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3話:不吉な山

 考輝さんと二人で神社を三十分近く捜索したが、特に違和感のある所は見つからなかった。


 私があちらの世界に飛び、考輝さんが見たと女性が消えたという石段付近を中心に探すが、手がかりは何も見つからない。あちらの世界の公園と同じように、ただただ普通の景色が広がっている。



「普通だな」


「普通ですね」


 一通り探して手がかりが見つからなかったので、再び神社のベンチに座り、休憩していた。丁度このベンチは木陰になっているので、涼しくて過ごしやすい。風で木が揺れている音も、心地よい。



「こうも何も見つからないと、場所以外の要因があるようにも思えるな。しかし、移動した場所はいずれも神社に公園。場所が確定している以上、何か要因が――」


 そんな風景など気にせず、顎に手を当てて考輝さんは必死に世界を越えた理由を考えるが、行き詰っているようだ。実際手がかりも少ないし、当ても全くない。手詰まり感が非常に強い。


 しかし、考輝さんとしては帰らない訳にはいかないだろう。

 あの世界で考輝さんの身に何が起こるかまだ分からない事だらけだし、特に佐藤とアリスちゃんを放置しておくのはマズい。何をやらかすか分かったものではないし、命を懸けた喧嘩をしているのは間違いない。





「あ! そういえば考輝さん、お昼まだですよね? 実は簡単ですけど、おにぎりを作ってきたんですよ」


 どうにもポジティブな情報がなかったので、場の雰囲気を変えようとポシェットを漁ってあらかじめ作っておいたおにぎりを探す。料理はあまり得意ではないが、おにぎりくらいなら作れる。具は昆布に梅だ。



「悪いな。何から何まで」


「いえいえ。あちらでは考輝さんに衣食住お世話になっていましたし、このぐらい当然ですよ! まぁでもそんなに大したもの――あ……」


 ポシェットからおにぎりを取り出すと、ラップで包んだそれは、ぐしゃぐしゃに変形していた。あれだけ走り回っていたのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。

 一応頑張って綺麗な丸を作ろうとしていたのだが、無駄になってしまった。



「いやぁ、慣れない事はしない方が良かったですね! おにぎりの事も考えずに走り回っちゃって、これだったら来る途中のコンビニで買ったほうが――」


「じゃあ、貰うぞ」


 あたふたと説明とも言い訳ともとれない事を話している途中に、考輝さんは私の手からおにぎりを取ると、そのままラップを向いて食べ始めた。形の悪いおにぎりを。



「まぁ、もう少し塩が効いている方が俺は好きだな」


「そこはお世辞でも、美味しいって言ってくださいよ」


「お世辞は下手だから、言わないようにしている。次からは頼む」


「はい……!」


 口では文句を言っているが、考輝さんの表情は柔らかい。

 自然と私も笑顔になった。







「これを食べたら、今度は神社より上の山の部分も探索してみるか」


 おにぎりを食べながら、考輝さんは何気なくそう言った。

 考輝さんは特に意図もなく言ったのだろうが、私はおにぎりを食べながらつい顔をしかめてしまう。そんな私の反応に、考輝さんは不思議そうな顔をする。



「あー……出来ればそれは止めた方が良いと思います。町が立ち入り禁止にしていますし……何と言うべきか、不気味なんですよ」


「不気味?」


 モグモグと考輝さんがおにぎりを食べながら聞いてくるが、可愛い。普段とのギャップがデカい。



「私も上手く説明出来ないのですけども……一つ言えるのは、この山の頂上付近、自殺の名所なんですよ。幽霊を見たって噂も良く聞きますし」









 山の頂上への道は、神社の裏にひっそりある。

 しかも木で覆われて隠れていて、事前に道がある事を知らなければ見つけるのは難しい。まるで道を間違って進まないように、誰かが意図的に隠したようだ。


 道にも立ち入り禁止の看板がつけられたロープが張られ、『命は大切に』『あなたの死を悲しむ人がいます』という看板も立てられている。

 学校から家までの近道でこの神社を通る事はたまにあるが、普段は絶対この場所には近づかない。


 ロープや看板を抜きにしても、どうにも気味が悪い。

 先程まで心地よく感じていた木のざわめきも、こちらを威圧しているように感じてしまう。出来ればすぐにこの場所を離れたいぐらいだ。



「……確かに、雰囲気があるな」


 考輝さんも何か感じるものがあるのか、眉を寄せてしかめっ面をしている。

 しかし止まるつもりはないのか、ロープを跨いで道を進んでしまった。



「やっぱり……行くのですか?」


 どうしても私の声は弱々しくなってしまう。

 小学生の頃は今よりも怖いもの知らずであったが、この道だけは入ったりはしなかった。何故かこの場所だけは怖くて、その恐怖心は今もある。



「……無理なら、石田は神社の方で待っていろ。何かある可能性がある以上、俺は行く」


「いえ……私も行きます」


 考輝さんの意思は固そうだ。

 だとしたら、私も行くしかない。それにいざとなれば考輝さんのギアもある。ギアで対処できない状況など、この世界では簡単に起こらないだろう。


 そう思い、私は少し震えながらロープを跨いだ。







 道を進んで山に入ると、意外と不気味さは薄れた。

 神社周辺と変わらずセミは鳴いているし、あまり見ない鳥や狸らしきものも見かけた。人がいない分、自然が豊富なようだ。



「……やっぱり、神社の方で待っていた方が良かったと思うぞ。見るからに顔が蒼い」


「いえ……大丈夫です……」


 しかし私は気分が悪くなっていた。先程まで体調は良かったのに不思議だ。

 感覚的にはあちらの世界で佐藤と初めて会った時に近い気がする。あそこまで悪寒は感じないけども。



「とりあえずは、半分程ですね。あと十分も歩けば、頂上です。それで頂上近くにある崖が飛び降り自殺の名所だとか」


「わざわざ死ぬのにこんな山を登るとは、変わった連中も多いな……」


 それは確かに思う。

 それにふと考えると、ここは立ち入り禁止なのに自殺者がすぐに見つかるのも変だ。名所だけあって見回る人がいるのだろうか。



「それにしても、思った以上に普通だな」


 そして一番の問題としては、現状あちらの世界に行くような手がかりがない事だ。

 流石に一日で簡単に見つかるようなものではないと思うが、こうも何も見つからないと不安になる。





 ちょっとした会話をしながら山を登り、もう少しで頂上に着くという段階になって、私の気持ち悪さがピークになった。歩けない程ではないが、出来れば歩きたくない。


 考輝さんはそれを察してくれたのか、立ち止まってくれた。



「……石田には、霊感みたいのがあるのかもな。とりあえず、今日は引き返そう。これ以上は無理だ」


「すみません……」


 本当は頂上まで行きたかったが、少し厳しい。

 考輝さんが少しかがんで肩を貸してくれたが、喜ぶ余裕もない。



 そんなやりとりをしていると、後ろの草むらがガサガサと揺れる音がした。狸か何かと思い考輝さんと一緒に振り向く。





「は?」


「っ!?」


 そこには人の大きさくらいある巨大なナメクジがいた。その姿は恐ろしく醜悪で、見ているだけで不快感がする。


 あまりの気持ち悪さに、そこで私の意識はブラックアウトした。


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