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防衛出動Ⅱ

木更津駐屯地 第1普通科連隊本部 保坂一佐

師団本部からの通達が入った。それを連隊幹部や臨席する警察消防海保、自治体の人間を前にして話す。

「先ほど我々に対して政府より防衛出動が命じられました。ここから先は本来であれば私どもだけで行動する事になりますが、ここに至るまでの経緯と状況を考慮し、臨席された関係機関の皆様にはこのまま残って頂きたく思います。周辺は完全な警戒区域指定を受けましたので、自治体の方々は役所や避難所への退避をお願い致します。」

官民で動いていたここもついに[官]だけの場所となった。自治体の民間人たちは警察の誘導により基地を後にしていき、格納庫を漂っていた何所となく穏やかな空気が消え去る。彼らにいよいよスイッチが入ったのを、警察消防海保の人間たちは肌で感じていた。

「第1第2中隊は漁港への進行を再開、第3中隊は現状のまま待機だ。5中隊の現在地を報告してくれ。」

「アクアラインに入りました。重迫中隊も随伴しています。」

「第4中隊の状況を頼む」

「消防隊の護衛を継続中。コンビナートの延焼は最大事の60%まで低下。遠からず鎮火するでしょう。」

「よし、言うまでもないがこれからは爆発物や重火器も使える。これらを駆使して漁港を速やかに制圧しよう。」

滑走路では新たなAH-1Sの小隊が離陸を始めていた。機関砲しか使用許可が下りていなかったグランパスと違い、今度は両ウィングのロケットポッドやTOWミサイルも満載している。他にも格納庫で準備を整えていた機体が滑走路へ並び、次々に離陸していった。

『ホーネットチーム、離陸します』

『ストライカーチーム、離陸』

『タイパンチーム離陸完了』

3個小隊のAH-1Sが展開。ホーネットは第1第2中隊の直援として随伴し、ストライカーは帰還中のグランパスと入れ替わって五井大橋に向かった。タイパンチームは幕張海浜公園の巨大生物攻撃のため急行する。


1普連第1中隊長 根本三佐

「AHが漁港を掃射する前に、我々も迫による攻撃準備射撃を行う。以後は同AHの隊が直援として我々を支援する予定だ。派手に行くぞ。」

『こちらキムリック、観測支援の用意が整った。始めてくれ。』

「了解、これより評定射撃を実施する」

第1第2中隊の迫撃砲小隊が射撃を開始。場所が場所なために何発かは海へと落ちていった。キムリックの支援によってゆっくりと着弾地点が定まり始め、侵食1型と2型の溶解液で海岸のようになってしまった漁港に砲弾が集中していく。

『捉えた、今の状態がベストだ』

「効力射開始!全力でいけ!」

一定のリズムだった射撃がここから連続したものに変わった。漁港に砲弾が絶え間無く降り注ぎ、まだ生きている人型や中途半端に傷を負っていた侵食1型を薙ぎ倒していく。迫撃砲特有の甲高い発射音が何度も鳴り響いた。

「中隊長、AHの小隊が来ます」

「射撃中止だ、各小隊は前進の用意」

小隊長たちが隷下の隊員に向けて激を飛ばす。小銃から外していた弾倉を再び装填し、初弾を送り込んで安全装置を掛けた。砲撃が止み、静けさが訪れる暇も無くヘリのエンジン音が一帯を支配する。聞き慣れた力強いエンジンの音だった。

『こちらホーネットチーム、これより掃射を開始。然る後に突入願います。』

「了解」

漁港の上空まで進出したホーネットチームは2機ずつに別れた。それぞれ別の火器で攻撃を行う手筈である。

「奇数番機は機関砲、偶数番機はロケット弾を使用せよ」

地上掃射が始まった。まだ残っている生物群を全て平らげるような激しい攻撃だ。そこへ2個中隊がゆっくりと進み、ついに漁港の入り口へと辿り着く。一緒に前進した県機の投光車による灯かりが敷地内を照らし出した。

「これより敷地内の制圧と遺体の収容作業を開始する。生存者がまだ残っている可能性は残念ながら望み薄な上に、何所で人型と遭遇するか分からん。連携を密にして進め。」

事態発生から10時間ばかりが経過し、ようやく漁港を取り戻す一歩手前まで来た。沿岸の各所に上陸した巨大生物への対処も時間に沿って相応の戦力が投入されていくだろう。


厚木基地

富士教導団戦車教導隊 第4中隊[戦教-4]

