表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black Paladin ~聖騎士団第十三部隊~  作者: Noire
序章 日陰の騎士たち
3/21

全ての始まり

 ガラスの割れる音で、エル・ルーファスは目を覚ました。

(ああ、またやられたのか)

 見れば、彼の部屋のあちこちに、ガラスの破片が散乱している。

 慣れた手つきで彼はそれを拾い集め、ゴミ箱に放り込んだ。


「おはよう、エル。今日もやられたねえ」

 食堂へ向かうと、同僚のアイリスが声を掛けてきた。

「全く、本当にマメな奴らだよな…」

「そうそう、あの勤勉さを別のところに生かして欲しいもんだ」

 話しながら、パンを口に運ぶ。


「そういえば、新人の子が来るのって、今日だったよね」

「ん?…ああ、そうだっけ」

「うちの隊、新人が来るのは珍しいよね〜。まあ、少ないほうが嬉しいけど」

「今度は二人来る、って言ってなかったか」

「いやあ、その子たちも大変だねえ。せっかく聖騎士になりたくて、頑張っていたのにさ」

 アイリスが空になった皿を差し出してくる。

(まだ食べ終わってないっつーの)

 それを見て、エルは料理を急いで食べ終え、皿を上に重ねた。


「今日は防衛もないわけだし、買い物にでも行こうか。新人の子の歓迎もしたいしね」

「異議なし」

 食事を終えた彼らは、街へと向かっていった。


 西の王国「ミラディアン」は、隣の魔法大国「サトゥヌス」から侵攻を受けていた。

 彼らはその技術を用いて魔物を造り出し、ミラディアン国土にばらまいた。

 それに対抗するため、ミラディアンの市民たちが結成したのが、守るための騎士団である「ミラ聖騎士団」なのである。

 エルのような団員たちはみな、魔物からの街の防衛や駆除活動などを行っている。

 今では騎士団の長――騎士王――がミラディアンの国権を握っており、その「自衛」の定義すらも曖昧になってきているのだが…


「しっかし、あたしたちの境遇って、本当に悪いよねえ。騎士王の代が変わったあたりから、さらに厳しくなったし」

 そう言って、アイリスはため息をついた。

「今日来る新人が、つらくなって辞めちゃうとかは、悲しいよね…」

「ああ、別にここじゃなければ、そこまで辛くはないのになぁ」

 聖騎士団にもいくつかの隊があり、基本的に能力の違いで格付けされる。

 そう。基本的には。


 彼らの隊、「ミラ聖騎士団第13部隊」は、とても戦力にならないもの、問題のあるもの、そして騎士王に逆らう者たち(・・・・・・・・・・)が飛ばされる。

 通称、騎士団のゴミ箱。

 つまり、ここに来る、ということは、「お前は役立たずだ」と宣告されるのと同じなのである。


 買い物を終え、帰路に就いたエルたち。

「もう夕方だ…。もう新人来てるんじゃないか?」

「あ…ヤバいかも。急がなきゃ」


 そうした時、街に女性の悲鳴が響く。

「あれ…助けに行かなきゃ!」アイリスが呟く。

「新人はどうするんだ」

「後で謝ればいいじゃんっ」

 声の方に駆け出して行ってしまったアイリスを、エルは追いかける。見れば、ガラの悪そうな人々が馬車を取り囲んでいた。


「お、おいお前ら!聖騎士が来やがった…逃げろ!」

 エルたちの姿を見るなり、一目散に逃げていく彼ら。

「アイリス、頼む」

「了解」


 悪党どもの目の前に、アイリスが立ちはだかった。

「『解放』センチネル・ウォール!」

 彼女が唱えると、その手甲から聖印が現れる。

 その瞬間、突如として街中に「壁」が現れた!

 それはまず馬車の周りを、群がっている人々を吹き飛ばし、盾のような形で現れる。

 そして、今度は悪党を取り囲むように現れ始め、ついには彼らの退路を断ってしまった。


「1、2、3…ざっと二十人くらいは閉じ込めたよ。エル、よろしく」

「おう」

 閉じ込められた人々は恐怖におののいている。ナイフを握りしめる者、壁を叩くもの…

 それもそうだろう。聖騎士は人智を越えた力を扱えるのだ。


 聖騎士見習いは十五歳になると、様々な武具が与えられる。

 「聖剣」と呼ばれるその武具(剣とは限らない)は、神々の加護を受けており、その力の一部を行使できるのだ。

 そして、アイリスの聖剣、「守壁」センチネル・ウォールは、おおよそ人間では破れないほどの防壁を造り出す!


「クソ、逃げたければお前らを倒して行けってか…」おそらくリーダーと思われる男が言う。

「お前ら、まずはあの弱っちそうな男から殺っちまえ!」

(俺の事か?ひどい言いようだなあ)

 エルは剣を抜いて構え、向かってくる敵に向けて一撃ずつ食らわせる。

 四方八方から飛んでくる刃を、まるで踊るように避け、そして流れるようにカウンターを見舞う。

 力の差は、歴然だった。

「何だこいつ…強い!」斬られた腕を押さえながら、一人が叫ぶ。


 だが、やはり多勢に無勢。

 何度も攻撃を受けるうち、エルは押され始めていた。

「ぐっ…!」

 切創が一つずつ増えていく。

「おら、とどめだ!炎の刃でも食らいやがれ!」

 リーダー格が構えたナイフが赤熱し始め、やがてそれは炎を纏う。

(魔法道具…!?)

 あれを食らってしまえば、即死は免れないだろう。

「喰らええぇ!!」

 炎がエルに迫る。


 しかしエルがそれを受け太刀した瞬間、その炎は掻き消える。

「この力を使う気は、無かったのにな…」

 そして、エルの剣が、黒い炎のようなものに包まれる。

「な、なんだそれ…」

「闇の力だよ」

 暗黒を纏った斬撃が、容赦なくリーダーを吹っ飛ばす。

 直撃は免れたようだが、彼は面白い恰好で壁に激突した。


「ひ、ひいっ…!」

 悪党は、頭をつぶすと弱体化する。統率の取れていた陣形は崩れ始めた。

「待てよ」

 エルが剣を振るうと、波動がほとばしった。

 一人、また一人とその波動にのまれ、その場に倒れこむ。

 たった数十秒で、悪党どもは全滅した。


 エルは聖剣を扱えない。聖剣が存在しないのだ。

 十五歳の時、彼には何の武具も与えられなかった。

 しかしそれに代わる様に、エルは暗黒の力に目覚めた。

 聖騎士にとって、闇は打ち払うもの。それゆえ、彼は他の聖騎士から「異端児」と嫌われ、疎まれているのである。


 エルの手で、剣が錆びつき、柄は朽ちて崩れ落ちる。剣が力に耐えきれないのだ。

「…ふう」

「お疲れー。いやあ、焦ったねぇ」

「まさかただの盗賊が魔法道具を持っているなんて…」

 魔法の掛かった道具は高価で、庶民に手が届くものではない。

「…盗品じゃない?」

「それもそうか」


 アイリスが聖剣の力を解除すると、守られていた馬車から数人が出てくる。先程の悲鳴の主であろう、少女もいた。

「じゃあ、あたしはあの人たちを送ってくね。エルは?」

「先帰ってる」

 このような事件は聖騎士にとってはよくあることだった。

 しかし、運命の歯車が回り始めたのは、この時だったのだ。


(2017/08/08 改修)

「Black Paladin~聖騎士団第十三部隊~」スタートです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