紅い誇りと協力者
★
…すべてが終わった時、彼はそこに佇んでいた。
(…終わった、のか…?)
放心状態から立ち直り、すぐに辺りを見回す。
同胞たちの姿も、すぐ近くにあった。さて、これからどうしていくべきか。
彼は盗賊だった。
小さかった頃、彼は名も知らぬ男からすべてを奪われた。家族も、金も、自分の未来さえも。
それが、彼に歪んだ思想を植え付けたのだろう。いつしか、彼は「最も奪う者が、最も強い者」と思うようになっていた。
彼は盗んだ。金も、財宝も、誰かの未来でさえも。
いつしか彼のもとには、彼を慕う仲間が集まり、小さな盗賊団ができた。仲間の大切さを始めて知った彼は、物騒で、そこそこ幸せな生活を送っていた。
そんな時だった。聖騎士と名乗る男が、彼の仲間の大半を惨殺したのは。
「お前たち、俺に協力しろ」
そうして、盗賊団「紅い蠍」は、聖騎士団の手先として使われるようになってしまったのである。
仲間を殺した奴に、従っていられるか。そんな気持ちもあった。仲間も、そう思っていた。しかし、彼は自分の信条に従った。
「奪うものが最も強い」
それは、彼の人生において「信条」でも、「呪縛」でもあった。
そして今、戦いは終わった。彼から多くを奪った聖騎士は、破滅したのだ。
(…とりあえず、仲間を呼ぶか)
仲間は、どれだけ残っているのか。それが気がかりだった。
「紅い蠍、集合!」
「「「はっ!!」」」
仲間が集まってくる。彼は内心、ほっとしていた。
「死傷者の報告をしろ」
「はい、負傷者12名、死者0名です」
「…死者ゼロ?なぜだ」
「えー、敵ですが、こちらの戦意を奪おうとするばかりで、何故か命までは奪わず…」
「…そうか」
続いて彼は、明日以降の団の在り方について考えた。
「…報告しろ。奴らは、何を奪っていった?」
「…戦意を奪われました!あの猛攻は…」
「俺は、武器を…あの剣、気に入ってたのに…」
「僕は…恥ずかしながら心を…!」
「「「心…!?」」」
見れば、そいつは顔を赤くしている。さすがの彼もちょっと引いた。
「ああ…アイリスさんと言うのか…!」
「お頭…こいつどうします?」
「…まあ、放っといてやれ」
その後も被害報告は続く。
(…甚大だな。しかし…)
死人がない。それが、彼にとって気になる点だった。人を殺めずに、それだけのものを奪えるだなんて…
そう考えた時に、もう彼の意思は決まっていたのかもしれない。
「全員よく聞け。これから、俺たちはそいつらの味方につく」
「「…!」」
驚く彼ら。しかし、拒絶はしていないようだ。
「俺の信条は『より奪う者に従う』だ。あの聖騎士よりか、よほどマシだろ?」
「…ああ、お頭の言うとおりだ!」
「俺も賛成するぞ!」
笑いあう盗賊たち。
歓声が、もう廃墟になった屋敷に響き渡った。
☆
「…で、俺らのところに来た、と」
「ああ、エルさん」
…エルの前に立っているのは、他でもない、先日の盗賊団である。
「…なぜここに来た」
「あんたらは、命を奪わずに、多くのモノを奪っていった。盗賊として、尊敬できると思ってな」
「…盗賊に尊敬されたくないんだが」
こんな奴らとつるめば、十三部隊の印象は悪くなる一方である。
「…まあ、いいんじゃない?『姿を見せない影の別動隊』なんて、カッコイイじゃん」
アイリスがフォローを入れる。だが、エルはやはり不安であった。
「お前ら…裏切るんじゃないのか?」
「…さあ、それは分かりませんぜ」
「おいおい」
「俺たちぁ盗賊、日陰で生きている奴らだ。でも、だからこそ出来る事があるんですぜ」
「…まあいいや、裏切ったら叩きのめせば」
「ははは…そりゃあご勘弁…」
十三部隊に、協力者が現れた。不安もあるが、その事実は、とても喜ばしいことのように思えているエルもそこにいた。
いかがだろうか。正義や悪って難しいよね。
でも、彼らは生きてる。自分の正義を守るために。それは正しいかは、分からないかもしれないけど。
さあ、聖騎士の物語はまだまだ続く。延々と続く戦いを終わらせるために。
この物語の行方は、僕にもわからないけど…ね。
「Black Paladin ~聖騎士団第十三部隊~」、第一章完結です!
第二章…の前に、ゆるーい幕間のお話を入れたいと思います(*'▽')
次回「眠れない夜にはお茶会を」 ご期待ください!