「第3及び第4小隊現着、お世話になります」

「403飛行隊の辻三佐です。16式の空輸は我々も初めてですので、どうか宜しくお願いします。」

基地内に16式機動戦闘車の小隊が到着。滑走路で待機するC-2輸送機へ流れるように飲み込まれていった。美保基地にのみ配備されている数少ないC-2輸送機を16式空輸のために大急ぎで呼び寄せたのである。搭載が済んだ機からアプローチに入り、1機ずつ離陸を開始。目的地は千葉県の海自下総航空基地だ。そこから先遣隊は陸路で千葉市へ向かい、幕張海浜公園に上陸した巨大生物2体を叩く。後続は葛西臨海公園へと向かう手筈になっていた。都心側は御殿場を出発した第1戦車大隊が攻撃を受け持つ。


羽田空港

警視庁東京国際空港テロ対処部隊指揮官 原警視

悪い夢を見ていると思いたかった。しかし現実は容赦してくれない。訓練によって染み込んだ避難誘導と対策本部の設置が進み、空港職員や警備員が走り回る中を双眼鏡片手にロビーへと歩く。外が見える場所まで辿り着いて双眼鏡を覗き込むと、滑走路を歩き回る真っ黒い大柄な人型と灰色のウミウシかナメクジのような投射型が視界に飛び込んだ。そして何をするでもなく横たわり、口から溶解液とガスを撒き散らす巨大生物も見える。

「……まぁ、相手が人間じゃないから気負いしなくていいか」

どんな立場であれど【人を殺す】と言うのは覚悟が居る行為だ。それが例え犯罪者だろうとテロリストだろうと同じである。しかし、我々が対峙しているのは人間ではない。それに恐怖を感じる者も居るだろうが、我々のような非常時に備えている人間にとってはある意味で好都合だと思った。そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられる。

「警視、各部署共に準備完了。空港職員の退避にはもう少し時間が掛かりますが、敷地内の民間人は全員の避難が終わりました。」

「了解、それじゃあ本部へ向かおうか」

施設内に設けられた対策本部に入った。各部署の責任者だけでなく、至近にある空港署からも人員が来ている。これが初の合同オペレーションとなった。

「今一度、状況の報告を」

「国際国内線共に成田への誘導が完了。ここに降りて来る民間機は居ません。」

「葛西臨海公園へ急行中だった本庁SATですが、海保の支援によって生物群撃退の見込みが立ったためにこちらへ急行するとの報せがありました。到着はもう間も無くと思われます。」

「陸自第1師団より戦車派遣に関する通達がありました。約1時間で到着見込みとの事です。」

戦車とは随分と頼もしい増援だ。しかし道路事情を考えるとそう簡単に1時間での到着は難しいだろう。

「SATはヘリで移動だろうが陸自さんは何とも言えんな。誘導の用意は整えといてくれ。彼らが来たら真っ先にバトンを渡すつもりでいこう。それでだ…」

テーブルに広げられた羽田空港の地図を見下ろす。何とも広大だ。この広い敷地を70名足らずの人員で守り切れるとは思えない。

「千葉県警や本庁ERTの情報から考えたが、まず狙撃を主眼とした作戦を実施する。月並みな作戦だがまずこれで連中の数を減らす。但し、目標は人型ではなく例の投射型だ。」

視線が集中するのを感じた。次の発言を全員が待つ。

「人型はこちらにある程度の機動力と防御力があればそこまで怖い敵ではないと思う。問題なのはその機動力と防御力を破壊する事の出来る投射型だ。狙撃によって投射型を退け、然る後に車両を中心とした機動力で人型に急接近し瞬間的火力でねじ伏せる。狙撃チームはその際に誘導と観測の支援へ任務を移行。これを駆使してSATか陸自の到着まで時間を稼ぐ。」

これまでの事から、待ち伏せによる接敵はリスクが大きいように思えた。向こうの射程はこちらよりも短いが、一旦攻撃に転じられると制圧力が大きいのは向こうになる。防弾車で防いだとしてもその後ろに居る人員にまで幅広く危害が及ぶのだ。

