16・やはり、冒険は始まらない?
俺たちはおばあに沢を登った先であった出来事を説明した。
「そうか、やはり、鬼というのはあのデカい連中の事ではなかったのか」
なぜかそう納得していた。
「今ではあの大きな鬼ばかりが知られていて、全く姿を現さない谷深くに住む黄金色の髪を持つ連中や猫程度の背しかない胴丸な連中の話は殆ど残っとらん。元来、鬼とは我らと言葉を交わせる連中の事を指していた」
おばあの話によると、鬼とは、言葉をしゃべり背丈は殆ど人間と変わらない種族の事だったという。しかし、あまりにも険しい山河に阻まれて容易に交易が行えないこの地方にとっては、時折現れる巨大な妖怪あるいは魔物を指して鬼と呼称することが常態化したのだという。
「向こうにも多くの人は暮らしてるという話だったけど?」
「そりゃあそうさ、穴掘り連中は背が低くて寸胴だが、森を駆けまわる連中は誰もが美男美女だという。それを聞いた者たちが探しに向かうのは無理もない。現に、美しい連中じゃっただろう?」
叔母にそう言われて俺は頷くしかない。どこの女優かというような金髪美人だった。後から降りてきた連中も誰もかれもが美男美女ばかりだった。どこの役者だこいつらはとそう思うほどに。
「連中は単にその見た目が優れているだけではない。身が軽く気配を消すことが出来る。だが、それは生まれ持った体がそうなのではなく、内に宿った力を使ってやっている事らしい。ヨシフルの魔砲も、アイの魔弓も、連中の力と同じものだろうな。連中なら筒や弓無しにも、弾や矢を放つことが出来るというぞ?中には手から火柱を立てるものまで居るのだそうだ」
それでは連中は正真正銘の魔法使いじゃないのか?きっとそうなんだろう。
「なぜそんな連中が自分達より弱い俺らから隠れて暮らしてるんだ?」
これは当然の疑問だろう。魔砲や魔弓なしに遠距離攻撃が可能ならば、普通の弓に頼るしかない中世頃の戦力が一般的なこの世界の人間など、魔法で一捻りではないか?圧倒的な火力差で制圧できてしまいそうなもんだ。
「それは、連中と我らの考え方の違いとしか言いようがない。我らは新たな土地を切り拓いて住処を広げる習性を持っている。大志を持ち合わせなかった稀代の魔弓師であった夫でさえも、この村を拓くことくらいは夢見ていた。だが、連中にはそのような大志はない。森の中を駆けまわることで喜びを覚える者や鍛冶仕事で高みを目指す。それが連中の大志だ。森を拓くようなことは考えない。精々、材料を掘る穴を掘り進むか、鍛冶に必要な炭を作るために木を切り倒すくらいのものだと言われておる」
聞けば聞くほどエルフとドワーフじゃないか。
「そうすると、彼らの住むと事は年中暖かくて緑や果物が豊富ということ?」
ほぉ~とおばあがうなったが、すぐに笑い出した。
「たしかに、連中がまともに畑作りや狩りもせずに穴掘りか遊び惚けるだけなら、常春のような地が似合いかもしれんな。山越え谷越えを目指してた奴らもそう思ったかもしれんが、山には雪が降る、夏の初めまで融けん山の向こうが常春というのはちと考えられんがのう」
確かにそうだ、普通の常識ではあちらにも寒暖が存在すると考えるだろう。盆地ならばより寒暖差が激しくなっているかもしれん。
「知りたければ、関を越えて見て来るか?」
おばあが試すようにそう言う。確かにそれは異世界冒険譚としては面白いのかもしれない。しかし、これまでの話が本当ならば、それはただの山歩きに終わることになるだろう。ヴィールヒさんも言っていた。「こちらにも人は住んでいる」と。つまり、山歩きの末に単に別の村や街にたどり着くだけでしかない。きぅと、俺の想像するような異世界冒険は出来はしないだろう。
それならば、目の前にある大児退治をやった方が冒険と言えないだろうか?谷で倒したアレはどうせまぐれ当たりだ、ならば、次こそは村の狩人と力を合わせて、冒険譚が描けるのではないだろうか?
「ただの山登りをするくらいなら、大児。つまりは鬼退治をやった方が俺には合っていると思う」
「そうかいそうかい。夫と同じような事を言うね」
おばあはそう言って笑っていた。
どうやらマルイからこの夏に89式のガス風呂が発売らしいね。サバゲを離れちゃってるけど、ちょっと興味あったりする。