写し鏡の令嬢 その1
マーリンから道具を受け取ったエルたちは、すぐに材料の調達に取り掛かった。
…とは言え、「構築」と「対生物」の魔法石は、アイリスとフローレの聖剣の力で賄うことができた。
「これ、魔法の力だったとはねぇ…」
アイリスが、聖剣の力を封じられることに驚いている。
「聖剣は正義の力、魔法は悪の力って教えられてるからな」
「最近、この国はおかしいよねぇ」
そして。
最後に残った「反射」の魔法石をどう手に入れるか、四人は頭をひねっているのだった。
「アイリス先輩の『壁』は、『反射』じゃないんですか?」
「いや、無理だったみたいだよ。なんか言われている色とは違ったし」
他の聖騎士を当たることも考えたが、ここは騎士団の最下層、十三部隊。上の部隊からも嫌われているため、彼らに協力を仰ぐのも難しいだろう。
「本当に、ここは嫌われ者なんですね…」
「仕方がないって。俺たちも、好きでここに居るわけじゃないんだし」
意見が出尽くし、訪れた数秒の沈黙。
それを破る様に、エルが呟いた。
「当てなら、あるかもしれない…」
「それは、一体…?」
「僕も気になりますね」
食いついてくる後輩たち。しかし、エルは嫌そうな顔をした。
「そいつ、俺は少し苦手でな…。ゴミを見る目で見てくる他の聖騎士よりはマシなんだが」
それを聞いたアイリスが、「ああ、あの娘か」と言う。
「はぁ…俺の精神の平安を保つためにも、行くしかないか」
おそらく虫を嫌がる気持ちのほうが勝ったのだろう。エルは、出かける支度を始めた。
宿舎から馬車で数時間。ミラディアンの中心街の真ん中に、その屋敷はあった。
瓦の三角屋根、横開きの扉。周りの建築物とは一線を画したその外装は、それ故多くの人の目を引いている。
「いや、何時見ても壮観だねえ」
「ああ、慣れないな」
ここが、聖騎士団第六部隊の基地なのである。
「「どうぞ、お入りください」」
門番の深々としたお辞儀を背に、四人は屋敷の中へ入っていく。
「あの、ここに住んでいるのは…?」
「第六部隊の隊長。良い子だけど、ちょっとエルは苦手みたい」
「そう、なんですか…?」
広い屋敷の中を歩いていき、たどり着いたのは大広間のような場所。
扉を挟んで、メイドのような女性が向こうの人と話している
「お嬢様、ご来客です」
「おお、誰だ?」
「十三部隊の騎士だそうで…」
その瞬間、エルらの目の前にあった扉が、勢いよく開け放たれた!
「久しいのう、エル!」
お嬢様と呼ばれた女性は、召使い達と同じく異質な服装をしていた。
それは黒髪の彼女にとても似合っており、ゆったりとした美しさを持っている。
「よお、久しぶりだなミズキ」
「私もそろそろ、お主に会いたかったところじゃったよ」
その雰囲気には品があったが、どことなくあどけない感じも残っていた。
「…むう?誰じゃ、その二人は」
「ああ、十三部隊の新入りだよ」
「そうか。よろしく頼むぞ、お前達」
ミズキがそう笑いかけると、新入りの二人は会釈をした。
…状況説明、終了。
「…なるほどなー」
「お前真面目に聞いてなかっただろ」
「いや、分かるぞ。この私の力が必要なのじゃろう?」
立ち上がり、ミズキが強調した。
「この、私の力が!」
「「「「………」」」」
四人全員が白けた顔をしている。
「……とにかく、力を貸せばいいのじゃろう?」
少し恥ずかしそうなミズキ。
「ああ、頼む」
「それには一つ条件がある」
「えっ?」
彼女は、ゆっくりと窓際まで移動していく。
「私がお主に会いたかったのはなぁ、力比べがしたかったんじゃよ」
「…また決闘か?」
「然り。中庭に出よ、久しぶりに本気の戦いじゃ」
そう言って、壁に立て掛けてあった剣を引き抜いた。
対するエルは、「望むところだ」と言って、自分の剣を抜く。
戦いが、始まろうとしていた。
第六部隊は和風の屋敷を基地にしています。
ミズキさんはのじゃですがロリではないので注意(?)です(*^-^*)
(2017/08/08 改修)
目立った修正は無いですが、改行にこだわったり、誤植を直したりしました。
後で見返すと、誤植って多いですね…(泣)