「車両は制圧1個班につき2両、合計で6両の編成とする。人型の至近まで突っ走り、ガンポートからの射撃で速やかに制圧を行え。空港署警備課の人員は空港敷地の出入り口を封鎖。SAT及び陸自の受け入れに備えて下さい。」

このまま作戦を開始しそうな勢いを狙撃チームのリーダーが挙手によって阻んだ。投射型の撃退を命じられた人間としては聴いておかなくてはならない事がある。

「どうした」

「投射型の何所を狙えばいいのでしょう。我々はまだ実物を見ていませんし、映像ですら確認していません。」

ニュースで放映されたのは人型と侵食1型、例の巨大生物だけだった。投射型と侵食2型が居る場所は必然的に激戦区なので、映像はおろか写真すらまだ開示されていない。その辺の公開に関してはまだ準備が終わっていないのだろう。

「向かって来る方向に溶解液の塊を撃ち出す突起がある。俺もさっき確認したが、存外に分かりやすい生物だ。理解するのに難しい形状はしていないと思う。」

「了解、ありがとうございます」

「他に何も無ければ作戦の開始に移行する。時間が惜しい事を忘れないでくれ。」

とは言うものの、やってみなければ何も分からない状況だ。ここからはその場その場で対応するしかないだろう。そんな雰囲気を残しつつ、部隊は作戦行動に入っていった。


防衛省 統合幕僚監部 藤原統合幕僚長

何とも妙な事になったと言いたい所だが、気安くそれを発言していい立場でない事は十分に自覚していた。この時間にも関わらず大急ぎで集結した3軍の各幕僚長を前にして現在の状況を話し合う。

「自衛隊初の治安出動からそのまま防衛出動へと雪崩れ込んだ訳だが、まず陸幕としてはどのぐらいの兵力動員を考えているか聴かせてくれ」

ゆっくりと立ち上がった陸幕長は、数枚綴りの資料を注視しながら喋り始めた。

「既に治安出動によって現地で活動中の1普連を始めとする第1師団、及び第12旅団より部隊を抽出。空挺団も準備が整い次第ですが、もう3個中隊を投入予定です。富士教導団からも装甲火力に富んだ臨時編成の部隊を投入します。最終的には東部方面隊の6~7割近い人員を動員する事になるでしょう。付け加えになりますが、コア部隊の運用は現在検討しておりません。隊員の所在を全て把握出来ない可能性が高く、部隊集結に時間が掛かる事が予想されるためです。」

即応予備自衛官で編成されるコア部隊も十分な戦力と言えるが、今の状況を考えると集結から準備が整うまでの時間が惜しかった。であれば常備の部隊を動かした方が早いだろう。

「分かった、その方針で構わない。海幕はどんな感じだ。」

「沿岸周辺の部隊を総動員する事になります。第1護衛隊群と第2潜水隊群は勿論の事、横須賀地方隊や厚木の第4航空群を主戦力として湾内を封鎖。また事後承諾となってしまいましたが、横須賀に係留している2護群隷下の第6護衛隊を臨時に1護群へ編入しました。佐世保の第5護衛隊は後詰として既に出港しています。もしお鉢が回って来る前に第5護衛隊が到着しましたら、第6護衛隊は直ちに離脱させて入れ替わりに後詰として展開させます。」

同じ港にそれぞれ別の指揮下にある部隊が混在するのも考え物な気がした。機動運用としては良いかも知れないが、今回のような防御的行動になった場合、指揮系統の違う部隊をどうやって統合運用するかは今後の課題と言えるだろう。

「加えて先ほど上がって来た報告ですが、浦賀水道で正体不明の音紋を感知し現在追跡中との事です」

「その数は」

「1つです」

例の巨大生物に対し、統幕で新たに呼称する事となったのが「上陸艇型」だ。現在観測されているのは計10体である。そこへもう1体の増援とは腑に落ちない思いが強かった。

「……取りあえずいいだろう。空幕の話を聴かせてくれ。」

「相手は航空機でありませんので、百里基地の第7航空団でも十分に対処可能な事態であると考えます。例の上陸艇型に対し、航空攻撃によって火力を投射して撃破出来るでしょう。」

第7航空団は空自で最後のF-4を運用する部隊だ。昨今の周辺国が配備する空軍の主力戦闘機と比較して既に時代遅れである事は周知だが、幸いにも相手は航空機ではない。慣れ親しんだ機体を操る彼らには物足りないかも知れないが、下手に撃墜される危険性がないのは有難い事だった。

