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(……聞こえますか)

 シシの言った通り、迎えはすぐにやって来た。馬に乗った数十人の男達。彼らの耳は横長に尖っていて、ファンタジー世界で言うところのエルフのような種族なのだろうと推測する。

 だが、俺は大きな問題に直面していた。

 言葉が通じないのだ。

 シシとは普通に会話していたので気づかなかったが、よく考えればここは異世界。俺の世界と言語が違ってもおかしくはないだろう。

 そんな訳でボディランゲージを駆使して意思の疎通を試みた。

 どうにか意思は伝わったらしく、彼らのリーダー格だと思われる男が自分の馬を指差しながら何事かを語っている。

 恐らくはこの馬に乗れと言っているのだろう。

 俺は流されるままに馬に跨り、その後ろにリーダー格の男が乗った。そして、俺達は世界樹に向かった。




「君が神竜シシが連れてきた救世主で間違いはないか」


 世界樹の城の謁見の間らしき場所で待ち受けていたのは気品溢れる美男子だった。


「はい、その通りです」


 漸く言葉が通じる相手が現れたことに安堵するが、どうやら俺と会話出来るのはその美男子だけのようだ。


「自己紹介がまだだったな。私はこの国を治めるクサ・ハ・エルだ。皆からは妖精王と呼ばれている」


 この人が妖精王だったのか。見た目は俺と同じくらいの年齢に思えるが、確かに彼から放たれる貫禄はまさに王といったところだろう。


「貴方が妖精王でしたか。俺……いや、私の名は……アシタカと申します」


 本名を名乗ろうと思ったが、あだ名の方を名乗った。短い間だったがシシにそう呼ばれていたことが心に引っ掛かっていた。

 俺の想いを単純に言えば、シシとの繋がりが無かったことになるような、そんな気がしたからだ。


「そう畏まらなくともよい。君は我らの救世主だ、普通に振舞ってくれて構わない」


 そう言われても妖精王から溢れる雰囲気に圧倒されて普通に喋れない。


「神竜シシの身に何が起こったのか聞かせて貰えないだろうか」


 俺は尻込みながらもことの経緯を判る範囲で説明した。


「ふむ……死弾のワロスか……」


 妖精王の発したワロスと言う単語を聞いて傍に控えていた臣下達が険しい表情をしながらざわめく。どうやら悪い意味で相当な有名人のようだ。

 と、その時、謁見の間に一人の兵士らしき人物が駆け込んで来た。

 そして、何事かを謁見の間に居る者達に伝えている。恐らくは伝令だろう。


「アシタカよ、済まないが話の続きは後々聞かせて貰おう。それまでは城の貴賓室で旅の疲れを癒すとよい」


 そして、俺は謁見の間から半ば追い出されるような形で城の貴賓室らしき場所に案内された。

 案内してくれているメイドらしき人物に語りかけてみたが、やはり言葉は通じなかった。


「……これからどうしたものかな」


 貴賓室のいかにも高級そうなソファーに深く腰をおろして今後のことについて考える。

 言語の問題もあるがそれ以前に俺は戦いというものに慣れていない。何らかの武術に長けている訳でもないし、知略に長けている訳でもないのだ。

 そんな俺が救世主としてどうやって世界を救えばいいのだろうか。

 そもそも情報が不足し過ぎていて何から考えればいいのか分からない。

 ……まあ、悩んでいても仕方ない。この世界が救世主としての俺を求めているのなら、その役目を果たせばいいだけの話だ。

 俺に与えられた唯一の存在理由。元の世界には無かった自分自身の価値。シシと出会うまでは無かったもの。


「俺は世界を救うとシシに誓ったんだ」


 そう言葉に出すと胸の中で何か熱いものが込み上げてくる。

 そうだ、俺は世界を救う。その為にやって来た。この世界で救世主としてサクセスするのだ。

 その為には詳しい話をクサ・ハ・エルさんに聞かないとな。

 俺は再び彼に呼ばれるのを待つことにした。



 暫く待っているとそれは唐突に聞こえて来た。

 聞こえてきたのは誰かが話し掛けているような声。

 クサ・ハ・エルさんの使いが来たのかとドアを開けてみるが、そこには誰も居ない。通路を見渡してもメイドさんや衛兵の姿はない。

 ……誰も居ない? 妙な違和感があるが、それよりも今は声の主だ。

 再び部屋のソファーに腰掛けるとまたしても声が聞こえる。しかし、この世界の言葉が理解出来ないから何を言っているのか分からない。

 誰も居ないことだ。とりあえず、俺に話し掛けていると仮定して会話を試みよう。


「俺に話し掛けてるのはわかるんだが、何を言っているのかが分からない。可能なら日本語で頼む」


 声が止んだ。そして、暫くの間を置いて再び声がした。


(……聞こえますか……通じてますか……今、貴方の……心に直接……語り掛けて……います……)


 どうやら声の主は音ではなく心に直接語り掛けることにしたようだ。

 この場合どう反応すればいいのだろうか。とりあえず俺も声の主に倣って言葉を念じてみる。


(ちゃんと通じてる。それで、用件はなんだろうか)

(ああ……伝わった……みたい……ですね……よかった……)


 どうやらこの方法で良かったようだ。俺は何やら安堵している様子の声を聞き続ける。


(率直に……言います……水と……何か……食べられるものが……欲しいのです……)


 声の主は食べ物を欲しているようだ。そこで俺は漸く自分がコンビニで買った晩飯を持ったままここまで来ていることに気付いた。

 因みに晩飯として買ったのはアンパンである。それも五個。まあ、それは別に良いとして、声の主にそれを伝える。


(食べ物ならここにあるけど、どこから話し掛けているんだ)

(今……貴方の……後ろに……居ます……)


 ……メリーさんかよ。

 若干躊躇われたが、とりあえず振り向いて見た。しかし、そこには小さな壺が飾られているだけで声の主は居ない。

 それとも、この小さな壺が語り掛けてきているのだろうか。まあ、異世界だしそれもありなのかもしれないな。


(後ろに誰も見当たらないんだが)

(壺の……中です……)


 壺の中……封印でもされているのだろうか。俺は立ち上がると壺の近くまで行き、中を覗いてみた。

 そこにはパジャマみたいなもこもこした衣服にサンタクロースが被っているような帽子を被った小人が入っていた。



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