2話:自分が悪役の漫画
『
俺はフラフラとした足取りで立ち上がる。
既に呼吸も満足に出来ず、目も霞んで耳もおかしい。体は限界で搾りカスのような体力に、もうまともに機能が発揮されない改造箇所。明らかに俺は死にかけている。
でも俺は倒れる訳にはいかない。
目の前のこいつを止めなければならないのだ。
「……よく動く。その体でまだ立つのか」
目の前にいるスーツの男……テロ組織、New World Ragnarok——通称NWRの幹部、秋山考輝。こいつを野放しにする訳にはいかない。
「当たり前だ……ここでお前を逃がさない……皆のためにも……隊長のためにも!」
やっと秋山をこの廃工場まで追い詰めたのだ。ここで逃してはこいつのテロの犠牲になった人や、協力してくれた仲間達、そして秋山と因縁があるにも関わらず、俺——二階堂大和にあいつの案件を預けてくれた隊長に申し訳が立たない。
そんな皆の思いが、俺のボロボロの体を動かす力になる。
今俺は工場の一階部分にいる。使われなくなった大型の機械が多くあり、見通しが悪く埃っぽい。
対して秋山は目の前の大きめ階段を登った工場の二階部分に立っている。二階といっても鉄板が壁に打ち付けられたものを簡易的な柱で支えているものだ。二階というよりは、作業用通路の方が正しいかもしれない。
「哀れなやつだ。何も知らずに息巻いて……だが、引導くらいは渡してやろう」
秋山が紅いグローブをはめた右手を前に突き出す。そして手で銃の形を作り、こちらに向ける。
傍から見たらふざけた行為にしか見えないが、奴にとっては立派な戦闘態勢だ。あの右手のグローブこそが奴のギア―—ドミネーション・ノヴァだ。触った物を高速で射出し、なおかつ五秒の間は軌道を自在に操れる。多くの人の命を奪ってきた、恐ろしい武器だ。
「起動せよ! 迷い断ち、邪を裂く刃よ!」
奴のギアで狙われたらこの距離で避けるのは難しいし、そもそも避ける体力もない。こちらもギアを起動する。
口上を言うと、左手のリングが一本の日本刀に変わる。これが俺のギア―—リーブ・シャドウ・ブレードだ。
秋山が持っていた銃弾を射出する。
見た所、発射したのは四発。弾が空気をきる音が廃工場内に響く。
それと同時に俺は素早く、大きく扇状に刀を振るう。すると像くらいの大きさの扇状の鉄板が出現した。切った空間に鉄板を生み出し、限界があるものもその延長線上にも広げる事が出来る。それが俺のギアの能力だ。
「ほう……」
秋山が声をもらす。奴も俺の能力を知っているが、ここまで大きい物が作れるとは思っていなかったようだ。
盾は作ったが、意味はないだろう。秋山は弾を自在に動かせるのだから、間違いなく鉄板を避けて俺を狙ってくる。
だがこれで視界を封じる事ができた。
再び刀を振り、今度は自分を覆うようなアーチ状の鉄板を生み出す。俺を含め新しい鉄板は秋山の視界に入っていないので、これは避ける事は出来ない。
鉄板を作った直後に強烈な音を鉄板が発した。やはり扇状の鉄板を避けたようだ。
そして俺は、刀を突きの体制で構える。太刀筋とその延長線上を物質化するという事は、突きを行えば棒状の鉄を伸ばす事が出来る。そうすれば射線状の物をまるで槍のように貫ける。
射程距離があり、突きの姿勢は分かりやすい上に攻撃範囲も狭いので普通に使っても避けられてしまう。だがこの距離でこちらの姿が見えないならば問題ない。
今まで近距離でしか戦ってこなかった奴が放つ、死角からの遠距離攻撃。いくら秋山でも防げない。
刀を構え、二階にいるはずの秋山を狙う。これで先程自分が出した扇状の鉄板ごと、奴を貫く。正直一か八かだが、やるしかない。
「本当に単純だな、お前は」
二階にいるはずの秋山の声が、何故か後方から聞こえた。
後ろを振り向こうとした瞬間、俺の腹を弾丸が貫いた。
「グッ!?」
痛みに、ダメージに耐えられずうめき声を上げながら倒れる。
だが、何故後ろにいるのだろうか。
