北の異変、旅立ちの決意 その2
お久しぶりです(*'▽')
大変長らくお待たせいたしました!
議会が終わった。湿った空に、馬車のがたがたという音が響く。
「…あの」
何も言わず塞いでいるエルに、フローレが声を掛ける。
「大丈夫…なんですか?」
「…辛いけど、もう慣れたよ」
形だけの笑顔を作るエル。
「…でも」
何かを言おうとした彼女の肩に、アイリスが手を置く。
「エルは傷つきやすいんだ。だから、事なかれ主義だし、面倒なことが大嫌い。正直、隊長の器じゃないと思うよ」
「ひどい扱いだな、おい」
突っ込みをいれるエル。
「まあまあ。でも、エルは…」
「…だけど、エルさんは…!」
アイリスの言葉と重なってしまったのは、涙目のフローレの訴えだった。
「仲間想いで、優しい人です…!だから…」
「…うん。その優しさがあってこそ、十三部隊はここまでもってきた。あたしたちは、そんなエルを支えていかなきゃ」
「…はい!」
少しだけ、馬車の窓から光が差し込んでいた。
「…さあ、これから旅をするわけだが…。」
宿舎に戻った四人は、大急ぎで荷物をまとめた。精一杯のモノを詰め込んだかばんは、今にもはじけ飛んでしまいそうなほどであった。
「あの、荷物…、多すぎるような…?」フローレが質問した。
「ああ、それはだな…」
後輩に説明するエル。以前なら考えられない光景だ。
一か月前の事件から、隊の結束力は強くなっていた。
「長旅なら、この家を長い事開けておくことになる」
「…?」
「その間、盗賊とかならず者とかがイタズラし放題だろ?」
いつもこの家が受けているのも、「イタズラ」で済まされることではないが。
「…ちなみに、その盗賊が今や仲間なんだけど…ねぇ」
アイリスが口を挟む。実際、街の外にはくだんの連中―「赤い蠍」―が人知れず街を守っているのだ。
「…あいつら、ついてくるのか?」
「こっそり付いて来てたり…とか?」
「いやだなぁ、正直」
「やあやあ、みんなの魔女マーリンさんだよ~」
地下から、首を突っ込みたがりの彼女がぬっと現れた。
「…マーリンさん、ついてくるんですか?」
「いや…私は家を守っておこうとおもってね、アルくん」
魔法の研究つながりで、すっかり仲良くなっていたマーリンとアルバート。アルくん、というのは愛称のようだ。
「エルと紛らわしい気もするけど…、『バー君』ではなんか気に入らなくてね。…それはともかくとして」
テーブルの上に彼女が置いたのは、大きめの布と、何本かの金属の支柱…。
つまり、テントである。
「…異次元テントか?」
「いや、テント型の空間転移装置さ。いつもの合言葉をなかで唱えれば、私の部屋に瞬間移動…って感じ」
それを聞いたフローレが、「それは…いつでもお茶会が出来るってことですか…!」と後ろで目を輝かせていた。
「まあ、長旅は大変だろうし、好きなだけ休んでくれていい。何なら、荷物置き場でもいいよ」
「それは助かる。…詰め込めるだけ詰め込んだはいいが、この荷物を背負ったら潰れそうだ」
「喜んでくれて私もうれしいよ。…報酬は、期待しておくからね?」
「…ああ、任しとけ」
これから命がけの旅をすると言うのに、のんきな会話が繰り広げられている。
少ないながらもかけがえのない仲間たちが、エルを取り囲んでいて…。
(…ありがたい事だな。こんな俺に…)
「…フフッ」
いつもはすましているエルの顔が、少し緩んでいた。
「エル、笑ったね?今」
「…アイリス、そんなに珍しいか」
「珍しいよ。なんというか、いつも不愛想だし」
そんな二人の様子を、フローレが嬉しそうに見ている。
和気あいあいとした雰囲気。それを…
「お前達…、ちょっと待て!」
一人の少女が壊した。
「…ミズキ!?何でキミがここに…?」
宿舎のドアを破らんばかりの勢いで、ミズキが入ってきたのだ。
「話は聞かせてもらった。…私を、仲間に入れるがよい!」
「へ?」
突然のことに、四人は驚きを隠せないでいる。
目をやると、マーリンは既に地下に逃げ去ったようだ。
(あいつ、ミズキ苦手なのはわかるが逃げるなよ…!)
「…聞いておるのか?」
「…ああ、すまん。で?」
ミズキが話を始める。
「今回の事案…、堕落した聖騎士は、基本的に強力な力を持つことが多い。弱い隊なら、全滅してしまうほどにな」
「なるほど」
「そのうえ、お前たちはたった四人の隊だ。仲間もなしに、無茶が過ぎる。」
「…まあ、正論だな」
そして、自信満々な顔をして、続けた。
「そこで、私がお前たちと旅をするのだ。兵力が補えるうえ、人数も増える!良いであろう?」
人数と兵力は同じ問題じゃないのか、という突っ込みは出なかった。
「兵力って…それでも五人だぞ」
「お主ほどではないが、私も修練を積んでいる。下手な軍隊よりかよっぽど強いぞ?」
「…まあ、かの始帝国の皇帝も『軍勢とはリーダーの強さで成り立っている』と言ってるしな」
その通りじゃ、とミズキが胸を張った。
「相変わらず凄い自信なことで」
「そうでなくては、第六部隊の隊長などやっておれんわ♪」
…そこに、アルバートも口を挟む。
「…失礼ですが、その第六部隊の仕事は、どうするんですか?」
「…うちの優秀な家臣達に任せた!」
…おてんば姫に振り回される、「優秀な家臣達」の様子が目に浮かぶ。
「さあ、事を始めるのは早いほうがよい。今すぐに出発じゃ!」
「今って…、もうすぐ日が沈むし、危険ですよ?」
荷物を持ち、不思議な高揚感の中で。
「まあ、強力な仲間が出来たし、大丈夫じゃないか?」
「…皆さん、楽しそうですね…?」
扉が開いた。
「行こう!北の国を救いに!」
物語の第二部が、ついに開演する。
…ミズキに必死で付いて行く家臣…いつか幕間で描きたいかも?
彼女のカリスマ性あっての忠誠心なのですよ♪




