1 何でそうなるの?
片付けを終えて今日集まったメンバーに挨拶して回った。
いくらか知らない顔もあるが、大抵は判るメンツばかりだった。
これが三度目のサバゲだ。
初めは学生時代に2年ほどやった。引っ張っていた先輩の卒業やチーム内で公式戦参加組と兎に角楽しみたい組との確執から空中分解した。
二度目は久しぶりにエアーガンを買った5年前のことだった。主に屋内で行うインドア戦メインで遊んでいたが、ここ一年は仕事が忙しくて離れていた。
久しぶりに来たのが今日。
野外でのゲームなのに持って居るのはインドア時代に電動ガンからスイッチして買い集めたガスガンばかりだ。
国内の老舗が満を期して出した長物ガスガンのM4、それもインドア向けのCQB-R、冬でも使える長寿商品で、実銃から少し離れた遊戯銃オリジナルデザインが加えられたチャージャー、個人が電動ガンから魔改造してガスガンユニット組み込んで造り上げた89式改、こいつは規制はクリアしてるが遊戯銃団体の認証が無いから有料フィールドはNGだ。ハンドガンは最近米軍の制式銃にもなったSIG、ただし、持ってるのはハンマー機構のある226だが。そのうち、米軍仕様がモデル化されるだろう。
あとは、つい勢いで大人買いしたバレットM95、これも個人が作ったバカ物、中身はガスショットガンの機構が組み込まれて6発同時発射出来る。欠点は、6発発射しても、6発が同じ弾道を飛ぶモデルがベースだから、無駄が多い事かな。
スナイパーとしてはかなり使える。いや、腕が悪いから6発同時発射は頼もしい。
「じゃあ、お疲れ様」
俺は裏道を抜けて帰ることにした。こちらが近道になるのをナビで見つけたんだ。
軽四が通れる程度の狭い山道、林道ではなく、昔の道を無理矢理広げたんだろう。一応、轍はあるが頻繁に車が通るわけではないらしい。
入ってから後悔した。入り口はさほどでもなかったんだが、あ、前には洗い越しが見える。
洗い越しは知ってるだろうか?沢に橋をかけたり土管を埋めたりせずにそのまま渡らせる道の事だ。こんな整備されていない山道だと・・・
「ジムニーで良かった。こいつじゃなきゃ通れない」
そう一人ごちる程に酷い。
削られた道跡へと車を進めると、なぜか路面が存在しなかった。いや、今あったよな?
気が付くと辺りは山の中。洗い越しというか、小さな沢と、そこには獣道の様な筋が見えるだけだった。ん?
ジムニーが無い。手にはM4、椅子機能付きの便利なリュックを背負ってあー、なぜかゲーム中よろしくマガシンカポーチまで付けまくってるよ。
ガスガンなのに、ゲーム制限枠に近い弾数持ち込むためにマガシンカポーチにフル装備で12マガジン、タンブポーチにワンマガジン、で、銃にワンマガジンの14マガジン、490発。
つか、ゲーム中だっけ?無駄にリュックが重いが何故かは分からない。そもそも、ゲームで背嚢背負う何てやらない。ニーパットやゴーグルもしてるし、何かオカシイ。
確か、ゲームが終わって近道しようと怪しい山道に進入して洗い越しで闇に墜ちた気がするんだが・・・
カサカサ・・・
全く隠れる気がない動きで近付く人影が二つ、ゲーム中だとしたら、倒しておかないとな。
俺は人影に銃を向ける。
茂みから顔をだしたのは見たこともないマスクを被った二人組だった。木の陰に隠れたからここなら撃たれても平気だ。
あれは着ぐるみか?豚っぽいマスクに相撲とりみたいな巨体を揺らしている。持ち物はこん棒?
意味が分からない。が、どうやら敵で間違いないらしい。こちらを確認して威嚇している。
えっと、俺はいつの間にコスプレイベントに参加したんだ?しかも、仲間はドコ?