「確かにこの状態なら俺はお前見る事が出来ないが、お前も俺が何をしているも見えない」
後方で秋山が着地したような音が聞こえる。
「こんな風に弾を二発空中で止めて足場にし、鉄板を飛び越えるのも分からなかっただろう」
秋山がゆっくりと迫ってくる。
俺はもう立つ事もできない。戦う事はおろか、逃げる事も儘ならない。
秋山が目の前に来て、右手の人差し指を向ける。
既に銃弾が指の前で浮遊していた。射出の前の待機状態だ。
「さようなら、正義の味方。せいぜいあの世で尊敬する隊長が来るのを待っていろ」
——すみません、隊長。ここまでみたいです。……ごめん、ミツバ。約束守れそうにない……。
最後の時に浮かんだのは憧れる隊長と、一緒に買物行く約束した同僚の女の子だった。
秋山の手から、銃弾が射出された。
しかし、弾丸は俺に届く事はなかった。
何故なら秋山が直前で狙う相手を変えたのだ。
「……何故お前がここにいる」
秋山の声は意外そうだ。だがその声は、明らかに喜んでいる。
秋山の撃った弾が新たに現れた人物を狙うが、狙われた男は銃を構え弾丸を発射する。秋山の打った弾は軌道を変えて迫るが、全て撃ち落された。こんな芸当が出来るのは一人しかいない。
「アッキー……いや、秋山考輝。久しぶりだね」
工場の入口には、隊長——春川蓮夜が銃を構えて立っていた。
その顔はひどく無表情だった。
次週に続く』
俺は漫画雑誌を閉じた。
これが石田の言う、この世界の五年後を舞台にした『Machine soldiers』という漫画だそうだ。今読んだ話は主人公の二階堂大和と悪の組織の幹部である秋山考輝——俺との戦いだ。そして主人公のピンチに上司であり、秋山と親友であった春川蓮夜が現れて終わる。王道的な話の流れといえるだろう。
思わず、目頭を抑える。少し頭痛も起こり始めた。
漫画のため若干印象が違うが、間違いなくこの登場人物は俺と春川だ。
たまたま似ていたでは済ませられるレベルではない。輪郭やら細部まで本当にそっくりだ。俺と春川を漫画調で書くとしたら、こうなるだろうといった感じだと言える。
この漫画が悪ふざけなら良かったのだが、絵を見る限り、おそらくプロが書いている。しかもこの『Machine soldiers』以外にも多くの漫画がこの雑誌に載っており、その全てがしっかりと書き込まれ、話が構成されている。更に広告やゲームやらの情報など、漫画雑誌の体をなしていた。
更には雑誌の発売日は今日で、ご丁寧にコンビニで買ったというレシートまで付いている。なおそのコンビニの名前も知らないものだった。
残念ながら、ドッキリのために作られたというのは望み薄い。
「……どうですか、秋山さん。私の話、信じてもらえそうですか?」
目頭を抑え、いろいろと思考を巡らせていると、石田がおずおずと聞いてきた。
どうにもこいつは俺が『秋山考輝』だと分かってから、妙に怯えているような態度をとる。まぁ漫画では日本を脅かすテロリストのようだし、当然の反応といえば当然と言える。
「まだ何とも言えないな。この雑誌も難しいがドッキリで作る事が不可能という訳ではない」
石田に向き直り、首をすくめる。後半の発言は、正直俺の願望が入っているのは否めない。
「そうですか……」
俺の返答に石田は肩を落とす。
しかし、何故こいつはここが漫画の世界だと断言出来ているのだろうか。
階段を踏み外したらいきなり街の上空にいたという不思議体験は既に聞いたが、その体験だけでそんな考えにいたるだろうか。
「そもそもの話になるが、何故石田はここが漫画の世界だと言える? ただ不思議な体験をして目の前に漫画の登場人物に似ている人がいるというだけで、漫画の中に入ったと普通は考えないと思うのだが」
「それは月が二つあったからです」
石田は淀みなく答える。
彼女なりにここが漫画だと判断した理由があるようだ。
「私のいた日本はここよりも科学が進歩していませんでした。だから人工の月を作るなんて到底出来ません。人工の月は漫画の中だけでした」
