序章 既視たる別世界
1-1 敵地にて
「なあ、知ってるか?戦場で百万人殺せば英雄だが、町で一人殺せば犯罪者らしいぜ。おりゃ町で数十人殺したがボーナス出てボスに褒められたぞ」
。。。これだから学の無い田舎のヤンキーは、わが大英帝国の偉大な俳優の名言をこうも呑気に解釈してくるとは、私に対して何を言いたいのか知る由もないが非常に不愉快だ。
「お前は何人殺したんだ?英国紳士さんよ」
爆音と銃声が止まないイラク国境沿いのクウェートの田舎町で、私は糞みたいな田舎者とその他の糞と共に敵勢力を包囲殲滅する任務に当たっていた、大英帝国が中世以降に残したいざこざの尻拭いをどうか出来ると思ってはいないが、カスの一つでも取り除ければの考えでSBS(王室海兵隊特殊舟艇部隊)から志願してこのゴミ溜めの中に入ってきたは良いものの、何の悪戯か配属されたのは米軍の歩兵部隊だった。。。
「君の脳みそでは数えられないさ、無理しないで自分の指でも数えてた方が賢明だろ?」
「なんだと!この糞ジョンブルが!」
ジョークの一つもまともに返せやしない、いや・・・まともな知能を期待する方が愚かといううべきか。
「黙ってろ!ジョン! 新入りもだ!以前の戦績がどうこう知らんがここでは俺の前で許可なく喋るな!」
国連介入時から私はこの中東の地で戦場を転々としてきた、その中でもこの部隊は最悪の部類に入る、まだフロッグ共のナンパ自慢を聞いてた方が多少有意義な時間を過ごせたものだ。
「もうすぐ作戦区域に入る、各員ブリーフィングの内容を覚えているな?平和の敵を殺すだけの簡単な任務だ、貴様らが唯一価値を持つ時間だ!」
「フーアー!」
「アルファー、ブラボーは前方に展開、デルタは後方に回り敵の退路を断て!パンサー貴様はデルタと動け、撃っていいのは敵だけだ、軍法裁判はブリテンにも適応されるからな!」
「サー イエッサー」
「さあ、楽しい楽しいキーリングタイムだ!」
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戦争という行為はつくづく反吐が出る、特に現代戦において視認されること自体が直接自身の死を意味する。けして敵がのたうち死に行く様を見ながらトリガーを引き続けたい訳では無いが、見つけた瞬間に死体が横に転がっていく状況をただ無感情に受け入れたくは無い物だ。
「慣れてしまえばいい話だが。。。。」
7回目の接敵でゲリラが籠っている建物の残存兵力をあらかた処理し終え、後は指示を出している者の脳漿の色を確認できれば晴れてこの地区の制圧は終わる。
こちらの主力は離散した敵の掃討をしながら此方に合流しようとしている、裏からデルタチームと共に涎と恐怖をまき散らしながら逃げようとする者を根絶やしにしながらターゲットの籠る部屋近くまでたどり着く。
正常な判断が出来る者ならば、諸手を挙げながら命乞いをすればせめて人として原型を残せる範囲で死ねたものを、やれ祖国だやれ仲間の為だと感傷を振り撒きながら舞台役者の様にドラマティックな演出を準備している輩は何処の国にも少なからずいる、ただそれが私の前で稚拙なトラップをドアノブに仕掛け、向こうの部屋の中で捨て台詞を準備しているとなると厄介さは増してくる。
「此方パンサー、扉にトラップだ、爆破処理後突入する」
「デルタ2了解!へまするんじゃねーぞ!」
この田舎者の不愉快さは既に人知の域を超えている、それだけが私から彼への唯一の称賛と羨望であり、扉の向こうの厄介な役者との共通点でもある。
シート爆薬のセットを迅速に終え、起爆のスイッチを握りしめ、爆発の衝撃でドアが田舎者の方へ飛んでいくよう祈りながら、突入の瞬間を待つ。
「GO!」
バン!!
残念ながら傷んだドアは衝撃に耐えられず、埃をまき散らしながら四散してしまった、実に惜しい。
「糞が!国からであああぅあぁぁぁだぁ!」
役者にとって一番つらいのはやはり万全に準備したセリフを最後まで言わせてもらえない時であろう、全身に風穴を開けられ役者なのか人なのか既に判別が付かない肉塊は慣性の法則に従って崩れ落ちていく。
カチッ
幾度となく、聞き慣れた音だ、一度目はテロリストを拘束した仲間といた時、二度目は貴婦人の後ろに隠れれる臆病者を説得していた時、三度目以降はもう覚えていない、ただこれが次の瞬間に絶望と死を平等に与える序曲でしかないことを。
この音を奏でる者は何時だって笑っている、ただただ笑っている、己を、周囲を、世界を、自己犠牲という美酒に酔いしれながら。
私は走馬燈を見るには短すぎる瞬間を受け入れるしかなかった。
どうも、初めての投稿になります。
色々外国人に怒られそうな使いまわしをしていますが、一応笑いアリ、苦労アリの異世界冒険(外人)にしたいと思っています。
何分日本人の主人公が多いのでたまには外国人目線で異世界を体験したらどの様な反応になるか書いていきたいと思います。
注:
田舎者=アメリカ人の意味、イギリス人にとってアメリカ人は田舎者ですからw
フロッグ=フランス人の意味、よく使われる蔑称です。