王国編Ⅲ
「待ってくれ、金貸してくんねぇか?」
帰ろうとする男を呼び止める。
「いや流石に初めて会うやつに金貸すわけないだろ。」
そりゃそうだ。
「んじゃ、毛皮か肉は持ってないか?買い取ってやる。相場通りとはいかないが、ぼったくりはしねぇ。」
まさに渡りに船。
「じゃあここで30分くらい待っててくれ。」
ガイが口早に言った。
「ん?なんでだ?あ、おいちょっと待て!」
ガイはとてつもないスピードで走り出していった。あいつならなんとかしてくれるだろ多分。
「へぇー、ハナさんの旦那はレオか!俺はてっきりどっかいったガイの方だと思ったがなぁ。当てが外れたか!」
「そうなんですよ!もうホントにカッコよくて!」
無視だ無視。
話をしていくうちにこの人とは名前で呼び合う中になった。
ちなみにこの人の名前はベンさんというらしい。
肉を買い取るという話から予想はしていたが、王都からはさほど離れていない村から来たらしい。俺たちはど田舎から出てきているというていで、この世界や王都の常識を聞いておいた。
しばらくしたらガイが走って帰ってきた。
「これでいいか?」
牙が異常なほど発達し、体格も比べ物にならないくらいでかい猪を担ぎながら戻ってきた。
「おいおい、こいつはイビルボアじゃねえか!こんなの買い取れるわけねえわだろ!」
毒があるとかもしくは加工が難しいとかだろうか。
「マジかよ兄ちゃん!こいつ結構手こずったんだぜ?」
そりゃそうだろう。こんなでかい猪、普通狙わない。なんなら鳥とかでよかった。後は昨日食った鹿とか。こいつやっぱりバカだわ。
「高すぎるんだよ!俺の金が足んないの!」
は?んじゃこいつは大捕物だったのか。流石だなガイ。
「では、買い取れそうなとこだけ買い取ってもらう形で…」
ハナが妥協案を出す。
「こいつは最低でも金貨からの支払いになっちまう。俺なんかが買えるもんじゃねぇよ。」
そんなに高いのか!
ちょっと待ってくれ、ガイの適応力なめてたわ。すごすぎる。
「んじゃこの牙一本やるからよ!通行料分くれよ。」
「そんな真似できるか!ぼったくりのレベルを通り越してるぞ!」
やっぱりベンさんはいい人だな。
ここは男気の一つでも見せる時か。
俺がとってきたわけじゃ無いけどな。
「いいんじゃねぇの?ベンさんは俺らを騙すことだってできたのにしなかったし、色々教えてくれたしな。だから貸し一つだ。今度会ったら酒でも奢ってくれや。」
「そうだったのか兄ちゃん!なら遠慮なく持ってけや。」
「そうですね、ベンさんもレオさんのこと褒めてくれましたしね。」
判断基準はそこですか…。
「ほ、本当にいいのか?」
「なぁに、またとってくりゃいい。」
ニカッと笑うガイ。
マジでカッコいいな。男の惚れる男というやつだろうか。
ベンさんは流石にこれくらいはと銀貨10枚と銅貨30枚をくれた。
ベンさんと別れ、俺たちは王都へと向かった。