石田は月を見上げる。
そして何かを思い出したように、懐から四角いものを取り出してこちらに差し出す。
「そういえば、この世界にはもうこんなもの無いですよね」
「……携帯電話か。生まれて初めて見た」
差し出された携帯電話を恐る恐る受け取る。そしてまじまじと全体を見る。
ピンク色のカスタネットのように開閉するタイプの携帯で、傷や汚れも殆ど見受けられない。
確かに携帯電話など二十年近く前に製造を停止してしまっている。それなのにこの携帯は、新品のように新しい。裏面を見ると、製造番号が書かれたシールが貼られている。製造日は今年の三ヶ月前。有り得ない事だ。
「やっぱり……そんなに珍しいですか?」
俺の骨董品のような携帯の扱いに石田は苦笑いを浮かべる。
壊すのも怖いので、彼女に携帯を返しておく。
「まぁな。さっきも言ったが生まれて始めて見たし、それこそ博物館にあるような物だ。マニアの間にこんなものが渡ったら、家宝にされても可笑しくない―—」
「あ!」
石田が急に大声を上げて話を遮る。
そして先程までの大人しかった様子はどこかに行ってしまったように、笑顔でグイグイと近づいてくる。
「そうだった! 私大変な事を忘れてました! 今って考輝さん実家暮らしですよね? だったら私の話を信じてもらうのに良い物——痛ぁい!」
「鬱陶しい。近すぎる」
鬱陶しくて、ついアイアンクローをしてしまった。多分こっちのテンション高い方が素なのだろう。なんとなくノリが春川に似ている気がする。
手をすぐ離すと石田はその場にしゃがみ込む。少しやりすぎたかもしれない。
「――、流石はサイボーグ……痛い! でも考輝さんのアイアンクロー……」
うめき声が若干嬉しそうだ。もう少し強めにやっても良かったかもしれない。
「……それで何を思い出した」
「秋山家の家宝についてです!」
話が進まなそうだったので石田に話かけると、勢い良く立ち上がる。タフだな。
「なんか秋山家に代々伝わっているとかって言って、怪しげな壺が家にないですか?」
「ああ、そういえば確かあったな。……それがどうかしたのか?」
昔、父がこれは最近買った由緒正しいものだから大切にしろと言っていた壺があった。何でも父の代からこれを秋山家の家宝にするつもりだったらしい。正直、俺の代で紛失しそうではあるが。
俺の問に、その質問を石田は待っていましたとばかりに胸をはる。こいつ身長のわりに胸あるな。
「その壺が、さっき漫画で秋山さんが使っていた『ギア』なんです!」
『Machine soldiers』——『マシソル』を語るうえで、『ギア』という存在を外す訳にはいかない。
『ギア』は遥か昔に神が世界を作る時に余ったエネルギーで出来た、神の力の結晶の事だ。それは時代によって姿を変え、考輝さんの時代では歯車の形をしている。これが『ギア』と呼ばれる所以だ。
『ギア』は持ち主によって姿とその能力を変え、使い手によっては世界を滅ぼすくらいの性能になるらしい。
ただ『ギア』は誰にも使える訳ではなく、『ギア』は使い手を世界の中から一人だけを選ぶ。そしてその一人が死ぬと次の使い手を一人だけ選ぶ。
そう聞くと『ギア』を扱う事なんか不可能に近い気がするが、『ギア』は自然と持ち主の元にたどり着くらしい。研究のために厳重に保管していても、気づいたら研究所から『ギア』が忽然と消える事すらあったようだ。
勿論『マシソル』のメインメンバーは皆『ギア』の使い手で、『ギアホルダー』と呼ばれている。この『ギア』を使ってのバトルが『マシソル』の見どころの一つだ。
一応考輝さんも都市伝説程度には『ギア』の存在を知っていた。一般市民にはある確証はないが、噂程度には広まっているらしい。
これで原作通りに考輝さんの家宝がギアで、漫画と同じ形状をすれば、流石の考輝さんも私の話を信じてくれるはずだ。
「——おい、聞こえているのか?」
「ひゃい!」
考輝さんの声で、思考の渦から意識が現実に戻る。また悪い癖が出てしまったようだ。
