プロローグⅠ
俺の名前は田上麗央。田舎に住む普通の会社員…だと思う。両親が日本人なのに地毛が金髪だけど、あれだ、ちょっと地毛が明るいだけだ。でも弟は黒髪なんだよな。
これまでの人生多少荒れたりしたけど多分普通だ。中学不登校だったり、高校で暴走族やったりしたけど普通…だよな?うん、普通だな!
だが自分で言うのもなんだが小学生の時は輝いていた。スポーツは全部得意だった。女の子にもすこぶるモテた。特に実家が剣道道場をやっていたから剣道は負けたことなどなかった。そんな俺が唯一挫折したのは卒業式の日に女の子にフラれたことぐらいだ。
それが原因で中学不登校になったのは秘密だ。
最終的には生きてさえいればそれでいい。親より先に死なないことが、なんだかんだいって一番大事なのだ。親父が死んで学んだことだ。母ちゃんにきつく言われたからな。
「はぁ、えらいほこりたまってんな。」
実家に帰省していた俺は、久しぶりに道場に来ていた。窓から差す光でほこりが舞っているのがわかる。親父が死んでから道場はただの物置だ。先祖様が金獅子と異名をとる剣豪で、この道場を立ち上げたらしい。小学生の頃は強かったし金髪だったから、金獅子の再来と持て囃されたものだ。今となっては恥ずかしい。
「あー先祖に顔向けできねーなー」
中学からは一度も刀を握っていない。高校からはケンカの仕方ばかりを覚えていった。
そんな時ふと思い出す_____。
「んーなんだっけなー、『心でもって斬る」だったか?」
この言葉を教えてくれたのは親父じゃない。小さい頃、裏山で道に迷い途方に暮れていたところを助けてくれた仙人からいただいた言葉だ。あの体験は不思議だった。ずっといた気がするのに1日分しか時間は経っていなかった。何をやっていたのかもとうに忘れた。だがこの言葉だけは確かに覚えているのだ。
近所の大人総出で探して見つからなかったのにもかかわらず、山の麓にいつのまにか帰ってこれたこと、不思議な体験をしたこともあり、家族には金獅子様に救っていただいたと言われた。
気まぐれに訪れただけなのだが、思いに耽ってしまった。そろそろ家の中にもどろうかど思ったところ、ほこりをかぶった一振りの刀を見つけた。
薄汚いのに視線がそれへと吸い込まれて行く。
心から欲しているような感覚。
手に取れば今ある心の渇きが潤うと感じてしまう。感じてしまった。
刀を手にとってしまった。汗と震えが止まらない。刀もカチカチと音を鳴らしている。心臓もドクンドクンと音を立てている。しかし、この刀自体が脈動しているのではないか?そんな気がしてならない。
刀が己を抜けと語りかけているようだ。
闇夜に包まれたような重厚感のある黒に、荒々しく、華美で下品に思えるような金の装飾。
己が体を他の誰かが操っているように刀が抜かれる。
そこからあらわれるのは
そんな鞘に似つかない、ただひたすらに綺麗な刀身。
これはまるで…。
そこでハッと気づく。
ただ立ち尽くしていた、刀を見つけた時のままの立ち位置で。刀が置いてあった場所にはほこりをかぶった刀掛けが隠れるようにあるだけだった。
初投稿です。矛盾点や間違った言葉遣いがあればご指摘いただけると幸いです。