6 街にきたけれど?
一夜明けて、山道を歩くと昼前には街が眼下に望めた。
昨夜、狼がこの街の領主を転移者だと言っていたが、遠目には平安時代?の町並みにしか見えないんだが。
壁は白くはないし、門に朱が使われているわけでもない。かなり地味だ。
異世界チートで蒸気機関があるとかそんな素振りもない。
「あそこだ、夕暮れまでには着くだろう」
あ、ここからまだ道は険しいのね・・・
道は険しくはなかった。ダラダラ九十九折がひたすら続く道だ。
これが登山道なら直滑降していそうな場所を等高線に沿うように緩やかに下る。
時おり獣道らしき道筋があるが、今日は荷物があるのでそのような道は通らない。
しばらく歩いて街が山に隠れた辺りで昼食をとって再び歩き出すと沢沿いに降り立った。
少し歩くと目の前に現れたのはアーチ橋、切り立つ崖を跨ぐさまは圧巻だ。
「これが街道の橋だ。しばらく行くともう一本橋があるぞ」
確かにこれは凄い技術が必要だが、欧州では、悪魔の橋と呼ばれるこうした険しい地形に掛かる石橋は中世に作られている。チート転移者ならずとも架橋は可能だ。しかも、成分に違いはあるがセメントも紀元前から存在する。この先にダムなんかがあっても、中世技術で可能なのだ。驚きはしても、異世界チートって話にはならない。これが鉄橋だったり鉄筋コンクリートなら別だが。
しかし、凄い橋が。それを見上げながら沢を歩いて更に進むと斜めに歪なアーチ橋が見えてきた。
こちらの道も沢から上り、その道に繋がる。
「凄いだろ、こんな橋は30日歩いてもここにしかない。どんなデカイ街もここの技術には敵わないのさ」
タカがその様に自慢する。
俺には中世レベルにしか見えないが、そうか、石橋ってのは費用がバカにならないからここの街、或いは領主は物凄く豊かなんだろうな。
タカには凄いと驚いて見せたが、転移者って割には大したことないのかな?領主になるような人物なのに。
そんな事を思いながら街道を歩く。
荷車を曳く牛、そして馬車も。
馬車は中世を描いたアニメなんかで見るタイプだ。どうやらバネ式のサスペンションは無いらしい。
チートがあれば、バネ式のサスペンションは定番だと思うんだがなぁ~
とうとう街の門に到着である。日本式の城門が一番近いだろうか、街壁?となるべき壁は土壁に板を貼っているようだ。猪程度ならこれで十分だろう。ラノベでよくある10メートル近い石の城壁はない。まるで歴史に出てくる平城京やら平安京のイメージが一番近いな。色は違うが。
門で通行証を見せるのかと思ったら何もなしだった。門番が居たが、彼らは何をしてるんだ?謎である。
街道から門に入ったが、大通りではないらしい。
碁盤の目に道は走っているだろうが、俺には何が何やら・・・
門から二筋ほど直進した角の建物に入っていく。
「ここは?」
「ここは革を買ってくれるところだよ。外からはわからないけどね」
隣のハナがそう答えてくれた。
そうそう、街に入る手前で銃はリュックにしまった。他の皆も弓の弦をほどいて布を巻いていた。矢筒にも袋を被せていたな。
あ、もうは武器の確認が役目なのか。それなら納得だ。槍や弓を剥き出しにしては街に入れないんだろう。
革の取引はラノベのテンプレみたいなトラブルなくあっさり終わる。
ふつうさ、ここで一騒動起きたりするでしょ?物語的に。騒動で後のヒロインとかに会ったりとか。
うん、何事もなく次へ出発。塩を買いに行く?
そう言えば、村は山の中だから塩が無いよね。ここだって内陸だから、あ、交易ね。
本当に何のイベントもなく塩を買いつける。
「そろそろ閉門だから街を出るぞ」
え?街中に宿を取るんじゃないの?
「魔砲師さまならそうかも知れんが、俺たちが泊まるような処は街には無いよ。犬連れて上がり込む宿はない」
ハナやコロは普通に人と変わらない様にしか見えないが、どうやらそう思うのは俺だけらしい。
この世界では二足歩行していようが会話が可能だろうが、犬は犬らしい。