「1つ問題がある。誰もが思っているかも知れないが、あのサイズとは言え相手は生き物だ。それにミサイルをロックオン出来ると思うかね。」

その疑問は多くの隊員も考えていた。TOWや中MATのような『目標を照準し続ける』タイプのミサイルであれば、恐らくかなり高い確率で当てる事は出来るだろう。ではレーダーや赤外線を使用するミサイルはどうだ。F-4だけでなく、F-2や海自のP-3C、P-1も搭載可能な対艦ミサイルを生物に向けて当てる事が出来るのだろうか。その道のベテラン隊員や技官たちに訊いても「やってみないと分からない」との答えが非常に多かった。3軍の幕僚長も顔を見合わせて答えが出ない。

「まぁそうだろうな。では方針の1つとして、誘導火器は確実に当たる物だけの使用を厳命しよう。戦場となるのは沿岸一帯で建造物がそこら中にある。予想だにしない被害を発生させる可能性がある火器の使用は控えるよう通達を頼む。」

「海幕としましては戦場が湾内である間はミサイル類を使用しない方針で考えておりました。少なくとも、浦賀水道から外に出るまではその方が良いでしょう。」

誰が使用許可を出したのなんのと後で責任問題が起こる可能性を極力排除するための話し合いが進む。現場に居る隊員たちが出来るだけ自由に動き回れるようにとのお膳立てでもあるが、今回の事は過去に例が無い事態だ。防衛出動が下命されたとは言え、相手は戦車も航空機も保有しない未知の生物群である。そんな物に現場の判断でミサイルを使用して、もしロックオン可能でも当たらなかったら撃った隊員たちが判断基準を問われるだろう。何もかも現場の判断では済まされないのだ。しかし、事細かに決めては逆に行動を縛る事になる。だから大枠的な方針を考える事が重要でもあった。

「それで話は戻るが、例の1体だけ出現した音紋について検討したいと思う」

これが悩みの種だった。既に何度か情報は更新され、それは確実に存在し得ると断言出来るだけのデータが揃い始めていた。海幕長も渋い顔付きになる。

「考えたくはありませんが現場から親玉ではないかとの声も上がっております」

「その可能性は十分にあるだろう。では仮に親玉だとして、我々はどうやって立ち向かうかを考える必要があるな。空幕としてはどう対処するべきだと思う。」

空幕長は虚空を凝視しながら独り言のように呟き始めた。その内容は元教育集団司令だけあって、かなり柔軟な思考である事が窺える。

「対艦ミサイルを悪戯に撃てば味方艦艇に被害が及ぶ危険性があります。ですので攻撃は無誘導爆弾。もしくは一時的に味方を遠ざけ誤爆の危険性を排除し最低実用高度から赤外線誘導爆弾の使用。より確実性を期すならば陸海空共同によるレーザー誘導爆弾の運用。ミサイルが自由に使えない以上はこの当たりで立ち回るしかないかと。」

もし遮蔽物が全く存在しない大海原に1体の怪獣がポツーンと居たならば対艦ミサイルを当てられる可能性はあるだろう。しかし我々が相手にするのは上陸するまで水中を進む生物だ。無闇に撃てば予想もしない結果を招きかねない。

「宜しい、安全第一の精神を大事にしよう」

結果として、幾つかのプランが用意されるに至る。その1体が他と同じ「上陸艇型」であれば方針に大幅な変更は無いが、もし親玉だった場合は陸海空統合運用での大規模な作戦行動に移る準備を進める事になった。しかし時間を考えると、その場合でも現在急行中の部隊が主力であって、そこへ加える増援は首都圏近郊のみの部隊とする方向で話が進んだ。つまり、どっちに転んでも限られた駒で勝負する腹積もりとなった。


千葉県警SAT隊長 楠本警視

幕張海浜公園に上陸した巨大生物が更に園内を進んで道路まで躍り出たとの報告が狙撃チームよりもたらされた。2体目の巨大生物はまだ体内に多数の人型や投射型を有しているようで、公園の敷地外に地上兵力の投入を始めたらしい。空挺部隊はまだ移動中だが到着を待っていては被害が拡大する。これ等の侵攻を阻止するため、楠本警視は3度目の出動を決心した。

