9 やっぱり、ヤバイらしい?
チッパイさんにひっぱたかれた。
チッパイさんはそそくさと裏口から中へと消える。
見知らぬ周りの見物人達もそれに付き従う。
残ったのはこの村の住人だけとなる。
呆気に取られている俺に一人が声を掛けてきた。
「猿の術から逃れるなんて、すげえ」
俺はよく分かっていなかったが、まずは獣をどうにかするのが先だった。
すでに裏口周辺周辺の獣は一掃されていた。
表へまわると挟み撃ちにされて逃げ出した獣と出くわしたので始末した。
村の辺りを見回って獣が居なくなった事を確認してから村へ入った。
中もまた酷かった。
辺りを血走った目をして走り回る男が居たり、服がボロホロになって放心している女性に素っ裸で倒れている男、泣き叫ぶ猫や犬が居るかと思うと、犬猫に袋叩きに遭っている男。
「何が起きてるの?」
「猿が出たんだよ。猿はわかるかな?」
そりゃ。わかる。さっきヌッコロしてやった。
「猿は人や犬猫を操るのが得意なんだ。犬猫に人を犯させたり、身分違いの人同士だったり。相手が嫌がるのを見て楽しんでるド変態の獣だよ。街に現れた猿が役人の娘を門の前で狩人に犯させて見世物にしたのは有名な話だよ」
知らないの?とハナは聞いてくるが、知るわけないだろ。
「で、狩人は打首、娘はあまりのことに自殺したって。猿は捕まることなく二人の末路を笑っていたらしい」
流石にヤバイ奴だ。何系犯罪者だ、一体・・・
実際、目の前でも惨事が繰り広げられている訳だしな。
それを見ていると見慣れない男が俺の方へやって来た。あ~、他人事じゃなかったよな、そう言えば・・・
俺は男に連行されてお婆の家に来ている。
「その方、妾をなんと心得る。下賎が!」
さっきのチッパイさんがお怒りです。村の住人ではない事は明白だが、誰なんだ?
やっぱり打首か。異世界に来たと思ったら、わずか数日で打首って、どんなゲームだろうな・・・
「この辱しめ、打首だ。さっさと支度せい」
チッパイさんは申しました。ここでゲームオーバーだと。
そして、俺を睨め付けるとさっさとお婆の家を出ていった。
「まあ、しばらく待ってな」
お婆は呑気そうにそう言った。いや、そんな場合じゃ・・・
「あれは孫だ。誰に似たのか元気でな。お前さんも聞いただろう?猿の話」
とりあえず頷いておく。
「街の門前で猿に捕まり、近くに居た狩人を呼び寄せて服を脱がさせる。とにかくヒイヒイハァハァうるさい猿だった。ワシは何の抵抗も出来んまま、皆の前で見世物にされた。さすかに犬猫の見世物でも門前で裸に剥いてまぐあわせたりはせんだろう。」
あれ?ちょっとまて・・・
「そうよな、狩人は打首、娘は自殺だったな」
ハッハッハと笑っているが・・・
「ワシは人や獣の力が見える。狩人の奴は猿の言うがままにワシを犯しおったが、奴は猿より力があった。操られてはおらんかったわけだ」
そう言って俺を見る。
「お前さんもな。言われるままに服を脱がしはしたが、操られてはおらんかったろう?ワシの旦那もな、単にそんな風習かと思うたそうだ。可愛い女子にこんなこと出来るなら、喜んでとな」
ニヤニヤ笑いながら、俺を見る。いや、俺の場合は・・・
「役人の娘とっておるが、事実は領主の娘だ。そんな娘が門前で見世物になったら死ぬしかなかろう」
ハッハッハと笑うが、話が見えない。
「ワシもあれと同じじゃじゃ馬でな、あれほどの力がある人間性など他に知らなんだ。正直、恥ずかしさより、あの力に興味が湧いてな。屋敷へ引っ張りこんだんじゃ」
なんか、たくましいな、この人。
「何、あの頃は世間知らずでな。父が騒ぐのも放り出して狩人を色々問い詰めたもんだ」
なんとも凄い婆さんだこと。狩人こと、先代領主はこの人の旦那だそうな。
一人娘だったそうで、どこからか婿養子を貰う筈だったが、じゃじゃ馬で手が付けられなかったところに事件が起こり、娘のゴリ押しのままに狩人が婿入りしたらしい。
「父が世間体を考えて、狩人は打首と発表された、ワシも役人の娘として、死人に口なし。晴れて夫婦となった訳だ。旦那はどこだったか。たしか、エドとか言う街に産まれたそうだ。それがメイジになって、引っ越した先が、お前さんの来たのと同じ名前の村でな」
なるほど、そうすると、先代は明治時代の人だったか。
ある程度、肥料や農法があって当たり前、鉄もしかり。だが、蒸気機関やらの近代産業はまだまだの時代だから、彼が広めなかったのも納得だな。
「旦那は街道を作って海や山の街との往来を盛んにして、あの街が大きくなった。だが、旦那がやりたかったのは、村を自ら作り上げる事でな、街道沿いのここに村を作った訳だ。獣が多すぎで成功したとは言えんが」
村が後から出来たのか。それはまた・・・
「あれには兄も姉も居る、この村を継がせるにはうってつけでな、あんな奴だか、宜しく頼む」
?
なんで?
「あれもハナには懐いておる。ハナをメカケとして招いても構いはせんだろう」
うん、そっちではない。