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まかせてよ  作者: 内田 倫
1/1

梅雨という時期はほんとにじめじめして嫌なものだ。

うちの学校の文化祭はこのじめじめに対抗するように6月の中旬に行われる。

ただこんなじめじめしてシャツが背中に引っ付いてしまうような時期にお化け屋敷なんてやられるほうは涼むかもしれないがやる側は真逆だ。

こんな時期に分厚い黒いマントを切ることを考えるだけでも汗が出てきそうだ。


「それじゃあうちのクラスはお化け屋敷でいいですかー?」


文化祭委員の山本唯はめんどくさそうに意見を締めようとしていた。


「どうせここでほかの意見がでても話す気なんてないんでしょ?」

彼女の性格を理解した風に僕の親友の佐川仁はいった。


「あらそんなことないわ。2秒くらいなら考えるかもね」


「さっすが文化委員、熱心だねー」


「ありがとう。わざわざ止めてやじを飛ばすあなたほどじゃないわ」


「あはは、かなわないなー」


こういうやり取りを見るたびに仲がいいんだろうなー、なんて勝手に思っているけど実際はどうなんだろうなんてまぬけなことを考えていると、不意に頭を軽く叩かれた。


「なに呆けてんのよ」


「やあごめん嫉妬しっちゃてさ」


「あんな皮肉だったらいくらでもいってあげるわ、ほら仕事の係を決めるから早くこっちに来て」


「出血大サービスだね。わかったよ」


~~~


「仕事おわったよ」

「さっすが、頼りになる男は違うね」

「褒めたってなにも出やしないぞ」

「褒めてないよ、お世辞だよ」


仁はわざとらしくを両手を挙げて肩をすくめた。


「こんな堂々と言う人初めてだよ………」

「あら、あなたの初めてとっちゃって………」

「それじゃ次の仕事があるから」

「無視かい!」


彼は左手で僕をつっこむ素振りを見せた。

この騒がしさが彼の長所だったり………短所だったり。


「それじゃそっちの仕事は頼んだよ」


「へいへーい」


~~~

「ほんとにあなたそんなに仕事するつもり?」

山本は心配とも不安ともいえる顔で僕を上目遣いでちらっと眺めた。


「大丈夫だよ。これくらいなんてことないし、立候補なんてほとんどいなかった、あーこれは皮肉じゃないよ」


「そうならいいけど、そんな自信満々に言ってミスったら許さないんだから」


「それは怖いなあ、気を付けるよ」


そういって彼女のもとを離れたがその視界の端に映った彼女の顔はまだ不安そうな顔をしていた。


~~~

「何か仕事ある?」


「ありがとう山田。でも今は落ち着いているから大丈夫だよ」


この人は同じクラスの山田由紀。こんな風に気が利くお母さん気質なんて勝手に思っているけどばれたら殺されちゃうかも………


「今何か変なこと考えてるでしょー」


背中に氷を落とされたみたいにぞっとした。

エスパーかよ。ユリ・ゲラーもびっくりだぞ。


「か、かんがえてないよ」


「語頭を2回以上いう人なんてオタクかなにか隠し事をしている人くらいよ」


「ぼぼぼぼくはオオオタクじゃないよ」


「オタクを馬鹿にしているの?日本の大事な文化なのに」


「今のは尊敬の意を表した僕なりの表現だよ」


「はいはい。ところでほんとにやることはないの?」


「大丈夫、やることは全部やっといたよ」


その言葉を聞いたときの彼女の眉間の僅かな動きにきずいた。

だが僕はそれを、1人でやったことへの驚きと自己解決してしまった。


「そう、お疲れ様、でもあんまり1人で抱えずにみんなに頼ってもいいんだよ?」


そういった彼女の顔は顔に擦り傷をつけて帰ってきた子供を心配するようなお母さんのような顔で、温かさと、ばつの悪さを感じた。


「ありがとう、でも大丈夫だよ」


