雪国の守護者たち ~休息、刺客~
「…ここにいたんだねぇ」
フローレは、ベランダから街の景色を見ていた。アイリスが声をかける。
「懐かしいのかな?」
「…はい。故郷のことは、今でもよく覚えてるんです」
彼女は懐かしそうな…どこか泣き出しそうな顔をしている。
「兄がいなくなった日も…昨日のことのように思えて」
「…わかるよ」
アイリスの声が低くなる。
「私は…西の方の『フィエム』って国が出身でさ。サトゥヌスの近くだから、よく兵士とかが好き勝手やってた」
「…?」
「…私の父も、それで殺されたんだ。ありもしない容疑を吹っかけられて…」
だから、復讐のために騎士団に入った。アイリスは続ける。
「…でも、人殺しなんてことはしちゃいけないと思ってるんだ。だって、それをすれば、奴らと同等になっちゃうし」
「…はい」
人の命が消える事は、とても悲しい事だから。二人はその点、似ているのかもしれなかった。
「この大きな戦争が終わったら、故郷に戻って静かに暮らそうと思うんだ。で、『わが町を守る為に戦った伝説の聖騎士』ってお墓に刻んでもらうんだよ」
そう言って、アイリスは冗談めかして笑う。
「…私は」
「?」
「戦いが終わった後のことなんて…考えて居ませんでした。毎日が精一杯で…」
少し俯くフローレ。
「…そういうの妄想すると、明日を生きる気力…っていうのかな? が、湧いてくるんじゃないかなぁ」
「…はい!」
少しの間があった後、彼女の顔が少し明るくなった。何を考えていたのかは伺い知れないが。
「さぁ、部屋に戻ろう!お茶が出てるんだよー」
そう言って、アイリスがフローレの手を取り、一歩を踏み出す。
その時だった。足を踏み出したその床が、崩れ落ちたのは。
「…!?」
ガラガラと音を立てて、建物自体か崩壊していく。とっさにアイリスが防御壁を展開した。
「センチネル・ウォール!私たちを守れ…!」
透明な卵の殻のようなものが二人を覆う。襲いかかる瓦礫は全て弾かれた。
そこに、エルやミズキも駆けつける。大慌てで外まで出てきたようだ。
「建物の急速な老朽化…。どうやら敵のようじゃな。危険じゃから、フローレは隠れておけ」
散らばる瓦礫は、まるで何十年も放置されたかのよう腐食している。フローレはその陰に隠れた。スロウとシルクも一緒だ。
「…もう嗅ぎつけられたのか…?」
「その通りだ…残念だったなぁ」
そこに現れたのは、灰色の髪をした、目つきの悪い少年。
「あんたらが俺たちの動向を探ってるって聞いたんで、少しばかり様子を見にきたんだが…」
その男は、一拍置いてから。
「…なんでのん気にお茶会してるんだ…あんたら?危機感ってのが無いのか!?」
「「うっ」」
ミズキとアイリスが目をそらす。…世界の危機とかよりも大事なものは、たしかにあるのである。
「…し、仕方ないの…!!あれは…!」
青年は呆れ顔だ。
「…まあ、そこは良いとして…。危険因子は潰さにゃならんと、リーダーが仰ってる。あんたらには消えてもらうぜ」
そう言って彼は、真っ黒な刀身の剣を鞘から引き抜いた。禍々しい雰囲気だ。
「っ…! 総員、臨戦態勢!」
ミズキの号令で、皆が聖剣を構える。
訪れる一瞬の間。
そして、相手はこちらに突進してきた!単調で愚かにも見える行動。しかし彼の目には自信の色が写っている。
「解放、『水面之劔』!迎え撃つまでじゃ!」
ミズキが反射的に飛び出す。両者は鍔迫り合いの状態になった。
「俺はナローって言うんだ、覚えなくて良いぜ」
力はそこまで強く無いのか、彼はミズキに押し切られ、吹き飛ばされる。しかし、まだ余裕の表情だ。
「…だって、ここがお前の墓場になるんだからよ!」
「…それは、どうかな!」
距離をとったミズキは、聖剣の力で身を隠した。辺りを霧が覆う。
「…どこに行きやがった?」
「…私の姿は、誰にも見えん。お前に私は倒せん!」
見えない剣が、ナローと名乗る男の身体に一つずつ傷をつけていく。
しかし。
突然、戦場に立ち込めた霧が晴れる。そして、辺りには雪が降り始めた。
「…これは…!?」ミズキの姿を隠していた
その様子を見て、ナローはほくそ笑んだ。
「…アンジェロさん、いいタイミングだなぁ。苦戦してたところなんだよ」
「…油断するな、命を取られるぞ」
現れたのは、白髪の青年。その瞳は、冷たい光を放っていた。
「やつは恐らく、水を操って姿を消している。…僕には、それがよく分かった」
彼の持つ剣が、白い光を放ち始め…。
「なぜなら、僕も『水』を操る力だからな」
一閃。
光の筋のように見えたのは、アンジェロの剣の閃きだった。遅れて、身を裂くような冷気が戦場に迸り…。
一瞬で、戦場は氷に閉ざされた。地面は白い雪に覆われ、エル達の腕は動かせないほどに凍結している。
「「…!?」」
戦況がひっくり返った。そう錯覚してしまう。
ミズキが言った「人数」で言えば、四対二でエル達の優勢である。しかし、圧倒的な力を見せつけられ、それでもなお、「優勢」と言いきれるだろうか?
否。恐怖は、その判断を狂わせる。
「さあ、お前たちを排除させてもらうぞ…!」
少し短くて申し訳ない(´;ω;`)
さて、アンジェロさんの正体。
…察しの良い方はお気づきかもですが、次回明らかになりますよー!




