛と息苦しさに困らされていた。

 彼の顔はいつもわからない。ただ、日本人ではないいのはわかる。

 覗きこむ彼の顔はいつも影の中。でも、逆光に光る髪はきらきらと金色に溶けるようで、懇願の言葉は日本語の意味をなしていない異国の言葉。


 前世、とかだったり?


 別れを告げて意識を手放すと終わる気恥ずかしいほどドラマチックな一場面に、いつのまにかそんな自虐的なことを考えたりしていたんだけれど……


『そんなところで何をしてるんだ、アデェレーナ』


 直感で、この人だ!と思ってしまった。

 きらきらプラチナブロンドに、サファイヤブルーの典型的美形王子様。その目元のほくろと、耳にかかる邪魔そうなカールの一房は、見間違えるはずがない。

 デラール国第二王子、ジークフリード・ルイス・デラール。


 ブラウン管テレビの画面の中、名前「???」のままドアップでちょっと意地悪く微笑む男の(スチル)を指差して私は、


「え? えっ、これって、え~~~!!!!」


 午前1時。思いっきり叫んでしまった。






 そもそも、なんで私が乙女ゲームをやることになったかというと、携帯の充電ができなかったからだった。


 転職が決まって、退職前に貯まりに貯まっていた有給を消化しがてら、2年ぶりに帰省したのが始まり。

 この風光明媚なご実家様は、お隣さんに行くのですら5分はかかる広々とした環境で、公共交通機関なんて1日に3本しかなかったりする。

 そこに充電できる機器を忘れて帰省してしまったのがそもそもの失敗だった。


 だから、しょうがなく2階の今は使う人のいない兄妹の私物から暇潰しできそうなものをあさってしまったのが、さらなる失敗。


 普段やらないゲームになんだか見覚えがあるような気がして、昔読んだ漫画かな?なんて気軽に電源を入れてしまったのが最大の失敗。


 なんだか懐かしいなー、なんでだろ?なんて、お気に入りの地酒片手にのんきに○ボタンを押し続けてた結果が、衝撃的な突然の再会となったのだ。


 画面右下。薔薇の花モチーフの矢印が、○ボタンを押してと催促する。

 ぼんやりとそれを眺めて、さて、どのくらい経ったんだろう?

 ガタッと1階から聞こえた音に、やっと身体が反応した。起こしてしまったかと思った両親の気配はその後続くことはなくて、安堵と一緒に大きく息を吸って、吐いて。アルコール混じりの思考回路に、少しだけ現実が戻ってくる。


 落ち着け私。落ち着け!


 ギュッとつぶっていた目を開けて、さっきのままの笑顔を観察する。

 似てるといえば似てるんだろうし、違うといえばそれだって通るだろう。だって、彼は実在していて、こちらは女性好みにデフォルメされた絵なのだから。それでも、これは彼だと私自身が強く思ってしまっている。


 さて、この後何が起こるんだろうか?


 ゴクリと生唾をのんでしまったのは、思った以上に彼を見つけた事実を信じたかったから。

 ボタン1つ押すのに、手のひらに汗がにじむ。


『からかわないで、助けてくださいませジークフリード殿下。そもそも、私がこんな所にいるのは貴方のせいですのよ!』


 強気の令嬢が彼の名を呼ぶ。


 その瞬間、記憶を覆っていた布がスルリとなくなって、私は()()()()しまった。

 彼は()だ。

 そして、彼がアデルと愛称で呼ぶこの令嬢は、()だ。

 このゲームの中(ここ)は「私が生きた世界」なんだ。


「なーんだ。やっぱり、なんじゃない」


 呟いた途端、視界が潤む。

 やっと、見つけた。やっと、会えた!

