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14・鬼ってなんだっけ?

 俺は金髪美人がここに居るのがどうにも不自然に思えていた。

 角がある訳でもないのに鬼と名乗った。一体何でだろうね。

 

 俺のそんな疑問など意に介さず美人さんは話を続ける。


「我がこれより先は掃除した。先ほども言ったがもう憂いはないぞ。それよりも、お前たちの街へ戻って大児を討ち果たすなら邪魔はせん。そこの嫁は何やら不満らしいが」


 チッパイさんは嫁と呼ばれたことが不満なんだろうが敢えてそのことを口にはしなかった。


「帰れと言ったり歓迎すると言ったり、どっちなんだ?」


 俺にとっての疑問点その一


「それか。ここで我らに会った人間どもは大抵帰ろうとせんでな。どうにも付いて来たがる。おかげで我らの里にも人間の集落が出来ておる具合だ」


 なるほど、美人に鼻の下伸ばして付いて行きたい連中ばっかりだったと。分からんでもないな。


「すると、この向こうにも人が居て、貴方方と暮らしている訳なんだな」


「そうだ」


 ふいに美人が手を上げると、こちらを警戒させないようにゆっくり幾人か周りの崖から現れ、縄を伝って下りてくる。ファストロープかよ、しかも手馴れてやがる。

 彼らが背負っているものはまちまちで、大鍋を背負っている者までいる。降りてきたのは男女混成だった。強いて言うなら美男美女ばかりな事だろうか。手馴れた手つきで鍋を据えて食事の準備を始めている。ハナ、よだれ出てんぞ。


「人間は宴というのが好きらしいからな、帰る前に腹を満たして帰れ」


 間違ってはいないその言葉に俺は頷いた。


 宴と言っても酒が出るわけではない。これから山歩きだからそれは仕方がない。

 その辺りで狩ってきたという獣と持ってきた野菜や調味料を放り込んで鍋が作られる。その間、俺は美人さんからいろいろ話を聞いた。


 この美人さん、名前をヴィールヒというらしい。谷向こうに栄える一族という事だが、それ以上の事は教えてくれなかった。

 そして、ダイジとは、山向こうに発生する妖怪の事だそうだ。大児と名付けたのは、以前から交流があった人間たちで、ヴィールヒさんの一族はチータンと呼んでいるそうだ。

 なぜ自分たちの事を鬼と呼ぶのかもよく分からなかったが、どうやら彼女たちは身体能力が高いらしく、人間からは鬼の一種と言われているのでそれをそのまま使っているらしい。


 そういえば、日本でも鬼に白人説なんてのもあったな。あと、山で仕事をする金工師とかいうのも。

 その辺りを聞いてみると、ヴィールヒさんたちよりも体格が良く背が低くて体毛が多い人たちがそれにあたるとか。

 あれだ、ヴィールヒさんたちがエルフで、その体毛濃いのがドワーフで良いんでないか?ヴィールヒさんの耳尖ってないけど。


 ワイワイやってるとあっという間に鍋が空になった。


「どうする?付いて来るなら構わない」


 ヴィールヒさんがそういうが、俺は帰ることにした。別にチッパイさんの視線がとかそんな理由ではない。


「帰るよ。大児退治もあるだろうからね」


「そうか、ではな」


 ヴィールヒさんたちはサッとその場から崖へと昇って行った。


「ハナ、あの人たちをどこまで追える?」


「やめた方がいいと思う」


 それには俺も同意見だった。


「オオカミよりもあの人たちは分かりにくい。もしかしたら昨日のうちに見つかってたかもしれないね」


 ハナはあたりを見回してほとんどわからないというそぶりを見せている。相当だな、あの人たち。

 ちなみに、チッパイさんは後から降りてきた人たちの中に同類を見つけて安心していた。


「何?」


 ふとチラ見したら気付かれた。


「なんでも。ヴィールヒさんの話をどこまで信じれば良いのかと思ってね」


「嘘言っても仕方ないんじゃない。すべてを話した訳じゃないだろうけど、心当たりがないわけじゃないし。ずっと遠くの話だけど、鉄器を扱う街には山の中の集落からあんな大きな鍋や造りの良い武器を買い付けてるところがあるらしいから、あの人たちなんでしょ、その話の集落って」


 半ば投げやりにそんなことを言ってくる。が、なるほど、人間を完全に拒絶していないというならそうなんだろうね。

 俺たちは来た道を帰ることにした。


「そういえば、ずいぶんあそこで食べてたけど、帰りもどこかで野宿じゃないの?」


 チッパイさんがそう言う。間違いなくそうなるだろうね。なんだよ、そのため息は。


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