ちなみに今は二人で考輝さんの家に向かっている。
住宅街を二人で並んで歩く。この通りはあまり人通りがないのか、さっきから歩いている人を見かけない。家には電気が灯っているので、人がいるにはいるようだけど。
家に向かう理由は勿論、先程私が言った事を確認するためだ。だが憧れの人と二人きりで夜道。しかも行き先は家。高ぶります。
だけどその状況のせいで考えがまとまらず、今の考輝さんの話も聞いていなかった。
マズい。アイアンクローが来る。
「……お前、時折意識が飛ぶな。俺の両親の話だ。両親については知っているのか?」
だが考輝さんは呆れた顔を浮かべるだけで、アイアンクローは来なかった。
まだ若いからか、考輝さんの性格が柔らかい気がする。
「えっと……秋山さんが高校の時、事故に合ってお亡くなりになった……っていうのが私の知っている内容です」
この話は非常に話しづらい。考輝さんの両親が存命の場合、聞いていて面白くない話のはずだ。
漫画では考輝さんの両親は事故死している。夫婦水入らずのドライブの最中起こった事故らしい。それで考輝さんは事故相手の慰謝料、両親の遺産と保険金、あと勝ち取った奨学金で一人暮らしするのが原作の流れだ。
「その通りだ。つまりお前は今、夜に一人暮らしの男の家に上がり込もうとしているわけだが、それに関しての抵抗はないのか? そもそも身の危険を感じないのか?」
どうやら原作通りのようだ。
しかし考輝さんがそういった心配をするのは意外だ。
「全然抵抗ないですよ。だって秋山さん、女よりも男に興味があるタイプの人ですよね?」
「……え?」
「え?」
考輝さんはホモではなかった。
漫画では蓮夜さんに執着していたし、それっぽい言動や描写があったので『マシソル』好きの間では、秋山考輝はホモというのが当たり前になっていた。
だが確かに明言されていた訳ではないし、ファンの間で盛り上がっていただけなので、当然なのかもしれない。
まぁ、だからと言って、考輝さんの家に行く事を抵抗に思ったりはしない。この人がそんな事をする人ではない事は充分知っているつもりだ。考輝さんがノーマルなのは残念だが。
「ほら、ここが家だ」
「おー」
気づいたら、もう着いたようだ。つい感嘆の声が出てしまう。
普通の二階立ての一軒家だが、家と隣接して平屋の建物が建っている。あれが考輝さんの父が建てた工房だろう。考輝さんの父はサイボーグ専門の科学者で、考輝さんが学生時代から自身をサイボーグ化できたのはこの設備のおかげだ。
「ひとまず、リビングで待っていろ。壺を倉庫から持ってくる。……リビングは玄関入って右だ」
考輝さんは鍵を開けると、家の裏手の方に行こうとする。どうやら倉庫は外にあるらしい。
「じゃあ、お邪魔してまーす……」
ちょっとドキドキしてきた。
当たり前というべきか、リビングは普通だ。
リビング入ってすぐの所にテーブルがあり、左手にはカウンターキッチン、右手にはテレビとソファーがある。余計なものはなく、ひどくシンプルだ。一人暮らしには広すぎるとは思うが、家族で暮らしていたなら、この広さも納得できる。
とりあえずソファーに座り待つ事にする。ラケットカバンを横に置きソファーに座るが、妙にソワソワしてしまう。今朝とかここに考輝さんが座っていたかと思うと落ち着かない。
意味もなく足をバタバタと動かしたり、クッションをボフボフしてしまう。更にはクッションを顔の前まで持ってきて、つい匂いを嗅いでしまった。
「悪い、待たせたな。……何をしている?」
「特に何も、アハハ」
考輝さんは結構すぐにリビングに来た。小脇に木箱を抱えている。
クッションは素早くソファーの上に戻したが、変な行動をしている所をバッチリ見られてしまい、残念そうなものを見る目で見られた。なんだかさっきと違う意味でソワソワする。
考輝さんは特にそれ以上何も言わず、セカンドバックをテーブルに置いて、木箱をソファーの前の机に置いた。