 色んな意味で酩酊した不安定なテンションで、泣きながら、笑いながら、嬉しくってしゃべり続けた。そして、杯を重ねながら、突っ込み所半分の過去にボタンを押し続けた。

 攻略なんてなくたって彼のことは知ってる。

 だって私たちは、幼馴染で、許婚で、恋人同士だったのだから。


 そして、順調に場面はあの夢のシーンへ――クライマックスへと、進んで行った。





 私の死因は出血多量のショック死、なんだろうな、現在なら。

 国家存亡の外交問題で命を狙われたのは、彼だった。その彼を救おうとして斬られたのが私。

 画面の中の出来事なのに、斬られた背中のもうないはずの傷が熱くて、思わず身震いをした。


 ジークが、崩れ落ちる私を抱き締める。


『アデル! アデル! なんで、君は、なんで……こんな……こんなこと、望んでないだろ!!』


 その言葉が、あまりにもあの時のままで、驚いた。

 それまでは、大筋は合っていてもどこか微妙に違っていた会話が、ここだけピタリとはまった。

 だからだろうか。フラッシュバックに身体ごと持っていかれる。

 涙が止まらない。声も出ない。息が、苦しい。

 知っていた。覚えている。

 彼は私を救いたかった。

 でも、彼の思いを私は裏切ってしまった。


『わ…はな、…った』


 画面の中の、細切れの文字すら、あの時のままだ。

 伝えられなかった私の思い。

 だからあんな夢、見続けたんだろうな。


「私は離れたくなかった。生きても、貴方と離れるなんてこと、それこそ望んでない。だからこれで、満足」


 あの時言えなかった、言いたかった言葉がこぼれた。


 初めて見た彼の涙を、拭ってあげたかった。

 抱きしめてくれた彼の腕の中、後悔を抱えながら、それでも私は幸せに逝った。


 そして――






 そしてこれは、乙女ゲームだったのだ。






 私が死んだ後、彼はどうなったのか。

 気にならない訳がない。

 薔薇の花モチーフの矢印が催促するままボタンを押し続けた私は今、装飾過多な「fin」の画面を見ながら、笑っていいのか、怒っていいのか、泣いていいのかわからず、とりあえず枕を抱えて唸っていた。


 だって、死んだはずの私は、瀕死の怪我から見事復活してるし。


 だってだって、ジークはサクッと問題解決して療養先で許婚だっていうのに求婚してくるし!


 だってだってだって! 子供なんか3人とかいることになってるし!!

 

『アデル、ずっと君を愛してる』なんて、あの男は絶対言わない!って台詞で、なんだか無駄にきらきらしながら終わってるし!!!


 なんだか。もう。どういうことよ!って思うんだけど!!

 思って、怒りたいんだけど――ああもう、ハッピーエンドは、最強だね。


 ぐっると回ってこみ上げてきた笑いを枕で押さえながら、なんだか妙にすっきりしてしまっていた。


 こんな最後を、どうして私たちは迎えられなかったんだろうか? 何が、間違いだったのかな?


 考えそうになって、やめた。

 もう、終わったことなんだ。

 だからもう、いい。


 気がつけば、カーテンの隙間からは夜明けの薄い光が見えていた。

 帰省する5日間で呑もうと思っていた一升瓶はほぼカラ。


 もういいや。思い出せて、ちょっとだけ出会えたから、それでいい。


 テレビの電源を切って、布団に潜り込めば、柔らかい感触に急に眠くなってくる。


 そういえば、これって普通に売ってたゲームなんだよね?

 え、じゃあ何人も私のアレとか、コレとか知ってるってこと!?

 うわー、勘弁してよ~。

 いっそ、これも夢だったとか、ならないかな?

 っていうか、なんだってこのゲーム、私の前世、知ってるわけ?

 このゲーム作った人って、何者?

 その人って…


 そこまで考えて、なんだかとんでもないことに行き当たったように思ったのに、すとんと、意識が落ちてしまった。






 だから私が真相(そのこと)にたどり着くのは、もう少し先のことになる。


「乙女ゲームが前世」のパターンを思いついたので、書き出してみました。

これで終わってるのですが、これが始まりになるものが、まだ頭の中でもやもやしてます。

バッドエンド、ハッピーエンド、トゥルーエンド、どの選択肢を選ぶか決まったら、書けるといいのですが。

お読みいただきありがとうございました。

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