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3話:秋山家の工房

 ギアというものは、昔からある都市伝説だ。


 なんでも石田が言うには、神が世界を創った時から既にあるもので、莫大なエネルギーを秘めているとの事だ。選ばれた人間しか扱う事は出来ないがもし選ばれれば、得られる力は計り知れない。歴史上の偉人達もギアを扱っている人がいたのではないかと言われている。


 しかし、あくまでも都市伝説レベルの話でしかなく、実在を信じている奴の方が少ない。中には本当にあると信じて、少なくない額を使って探すような連中もいるらしい。



 そんな眉唾ものであるギアが、俺の目の前にあった。





「……何なんだ、これは」


 壺からグローブへと変化したギアは、今度はアクセサリーの形に姿を変えていた。銀色のブレスレットのようなそれは、幾何学的な模様こそ施されており、一見普通のアクセサリーにしか見えない。

しかし物質的には未知の元素で構成され、構成の配置も見た事ないものだった。自然物でも人工物でもないのは明らかだ。


 そしてこのブレスレットからグローブへと姿を変えるのは俺の任意で自在に出来た。勿論逆の変化も可能だ。



 とりあえずこのブレスレットは右手に着けておく。

 あまり趣味なデザインではないが、ギアの力が必要になるかもしれない。


 ギアの能力としては、グローブで触れた物を高速で射出できるというものだ。射出された物はスピードと軌道がコントロール可能で、銃器と変わらないスピードの物を自在に操れた。

 ただ体積と重量の制限があるようで、例えば家とかは射出不可能だった。しかし乗用車ぐらいの物は射出可能なようで、具体的な数値は分からないが、意外と制限が甘い。





 とりあえずギアの事を簡単に調べた俺は、座っていた椅子の背もたれに体重を預けて伸びをした。


 タブレットを起動して時刻を見ると、二十三時を既に回っている。調べ始めたのが二十一時半だったので、一時間半近く調べていたようだ。



 なお、ギアを調べるのに使ったこの場所は家と隣接して建っている工房だ。


 父親がサイボーグ技術の研究者だったため自宅の横に研究所を建てており、簡単な実験どころか人体の改造手術が出来る設備まである。表向きは自営業の工房の扱いなので、工房と呼んでいる。ここで小さい頃から遊んでいたため機械系には専ら強くなり、父親からの教えと自身の才能もあり、サイボーグ技術に関しては天才と自負出来るまでになった。


 勿論自分の改造もこの工房で行った。流石に一人だけで自分を改造するのは難しいので、大学の後輩に手伝って貰ったが。



 伸びをした後、そんな工房を見渡す。

 壁際には隙間なく機械類が並び、隣接する棚は梯子を使わなければ上の物が取れない程に高い。そのような配置のため圧迫感が酷く、窓が天井に一つしかないのも圧迫感を強めるのに一役買っている。部屋の中央には作業台があり、その奥には改造用の部屋がある。これまた重厚感のある扉で塞がれており、重苦しい。

悪の組織の研究所と言われても、反論できないような雰囲気だ。





「ふぉぉ、ここで人間が改造されちゃうのか……」


 そんな改造部屋の重厚感ある扉から、ひょっこりと石田が現れる。場に似合わない軽い口調で目をキラキラとさせている。

 工房について来たので、適当に見学させていたが、いつの間にか改造部屋に入っていたようだ。



「あんまり弄るなよ? 危険な物も中にはあるからな」


 猫みたいに何にでも興味を示す石田に若干呆れながら注意すると、石田はハッとして今度はシュンと落ち込んだ。どうにもこいつは感情の変化が分かりやすい。



「すみません、ついテンション上がっちゃって……」


「基本は勝手に触るのは駄目だ。じゃあもう夜遅いから寝るか。部屋に案内しよう」


 椅子から立ち上がり、体を回してパキパキと音を出す。

 石田を部屋に案内したら、風呂の場所を教えて、風呂の使い方も説明しないといけないだろう。話を聞く限り石田の世界の文明水準はこちらよりも低い――というよりもこちらが大きく進んでいるのかもしれない。

ともかく生活の仕方が大きく違い、うちのあるようなミスト式のシャワーも知らないだろう。ちなみに彼女の分の夕食はカップラーメンで済ました。



「ありがとうございます。……そういえば、この工房って秋山さんのお父さんが建てたんですよね。なんで研究所とかで働かずに、家で研究していたのですか?」


 石田がふと疑問に思ったのか、ついでのように聞いてくる。


 しかしその質問は俺にとってはある意味で地雷だった。









 マズい。


 軽い気持ちでこの工房について聞いてしまったが、完全に失敗だ。


「……」

 

 考輝さんは私が質問すると黙ってしまい、動かない。

 あまり聞いて欲しくない内容だったようだ。


 沈黙だけが場を支配して、私はただ無言で考輝さんの発言を待つしか出来なかった。




「……父親も昔は大きな研究所に勤めていたらしい。それも結構立派な研究所で、開発チームの指揮をしていて、結構な成果を上げていたと聞いた」


 そんな時間が体感では十分ぐらい経ったかと思った頃、考輝さんは口を開き始めた。


「しかし、ある時チームの一人が買収されて、父親の研究成果が他のチームに横取りされた。父親は抗議したが根回しが完璧だったらしく、父親の抗議は聞いて貰えず、それどころか父親は研究所を追われた。しかもその研究成果を盗んだチームの主任は父親の親友だったらしい」


 考輝さんは自嘲気味に笑う。

 そういえば考輝さんは蓮夜さんに会うまでは、重度の人間不信だったという設定を思い出した。父親のこういった事に影響されて、人を信じられなくなったのかもしれない。



「それ以降父親はどこかの研究所に勤める事なく、家でひっそりと研究をして、そのまま日の目を見ることなく事故で死んだ」


 そこまで話すと、考輝さんは眉を吊り上げた。


「父親が死んだ後、父親の親友だった男――落合は俺に近づいてきた。何でも償いをさせて欲しいとの事だが、今度は俺の研究成果を盗む気なのは明らかだ。俺が脳のサイボーグ化に関する論文を発表した直後だったからな」


 落合という男を、それこそ死ぬほどに嫌っている。その感情が考輝さんの言葉から伝わってきた。





「……つまらない話をしたな。もう寝よう」


 溜息をついた後、考輝さんは工房から出ていく。


「は、はい!」


 私も慌てて考輝さんの後ろについて行く。

 漫画で見た事のない考輝さんの一面を見る事を出来た気がした。





 こうして私の漫画の中に入ってからの最初の夜は更けていった。


どーでもいい裏話


「悪いが夕食はカップラーメンで我慢してくれ。俺は外で食ってきたし、作る気にはなれない」


「いえ、そんないただけるだけで充分です……『肉じゃが味』に『サバ味噌味』……?」


「コンビニのくじの景品で貰ったんだが、それマズいぞ? こっちに普通の――」


「これ……漫画で二階堂君が食べてやつだ!」


「あーそういう感じね」



しおりは肉じゃが味を食べて吐いた。


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