周りには前の二人と俺だけ。サバゲならばそこいらから声や景気よくバラまく電動の音がしているはずなんだが・・・
兎に角、眼前の敵だな。威嚇したあとこちらに歩き出した。いや、走るみたいだな。
相手に狙いをつけて撃つ。ガスガンは連射するとガスの消費が激しいからセミオートで指切り、つまり、1発づつ引き金を引く。
カシュンカシュンカシュンカシュンカシュンカシュン。
二人に叩き込んでみ・・・・・
え?
二人は本当に撃たれた様に倒れた。何で?
ガザガサ
また音がしているのでとりあえず、そちらを警戒する。
何?死体戦?
新たな敵だな。先程と同じ着ぐるみが今度は四人。
めんどくさいのでフルオートで薙いでおく。カシャシャシャシャシャン。
急いでマガジン交換。
四人は茂みに倒れ込むか隠れたらしい。
「助けて~」
かなり近くから女性の声がする。
味方か?
様子を見ていると女性が茂みから飛び出してきた。つか、なんだよ、その格好。ゴーグルは?そんな格好じゃあ、アザだらけだろ。
とか思っていると追いかけるようにさっきの着ぐるみチームのお出ましである。
カシュンカシュンカシュンカシュン
援護するように着ぐるみを撃つ。
あ・・・
「え?あ、ありがとう?」
女性が俺に気づいた。俺はそれどころではなかった。
「おい、頭飛んだ、頭が吹き飛んだぞ・・」
咄嗟の牽制射撃で狙いは甘かった。そのうちの1発が着ぐるみの頭部に当たったのだろうが、頭が吹き飛んだよ。あれだよ、暗殺事件のあの状態。
どこか現実感がない。
女性がこちらに来るのが見えた。着ぐるみの一人が彼女を追ってくる。無心に着ぐるみを撃った。
カシュンカシュン。
腹が抉れた。脚が千切れた。意味が分からない・・・
ガザガサ・・
先程の茂みから音がした。
着ぐるみが見えたので撃つ。
4発撃ち込んだ。
「ありがとう。あれ?あなた、誰?」
隣に来た女性が疑問系でしゃべっている。それどころではない。俺はマガジンを抜いて確認した。BB弾にしか見えない。見慣れた構造のマガジンだ。
茂みで動くものがあったから3発ほど撃ち込んでおく。
「後!」
女性が叫んだ。振り向いたら近くの木から着ぐるみが躍り出てきたところだった。引き金を引く。あれ?
あ、さっきので弾切れだ。
焦る焦る焦る。マガジンが取り外せない。着ぐるみはすぐそこだ。
バタ
着ぐるみが倒れた。
「ハナ、ったく、このドジ犬はなにやってんだ」
声のした方向に人が居た。着物っぽいものを着ている。毛皮っぽい布でとりあえず胸と尻が隠れただけの女性よりはマトモな服装だ。
「お前は、何だ?ん?魔砲師なのか?」
着物男が俺達に近付く。
「私を助けてくれたよ、この人。筒持ちだから、魔砲師でしょ」
女性は何故か得意気に着物男に胸を張っている。
「そうかそうか、お前みたいなダメ犬でも犬は犬だもんな、助けてもらって良かったな」
着物男はペットをあやすように女性の頭を撫でている。ん?女性に尻尾?
「きゃっ」
尻尾をさわると女性が悲鳴をあげた。素早く俺を睨んでくる。
「うう~」
本当に犬みたいだ、よく見ると耳もケモノ耳だ。なんだよ、この、コスプレ・・・
「魔砲師さんよ、犬の尻尾をさわったら、噛まれても知らないぞ」
着物男が笑っている。
そうするうちに周りは人が増えた。
女性と同じくケモノ耳も幾人か居る。
バレットにM870組み込むってメーカー並だよな。気にしてはイケない。