~~~


あらかた今できる仕事を終えていた僕たちのクラスはあと発注と発注をした物品の到着を待ち、それを整理するだけだ。


「発注をする人だけど………」



「僕がやりますよ」


正直文化祭の仕事はとても楽だし苦にならない。

こういうのは嫌々やるものじゃないそう思い僕は立候補をした。


「でも松田くんにはほかの仕事も何個か任せてしまっているし、誰か他に手伝いを………」


「大丈夫ですよ」


こういうことは1人でやったほうが効率がいい。


「せんせーい、彼もそういっているみたいですし、いいんじゃないですか?」


「でも山本さん………」


「彼は文化祭本番より準備のほうが好きそうですしね」


「そんなわけ………」


「あら、そう?あまりに準備に積極的だからそうなのかと」


「わかってないな、遠足は家に帰るまでが遠足なように、文化祭は準備から始まっているんだよ?」


別にあおるつもりじゃなかったがこの言葉で彼女に火がついてしまった。


「そう?で、どうなの1人でやっている文化祭は?楽しい?」


「1人じゃないだろ?」


「みんなとやっていると思っているの?幻覚でも見えてるんじゃないの?」


「お互いね」


「はい、2人ともその辺にして。とりあえず仕事は松田君に任せるから必要な時にほかの人に手伝いを頼んでね」


先生は困ったようにして、とりあえずその場を締めた。


~~~

「何か仕事ある?」


山田はほんとにおせっかいというか世話焼きなのかな?

山田は立て続けに


「確かにあれは言い過ぎだと思うけど、誰かを頼ることは大切なことだよ」


「ありが………」


「ありがとう山田でも大丈夫、でしょ?少しは私の言うことも聞いて」


流石エスパー………頭を空っぽにしないと話せやしない


「すごいね、テレパシーみたい。次はスプーン曲げでも見してくれるの?」


「ふざけないで、私は本当に心配して………」


彼女の顔はどんどん暗くなっていき、俯いていき最終的には廊下を見つめるほど頭が下がっていた。

その様子はお母さんというよりは、お母さんに怒られた子供のようだった。


「ごめん謝るからそんな顔しないで、でも本当に大丈夫だから」


「わかった。とりあえずは許す、でもほんとにきつくなったら言って」


「わかったよ、君にはほんとにかなわないな」


~~~


発注はパソコンで衣装や飾りなどを必要数頼むだけなのでとても楽なものだった。

学校の授業が終わり先生からパソコンを借りて今日は教室でパソコンをいじっていた。

衣装、飾りの資料と合わせながら、売っているところを探し、あとは注文をする。

ひとつひとつ確認をしながら、一息ついてので、少し休んでから教室を出ることにした。


教室で休んでいると、僕が仕事をやるといったとき、突っかかってて来た山本とその友達が2人教室に入ってきた。


「あら、こんにちは働きアリさん」


「これはこれはお姫様、お褒めに預かり光栄です」


「その様子だと1人の文化祭も案外たのしそうね」


「ああなかなか充実しているよ、山本もどう?」

「私は遠慮しておくは、あなたのパーティーの邪魔をしても悪いしね」


「それは残念、ところで放課後の教室になにしにきたの?」


「おしゃべりよ、ね」


周りの2人は山本のほうしか見ず、まるで僕がいないかのように視線をこちらに向けることはなかった。

教室からそそぎこまれた夕日のスポットライトは窓と窓の間の柱の横にいた僕には当てられず、彼女たちを舞台女優のように照らしていた。


「ま、邪魔しちゃ悪いし場所を変えるわ。それじゃよいひと時を」


彼女は皮肉をこめて、去っていった。

彼女はそういう人間だし別に嫌な人間など思ったことはなかったが、今の皮肉はなぜか僕の心をチクリと刺した。

僕は彼女が去ったタイミングで仕事を再開し外、スポットライトが消え舞台が終わるタイミングで仕事を終えた。

届いた物品を整理して、飾り付けていけばいいだけだ。

文化祭は4日後の土曜日、物品が届くのは2日後の木曜日の午前。

あらかたできる教室の飾りつけはできている。衣装も大方準備はできている。

大変ではなかったが、急に仕事がなくなると、寂しさのような虚しさのような、空白を体のどこかに感じた。


~~~


「物品が届かない?」


「ええそうよ、あなたが頼んだんじゃないの?」


「ああ確かに頼んだはずだ」


「でも届いてないわ、早くチェックをしないと間に合わないわ」


山本に廊下で肩をつかまれて僕は自分のミスに気が付いた。

急いでパソコンでチェックしてみると発注情報を間違えていて物品が届くはずがなかった。

まずい。あらかた準備ができているとはいえ、これが届かないとお化け屋敷は完成しない。


「ちょっとどうするつもり?今から発注したところで準備はおそらく間に合わないわ」


「それはわかっている」


「わかってない!1人で勝手にやるのは構わないけど勝手に失敗して周りのみんなに迷惑をかけないで!」


いつもは遠まわしに言ってくる山本が声を荒げて直接思いの丈を吐き出してきて、僕は驚き、なぜだかそのとき僕にも怒りがわいてきた。


「任せっきりだったくせにいまさら文句だけ言うつもり?ほんとに君は性格がわるいね」


「性格悪いのはどっちよ、手伝わせる気もなかったくせに」


「なんだと」


「どうせあなたのことだからみんなこんな仕事めんどくさいと思っている、こういう仕事は苦に感じない人がやるべきだと自己完結しているんでしょう?」


僕は心の中をのぞかれたような気がしてその心の窓を閉じるようにちがうと否定した。


「自己完結しているのはそっちだ!僕の気持ちをわかったつもりで」


「わかる、わからなきゃこんなこと言わないし言えない」

そのときの山本の顔は今まで見たことないほど歪んでいて、いつでも強く皮肉まじりに話してくる印象とは真逆に繊細でか弱い女の子に見えた。

見えた、というより強い鎧のようなもので隠していたのかもしれない。



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