幕間
「あ、タバコがきれてやがる。」
しょうがない買いに行くか。
「ねぇ、どこ行くの?」
ベッドの中から、裸の女が眠たげに問いかける。
「タバコ買いに行くだけだ。」
俺は女に向かってそう告げた。
「そんなこと言ってこの前、隼人は私から逃げたじゃない。認めません。私もついていくわ。」
九条小百合、面倒臭い女だ。いつもこうだ。小学校の頃から俺にベッタリくっついてきやがる。年上の癖にだ。同じ学年にはあの兄貴がいたはずなのに。
だがこいつには借りがいくつもある。巧妙に隠しながら借りを作ってきやがるから厄介だ。
こいつは高貴な出のお嬢様だ。縁を切るには惜しい。
だが便利すぎる。便利すぎて結局ズルズル付き合ってしまい今に至る。
「何言ってんだよ。タバコ買いに行くだけだろが。」
こんなこと言っても無駄なのは知っている。
なぜなら…
「あら、いいの?」
ほら、この言葉と意味ありげな顔だ。
本当に憎たらしい。
「チッ、なら早く支度しろ。」
もう、俺の人生こいつの奴隷なのだろうな。
折角兄貴が立ち直ろうとしているんだ、小さい時弱かった俺を守ってくれた分、俺も兄貴のことは守ってやろう。
「準備出来たわ。あ…やっぱりいいわ。」
全く女の準備は長すぎる。
最後歯切れが悪かったが、口にしないぐらいだ、どうでもいいことだろう。
「早く乗れ。イライラしてきた。」
「本当にデリカシーのない男ね。少しレディのエスコートを学んだらどう?」
イライラの原因がお前だと言えたらどんなに楽だろうか。
「そんなもの知らなくていい。」
そう言い、フルフェイスのヘルメットを先に被り、もう一つを後ろに放る。髪型が崩れるとか文句を垂れ始める頃なのでエンジンをかけて軽く吹かす。
昔は先輩から受け継いだ400cc、族車仕様の国産バイクだった。
今ではイタリア製でリッター越えのスーパースポーツだ。二人乗るにはかなりキツイが、小百合は短時間かつスリムなため乗れている。そもそも後部座席に乗ることなんて滅多にない。
閑静な住宅街からほどなくして着く…はずだった。
急に後ろの小百合が態勢を崩した。
「あ、おいバカ!」
こいつ無理してやがったな。多分意識がとんでるな。
転ばないように体制を整えたら、対向車線にはみ出していた。ハンドルを戻そうとするがもう遅い。ブレーキを踏む間も無くミニバンと衝突した。
はぁ、こんなとこでおっ死ぬとは。
小百合…も死んだだろうな。車体の土手っ腹からいったはずだ。
まぁ小百合の親父さんなら多分俺の家に責任を負わせることはない。
親父さんには本当に悪いことをした。死んでも詫び切ねぇってのはこういうことだな。
兄貴、俺はもう守れねぇから母さんを守ってやれよ。
弟と再会するのはまだ先です。