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雌牛と熊と偽剣豪の異世界奇譚  作者: てんてん
王国編
14/16

王国編Ⅸ

諸事情により投稿が遅くなってしまいました。申し訳ございません。

代わりと言っては何ですが、いつもより文字数が多めです。

前話でガイ視点と予告しておりましたが、正しくはレオとハナの戦いの裏での、ガイの場面でした。

 赤みがかった空も日が落ちかけ夜に移り始める頃、屈強な男は多くの婦女に囲まれながら笑っていた。


「ガハハハッ、いいねえ!今晩どうだ!」


 極めて下品な言動。だが、対する婦女たちはまんざらでもない表情を浮かべる。


「えぇ~どうしようかしら。」


「もうガイさんのエッチ。」


「私はいいわよ!」


「何抜け駆けしようとしてるの!ガイ~私はこんな小娘たちよりもすっご~いことできるわよ。」


「私~ガイさんに一目ぼれしちゃった。」


 皆これから出世するであろう新人に向け誘惑する。

 たとえ冒険者といえど、一部の頂点に近い者たちはそこらの貴族より遥かに稼ぎがいい。いずれ活躍する有望株を早く篭絡してしまおうと躍起である。


「おうおう、喧嘩すんな!何なら全員相手してやろうか?」


 一見野蛮で下品な男だが、それを凌駕する魅力をまとっているのだ。

 これでもかというほど発達した筋肉、野性的な表情、整った顔。

 あらゆる雄の強さを兼ね備えているのだ。


「「「「「キャ~!」」」」」


 婦女たちは表面上では可愛らしい悲鳴を上げるが、内心では今宵のガイとの情交に高ぶっていた。そしてどんな言葉でこの男を誑し込んでやろうか、どんな技でほかの女どもより気に入ってもらおうかと思考を巡らしていた。


 その様子を理解してか、ギラギラとした欲情の視線を向けるガイ。

 だがガイは突然の僅かな殺気にわずかに反応する。巧妙に隠してはいるが、野生に生きてきた彼にとってそれは目の前で武器を向けられているに等しい。


 あそこだ。あの()が俺を狙っている。






「へー、いい男じゃない。」


 人ごみからそうつぶやいた赤毛の女の名はマチルダという。この街のマフィアから暗殺を依頼され、ターゲットであるガイという男を観察していた。


 モンスターを狩るだけでは飽き足らず、さらなる強敵と対戦するために依頼を受けた。

 初めて冒険者の制約を破り暗殺依頼を受けたが、微塵も罪悪感などなかった。むしろそれに勝る好奇心に心を躍らせていた。

 ずっと狙っていたイビルボアを一人で狩ったのだ、当然並大抵の強さではないだろう。

 勝負してみたい。その願望が彼女の口角をあげ、僅かな殺気を漏らしたことに気づいていない。


 二人の目が合う。人間種では考えられないような、獰猛な笑みを浮かべるガイ。思わず鳥肌が立ってしまうマチルダ。

 こうなっては暗殺することは不可能であろうと考えたマチルダは、その不敵な笑みを浮かべたままガイに近づいていく。もともとマチルダは暗殺などしたくはなかった。正々堂々と打ち取って初めて充足感が得られる。


「ねぇ、私も混ぜてよ。」


 体つきがよく、少しきついが整った顔。だが浮かべる笑顔は狂気に満ちており、凡夫では逃げ出してしまうだろう。


「な、なに言ってるの?あんた。」


「そうよ!男みたいなお前をガイが相手にするわけないでしょ!」


「汚らわしい()()()()め!」


 婦女たちは口々にマチルダへ罵倒を浴びせた。

 混じり物とは人間と他の種族との子を指す蔑称であり、ここエリンシア王国で顕著であった。


「お前、おもしれぇな。」


 だがガイは笑みを浮かべながらそう言った。


「え、何言ってるのガイ…?」


 ひどく驚く婦女たち。その中の一人が少し怯えながらも声を絞り出す。


「わりぃ、さっきのナシだ!今日は帰ってくれねぇか?」


 先程の笑顔と違い、やんちゃな笑顔に戸惑う。


「うそでしょ?本気なの…?、もう知らない!」


 呆れたといわんばかりの態度。他の女性たちも怒り、戸惑い、失望といった様々な感情を抱いた。

 そして文句をたれながらも帰っていった。


「よかったの?私としてはうれしい限りなんだけど。」


 マチルダはいつまでも、ぎゃあぎゃあわめかれるのはいい加減うんざりだった。


「よくはねぇが…あんくらいの奴らだったらいくらでもいる。」


 ガイからしてみれば雌は自らすり寄ってくるものだ。


「そのかわり、今晩はいい女が抱けそうだからよ。ついてこい俺の宿あっちなんだ。」


 ガイはそう言い背を向けて歩き出した。

 そのあまりの態度にマチルダは憤りを覚えた。


「なんだいなんだい、手が早いねー。」


 怒気を隠しきれず声が震えてしまう。


「ちょっとあそこの路地に入らないかい?」


 見え透いた罠。


「お!手が早いのはお前さんの方だろ。」


 それを茶化しながら答えるガイ。


 路地に入ったところでマチルダが剣を抜いた。


「そういえば名前言ってなかったね。私はマチルダ。あんた最初に目が合った時からわかってたでしょ。こうなるって。」


 マチルダが剣を抜いたにもかかわらず、ガイは何ら焦った表情を見せない。


「なんだ?そういうハードなのがお好みかい?」


 ついにマチルダは怒りが頂点に達し、剣を振りかぶった。


「ふざけるな!」


 その瞬間、ガイからとてつもない力の奔流があふれ出す。マチルダは冷や汗が止まらなかった。

 絶対的な強者との遭遇、それは自らが望んだものであったが、蓋を開けてみれば恐怖と深い後悔しか残っていなかった。


「ふざけてんのはお前だ。俺とお前では格が違う。ハナっから勝負にすらならねぇんだよ。」


 ガイは別人のような低い声色でそう告げた。

 マチルダは膝をがくがくと揺らし、目には涙を浮かべていた。

 悔しい。これほどまでの力の差、後悔してしまった自分の心の弱さ、そしてなにより強大な雄に屈服してしまいそうになる雌の性。


「お前みたいな弱い雌は、媚びへつらって生きてりゃいいんだよ。」


 ガイから更なる力の圧がかかる。今すぐ倒れられればどんなに楽だろうか。しかしマチルダは倒れなかった。


「くっそおおおおおお!!!」


 自らを鼓舞し、決して勝てないであろう敵に向かっていったのだ。矜持を捨てるぐらいならば死ぬ。剣も持たず無我夢中で拳を突き出した。



 だがそれは届くことはなかった。


「合格だ。マジでいい女だぜお前。俺の女にしてやる。」


 突き出した腕をガイに引き寄せられ抱きしめられた。

 なぜだか安心してしまった。自然にためていた涙があふれてくる。


「おう、泣け泣け!泣いた分だけ強くなるからな。ガハハハッ!」


 強い心労からか、マチルダは気を失ってしまった。




 しばらくたち、マチルダは目を覚ました。

 そこは宿屋だった。おそらくガイの借りている部屋だろう。


「おう、起きたか。」


 そこには一糸纏わぬガイの姿があった。








2話連続でふざけたことを書かなかったので、次回は息抜きがてらにふざけた回にしようと思います。

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