木箱を開けると、小さな茶色の壺が出てきた。
「……一見するとただの壺だが」
「見た目は普通ですけど、壺を構成する材質が普通とは違うらしいです。割れば分かります」
「よし」
「ええ!?」
考輝さんは何の躊躇いもなく壺を落として割った。家宝と聞いていたので、説得する必要があると思っていたが、その不安はいらなかったようだ。
そして壺を落とした事による変化はすぐに起きた。
「……マジかよ」
落とした壺の破片が勝手に動き、集まり始めている。
そして集まると光を放ち、光が収まると人間の手のひらサイズもある歯車が落ちていた。
『ギア』だ。
「…………」
考輝さんは無言でギアを拾い上げる。目の前の光景を未だに信じられていない様子だ。
「形を変える時は起動ワードが必要です。秋山さんの場合『起動せよ。新世界に君臨せし帝王よ』です」
「恥ずかしいな、それ」
考輝さんの目は本当に嫌そうだった。そんな事言われると私まで恥ずかしくなってくる。
しかし考輝さんが何も言わずに、ギアがまた光り始める。光を放ちながら徐々に形を変えていく。
そして今度はグローブの形となった。
紅く、黒いラインが入ったグローブで、既に考輝さんの手に身につけられている。それは原作通りの形で、さっき考輝さんも漫画を読んだので分かっているはずだ。
おもむろに考輝さんは懐からペンを取り出し、ペンを掴んだ状態のまま右手で銃の形を作る。するとペンは握っている手からするりと抜け出し、人差し指の前で浮遊した。
そしてペンが射出される。
ペンは真っ直ぐに飛ばず、考輝さんの回りをクルクルと螺旋状に回りながら上昇していく。そして考輝さんの真上に来たら急にピタリと止まり、そのまま落下した。
考輝さんが落下したペンを手のひらで受け止める。考輝さんは何も喋らず、私もただ黙ってみている事しか出来なかった。ギアを生で見る事が出来て、感動はしていたけども。
触った物を射出し、自在に操る。これも原作通りの考輝さんのギアの能力だ。
「これはもう、信じるしかないか……」
長い沈黙の後、考輝さんはため息混じりに口を開く。声が妙に疲れていた。
「だが、漫画の内容が未来の事だとしたら、何故五年後の俺はテロリストなんかをやっている? その理由は漫画で書かれているのか?」
テーブルの椅子を引いて座ると、考輝さんはこちらを見てくる。確かにいきなりテロリストと言われても、困惑するのが普通だろう。
流石の考輝さんも超展開の連続で疲れているように見える。
「すみません、その辺りはまだ漫画でも謎で……。けれど、漫画でテロ活動を行う訳について、含みを持たせる発言が多くあったので、何か本当に重要な理由があるとは思うのですけど……」
残念な事に、漫画でもまだ書かれていない。だが、おそらくは何か物語を大きく関わる重要な事ではないかとファンの間では噂されている。
「とりあえず今日はもう疲れた。少しギアの事を調べて休もうと思うのだが、お前は泊まるあてはないよな?」
「はい……」
高校生の身では、ホテルや漫画喫茶で泊まるのも難しいだろう。
そもそも私の持っているお金が使えるかどうかも分からない。
「なら嫌じゃなければ今日はウチに泊まれ。幸い部屋は多く余っている。ただその変わりと言ってはなんだが、漫画の内容について明日みっちり聞かしてもらう」
考輝さんの話はこちらとしては願ったり叶ったりだ。
漫画の内容——未来を話す事で何かマズい事が起きる可能性もあるが、そんなの今更だ。考輝さんに会ってしまった時点で、原作がどうとか言うのは手遅れだと思う。
こうなった以上、出来るだけ原作で起こった悲劇を回避しよう。そのためにも、考輝さんと上手くコミュニケーションをとって、信頼関係を構築しなければ。
「ありがとうございます。是非お願いします。あ、でも私着替えが……」
「……俺のシャツやスウェットとよければ貸すが」
「え! 考輝さんの服来てもいいのですか!!」
「よだれを出すな、馬鹿」
その道は、前途多難かもしれない。