(小野沢、お前も連れてってやるぞ)

遺体の上に置かれた小野沢警部のMP5を掴んだ。弾倉にはまだ弾が残っているが、それは取り外して自分の弾倉と取り替える。医務室を後にして県警庁舎前に整列する部下たちの所へ向かった。楠本の姿を確認すると、全員が姿勢を正して出迎えた。指揮下に加えた銃対隊員も並んでいる。

「2体目が公園の敷地外に陸上兵力の投射を始めた。残念ながら空挺部隊はまだ移動中で到着に今暫くの時間が要る。現状としても尚、この近辺で対処可能な能力を有するのは我々だけだ。その侵攻を遅らせるため、再び連中の前面に布陣して阻止攻撃を行う。厳命するが、命を捨てようなんて思うな。防衛出動の下命で自衛隊も集結しつつある。もう少し時間稼ぎをするだけだ。気負いすぎずに行こう。」

SAT隊長と言えば鬼か悪魔と思われそうな存在だが、楠本の声はとても優しかった。副隊長が発した「乗車」の一言で隊員たちが車両に乗り込んでいく。人気の無い町を赤色灯だけ回した無音の車列が進んだ。県警本部に設置していたSAT指揮系統は以後、現場に近い千葉県警第1県機庁舎に移動済みである。銃対はそもそも第1県機内部の部隊なため、彼らを指揮下に編入した影響を考えての措置だった。

「隊長、生駒警部から入電です」

「回してくれ」

受令機を受け取った。狙撃チームは全員が残弾無し。肉弾戦をするような覚悟は到底無いのでこのまま監視へ任務を移行したいとの内容だった。

「所轄の人員は可能なら逃がしてやれ。これ以上は彼らにも危害が及ぶ。」

『了解、可能であれば実行します』

海沿いの道に出た。このまま一直線に進めば現場に舞い戻る事になる。暫く突き進むと、公園の入り口が見えて来た。投射型の溶解液で損傷したため放置された灰色の常駐警備車が目に飛び込む。更に数回の攻撃を受けたようで、車体は運転席側から3分の1程度が無くなっていた。安保闘争の最前線で火炎瓶やゲバ棒の攻撃から機動隊員を護り続けた車両は、文字通りの盾としてその最後を全うした。小野沢は命を落としたが、それ以上の隊員たちを人型の攻撃から護ってくれたのだ。

「あれ、どっかに記念品で飾れんかな。廃棄するには惜しい。」

「全員で上申しますか?」

「通ればいいな。そろそろだ、用意しろ。」

道路にまで躍り出た巨大生物が視界に入った。1体目は近くの公園内部にまで入り込んでおり、我々の火力ではどうにもならない。2体目は道路上に無数の人型を吐き出していたためこちらを叩く事にした。道路を封鎖するように車両を停車させ、道路外の攻撃から隊員を護れるよう更に2両が脇を固める。中央の隙間からMP5の銃口が幾つも突き出された。

「射撃用意!」

街灯の灯かりの下を人型が歩いているのが分かる。狙いを定めたその時、袖ヶ浦で一度耳にしたヘリのエンジン音が聞こえて来た。空を仰ぐと、4機のAH-1Sが真上をフライパスしていく。無線に割り込んで来た誰かが話し始めた。

『こちら陸上自衛隊第4対戦車ヘリコプター隊の加藤一尉です。千葉県警合同攻撃チーム援護に参りました。』

女神か何かが現れたように思えた。こちらの士気も俄然高まる。そこへ更に嬉しい報せが飛び込んだ。

『第1空挺団臨編中隊の宮本二佐です。遅くなって申し訳ありません。』

第3県機の車両に分乗した空挺部隊も参戦。楠本や大志田と顔合わせを行い、固い握手を交えた。

「正に騎兵隊ですね。駆け付けて下さって感謝します。」

「後はお任せをと言いたい所ですが、1個小隊を現地に残して来たためこちらも手が足りません。出来れば我々の背中を預けたいのですが宜しいですか。」

「身に余る光栄です。やりましょう。」

攻撃への準備が進む。まだ火力は足りないが、もう少し時間を稼げば機動戦闘車も来てくれる。限られた装備と駒で上手く立ち回るしかないだろう。

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