5 街へ行くがイベントなし?
さて、街へ行く日だ。
行きに一泊だから、かなりの荷物である。
幸いなことに護衛要員である俺の荷物は私物だけ。
さて、道は2ルートあるが、村が使うのは近道となる俺が現れた道だ。街道を使えば荷車や馬が使えるのだが、片道に三日もかける余裕は村にはない。しかも、街道には関所があって通行料が必要だとか。
こっちの近道に人が増えるじゃないかと思ったが、街に通じている事は知られていないし、狩人の護衛無しでは危なくて通れないそうだ。
そりゃ、着ぐるみモドキが襲ってきたらなぁ~
そんなわけで、たいした往来のない山道を進む。
「あ、狼」
ハナが狼を見つけたらしい。俺は銃を構えようとしたが、笑われた。
「大丈夫、道を外れて荒らさない限り襲ってこないよ」
そう言って、俺には見えない狼の姿を見ているようだった。
しばらくその狼は俺達を付けてきたらしいが、ハナが手を振った。
「縄張りはここまでみたい」
そう教えてくれた。
送り狼って知ってるだろ?あれな、今では優しく接してる奴が細工して襲い掛かるみたいな意味になっているが、本来は狼の縄張りに入った人が里に戻るまで付かず離れず監視している様を言う言葉なんだ。地方によってはそれを、狼が道案内や獣に教われないように守護してくれると解釈していたりしたらしい。里に下りたら山へお礼を言うなんて風習もあったそうな。
「あ、次の縄張りだね」
ハナが新な狼を見つけた様だ。
実際、こうして狼が付かず離れず行動している間は他の獣は近寄って来なかった。
危険と言われる山道を何事もなく1日が過ぎる。
ホント、異世界モノなら怪物に襲われたりするんじゃね?
「不寝番だ、秋山殿」
誰だよ、どこの装填手だよ。
声をかけてきたのは街へ出たがっている若者だ。
俺が魔砲師だと言うことで街の話とやらを聞きに来たが、生憎と俺はここが何処かすら知らない。それを伝えると悲しそうに去って行ったっけ。
若者は街へ出るために読み書き計算を習っている。
つか、凄くない?辺境の小さな村でそんなことが出来るって。
あ、2、3日で街へ行けるから当然なん。それは失礼。
「分かった」
不寝番は交代制だ。今は何時だろうか。
夜、夜戦。89式には夜戦装備をしてある。実際、夜間に証明を消した建物でゲームをやると、本当に何も見えない。
外だと今のように月明かりがマダラに照して余計に視界を眩惑させてくれる。
そんなときの暗視装置。ただ、メットに付けるタイプじゃなく、銃に付けるタイプだから、視界は限られるが。
「あれ、ハナか」
ハナが嫌そうな顔で見る。
「他に人が居ないからって襲わないでよ。返り討ちにしてあげるけど」
んなことするか。
ラノベなんかだと、不寝番は相手の身の上話を聞いて仲が深まったりするものだが、現実は非常だ。静かにしろと怒られた。
別にハナに嫌われているからではない。喋っていたら気配が感じ取りにくいからだ。
ラノベ主人公達は喋っていても対応出来るんだからチートだよな。
「狼」
ハナが知らせてくれた。
89式をハナが示した方向に向ける。辺りを探すと、見つけた。
倍率高い奴じゃないから人形が覗いてる事しか分からない。あ、動いた。
狼というより忍か何かって感じだね。
と、見ていたら視界が急に暗転した。
「無闇に刺激しない」
ハナに銃を下ろされた。
ま、確かに・・・
と、俺でも気配が判る。
「不思議な魔砲だな」
声をかけてきたのは狼だ。喋るんだな。
「狼でも喋るぞ。狼はそこの犬と殆ど同じだ。その犬の人臭さとお前の臭いは違うが、あの群れの連中とは違うのか?」
なんだろう、この人狼・・・、数日前にやって来た事を告げると納得してくれた。
「なるほどな、あの魔床の沢から来たか。街の領主も昔、あの沢より現れた人だと聞いたぞ」
狼の話によるとあの村が豊かなのは、沢から現れた人が技術を伝えたかららしい。それがこれから行く街の先代領主だとか。
ラノベ農業チートが無効な理由はそれかよ。すでにラノベ主人公が居やがった。
「他の連中が来たな。さらばだ」
しばらく話をした後、狼は去って行った。しかし、なんだ、あの沢は特異点か何かなんだろうか?
「おい、誰か居たのか?」
タカがやって来た。
「狼だよ、狼と話してた。私にはよく分からなかったけど」
ハナがアッケラカンとそう話す。
「狼の話が分からないとは困った犬だな、お前は」
タカはそう言うと俺を見る。
いや、暗闇の中を銃口向けてたらね?
「お前さんも、あまり不用意な事はするなよ。機嫌が良い話好きだから良かったが、人や犬が嫌いな奴も居るからな」
そう注意して帰っていった。
あれ?これ、不寝番の必要あるん?