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Black Paladin ~聖騎士団第十三部隊~  作者: Noire
序章 日陰の騎士たち
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優しすぎる騎士 その1

 夕方。エルがしばらく暇を潰していると、アイリスが帰ってきた。

「お帰り、無事送って来られたのか?」

「ま、まあね。ただ…」

「ただ?」

 よく見れば、先程の客のなかに居た、二人が付いて来ている。

「この子たち、うちの新人だった」

「まじかよ」

 そう言われ、エルは二人に目をやる。


 一人は、とても小柄な少年。

 とても十五歳に見えないが、しかしそのペンダントには聖印がしっかりと刻まれている。

 聖剣を持つということは、すでに一人前の騎士であることの証明なのだ。

 外見に似合わずその表情は不機嫌そうで、話しかけないほうがよさそうな雰囲気を纏っている。


 もう一人は、白い髪が目を引く、美しい少女。

 背丈こそ少年より少し高いものの、その頬は赤く、何だかおどおどしている。

 あまり人と話す事が得意ではなさそうだ。

 エルが彼女と目を合わすと、彼女は恥ずかしそうに顔を隠した。


「とりあえず、今日はゆっくり休みなよ。自己紹介とかも、明日で良いしさ」長旅で疲れているであろう二人に、アイリスは気をきかせて言う。

「どうも」「あ、ありがとうございますっ」と、二人も答える。

 その日は挨拶だけで、あまり顔も合わせずに終わった。


 次の朝。

 朝食をとりながら、お互いに自己紹介をした。

 まずは先輩たちの番。

「エル・ルーファスだ。昨日見てたと思うけど、聖剣は無いのに聖騎士やってる」

「あたしはアイリス・ハイフォード。壁出す聖剣です」

 やはり二人とも聖剣の無い事には驚いていたらしく、少し動揺していた。

「見間違いかと思いました」

「だよね、君。あたしも最初そう思った」

「あ、僕はアルバート・フリードと言います」

 アイリスが気さくなのもあるのだろうが、少しアルバートが心を開いたようにも見える。

「私は…フローレと言います」

「ふうん、いい名前じゃん。で、聖剣は?」

 聖剣について尋ねると、彼女は少し戸惑って、

「口で説明するのは…難しいかもしれません」と小声でつぶやいた。

「まあ、それもしょうがないよな。今日は確か防衛があったはずだから、そこで見せてもらえればいいよ」

「あ…ありがとうございます」


 朝食を終えてしばらく経ったころ、街中に鐘の音が鳴り響いた。

「お、招集だ。行くよみんな」

 全員が聖剣を手にし、門の方へと進み始めた。



 西ミラディオ平原は、ミラディアンを囲む四つの平原の中で、最も広いものである。

 青々と生い茂る草たち。それを求める小動物たち。そして、それを狙う肉食獣が闊歩する。

 雄大な自然を体感できる、ミラディアン屈指の名所だ。そう。襲撃さえなければ。


 この場所は、ミラディアンがサトゥヌスと敵対したころより、度々襲撃に遭っていた。

 日を追うごとにそれは激化していき、今では三日に一回ほどの周期で起こっている。

「…で、その防衛に聖騎士が当番制で携わっているんだ」

「なるほど、それで僕たちが駆り出されたというわけですか」


 今、四人は平原の真ん中に立っている。その前方には、大量の魔物が群れを成していた。

「さて、新人君たちの聖剣、見せてもらおうかな~♪」

「なんでそんなノリノリなんだよ」

「あたしは人の聖剣が気になるタイプなのっ」

「…初耳だぞそれ」


 そうしているうちに、魔物はすぐそこまで来ていた。

「『解放』センチネル・ウォール!」

 アイリスが街の目の前に壁を創り出す。守りに気を取られずに、新人が戦えるようにだろう。

「では、僕が行きます」

 アルバートが首に掛かったペンダントを取ると、それは正六面体へと変化し、聖印が空中に浮かび上がる。

「『解放』カラミティ・ダイス」アルバートがそれを放り投げた。

 その瞬間、戦場に大竜巻が巻き起こった!

 それは敵陣の中央に現れ、中央の魔物を引き裂く。また、その暴風は周りの敵を吹き飛ばし、敵陣は一瞬で壊滅した。


「す、凄い…」

「ふう…危ないのが出なくて良かったです」

「君のそれは、竜巻を巻き起こす奴なのかい?」

 アイリスが問うと、アルバートは顔をそらした。

「違います」

「…え?」

「何が出るか分からないんですよ、コレ…」

「まじかよ」


 彼の聖剣、「天賽」カラミティ・ダイスは、賽子《サイコロ》型の聖剣。

 天災を引き起こす力を持つ、強力な聖剣である。

 しかし、その欠点は「何が起こるか分からない」ことであり、それ故多くの味方を巻き込んでしまう可能性があるのだ。


「…失望しました?」アルバートの顔つきが悪くなる。

「いいや、全然だよ!むしろ君のそれは、戦場を一気に覆せる。使い方に気を付ければ、負け戦でも逆転できるかも…!」

 アイリスは興奮気味に語った。「励ます」という気持ちは一切ないようだが。

 それを見ていたフローレが一言。

「先輩、優しい…いや、かっこいい…!」

「えっ…?」

「私、女性騎士に憧れてたんです…」

「お、おう…」

 さっきより彼女の顔が赤い。


「お、おい、気を抜くな!また来るぞ!」

 すでに魔物たちは体制を立て直し、こちらへと向かってくる。同胞を殺されたからか、その勢いはすさまじい。

 歴戦のエルでさえも気圧されそうであった。「ヤバそうかな…?」防御のための壁を作りながら、アイリスも後退する。

 しかし、フローレは三人とは逆の、魔物の方へと歩き出した。

「ちょ、危ないよ!」

「私は、大丈夫です」

 彼女が剣を抜く。これが聖剣のようだ。


 ふと気づいたように、彼女が振り返る。

「あの…恥ずかしいので、あまり見ないでくださいね…」

そう呟くと、聖剣を掲げ、宣言した。

「『解放』ローズ・ガーデン」彼女の目の前に聖印が浮かぶ。やがて剣が淡い光を放ち始め…


 草原に花吹雪が巻き起こった。


 先程とは違う、柔らかい風。その中央で、フローレがゆっくりと剣を振っている。

 まるで舞っているかのようなその所作は、だれであれ、思わず見惚れてしまうほど美しかった。

 見れば、魔物たちは武器を取り落とし、その場に膝をついている。

「今日のところは、お引き取り願えませんか…?」フローレが呟くと、魔物たちは落とした武器を拾い上げ、来た道を駆け戻っていった。


 彼女の聖剣は「華剣」ローズ・ガーデン。

 「剣」とあるものの刃は無く、刀身はステンドグラスのようである。

 その力は、幻の花吹雪を生み出し相手を魅了、その戦意を喪失させるという物である。

 極度の恥ずかしがり屋であるフローレだが、「注目を集めてしまう」この力をなぜか手に入れてしまったのだ。


「こっちも、凄いじゃん…」アイリスが感心したような表情をしている。

「ついさっきまで、あんなに猛ってたのに…。恐ろしいな…」

「ほんとだよねぇ」

 フローレは剣を収め、ほっとしたように胸をなでおろしている。アイリスはそこに駆けつけ、エルもその後を追った。


(2017/08/08 改修)

今回の改修で、少し一話を長くすることを意識しています。

いかがだったでしょうか(*'▽')


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