戦いの結末
更新が大変遅れて申し訳ありませんm(_ _)m
ガッ!
鈍い音が部屋全体に響き渡る。
遅れて、ドサリという音。
「そんな…エルさん…!いやぁぁぁ!」
フローレの叫び声も聞こえてきた。
(ああ…俺は、死んだのか…?)
朦朧とした意識の中、エルはその部屋の音を聞いていた。
眼は、開かない。身体も石の様に重い。
(そうか…ここで終わりなのか。)
しかし、エルはもう1つの音が、自分の中に響いている事に気がついた。
心臓の音。
(…生きてる!? 何で…)
響く。
響く。
また響く。
その音が、彼の意識を鮮明にさせる。
(俺は…何故生きてる?)
眼が、開いた。
腕が動く。
足も動く。
立ち上がり、辺りを見回す。
「…嘘だろ、何故…!」
ガストの姿。動揺している様だ。
「…エルさん…!」
遠くの方で、心配そうな顔をしていたフローレ。
そして、自分の身体。全く、どの部位も失っていない。
(…!? どうなってる…?)
ふと見ると、エルとガストの間、ちょうど剣が飛んできた場所に、何かが浮かんでいる。それは一瞬の後に地面に落ち、砕けてしまう。
しかし、エルにはそれに見覚えがあった。
(…魔法結晶化装置…!)
ずっと、エルのポケットにあった。本人は完全に忘れていたが。
これが、レーヴァテインの爆炎を無効化したのだろう。杖の打撃分しかダメージを受けていない。
「…ふふっ」
エルが笑う。優しい笑顔だ。
(助ける…?いや…)
再び剣を構える彼は、もう吹っ切れたようだった。
(助けられてたのは、俺の方だ)
「まだ…挑んでくるというのか…!?」
「ああ、お前を倒す…!」
暗黒がエルの足元から溢れ、渦を巻いて行く。
(それに応えるためなら、俺は全力を出せる!)
強大な力の奔流。まるで、これまでが本気でなかったかのようだ。
「嘘だろ…そんな力が…!」
本能的な焦りを感じるガスト。こんなことは、今までの人生で一度もなかったのに。
「くそっ…何度でも焼き尽くしてやる…!」
再び太陽の様な刃を発生させ、斬りかかろうと走り寄る。
ガキン!
剣と杖がぶつかり合う音。焔と暗黒は拮抗している。
「受け太刀…?もうそんな体力も残ってないだろ…!」
「ああ…全身フラフラさ…」
エルの方が、徐々に押されている。
「うあぁぁぁ!」
ガストが渾身の力を込め、剣を弾き飛ばした。
後方にふっとばされ、床に投げ出されるエル。
「もう俺は戦えない。俺は…な」
その時だった。
つばぜり合いに勝った彼の一瞬の隙。
それを突いて、後方から剣が放たれたのは。
「ぐぁぁ…!」
一刺しをまともに食らってしまったガスト。すぐに後ろを振り返ると、そこには。
エルの姿をした、暗黒の人影がいた。
「な…!?」
「…俺が本気を出さない理由、それは…」
人影たちが、エルの足元から何体も現れる。
「破壊力と与える恐怖が、とんでもないからだよ」
影が襲いかかってくる。
ガストは確かに屈強な戦士だ。
同じく歴戦の勇士であるエルも互角の強さである。
しかし、そんなガストも、『エル五人分』を相手に勝つことが出来るだろうか?
その重圧を前に、恐怖を感じないでいられるだろうか?
答えは、NOだ。
「卑怯だぞ…、こんな力…!」
影人形たちに襲われながら、ガストが呻く。
「先に奥の手ひけらかした奴が何言ってんだ」
「なんなんだ…なんなんだよ…!」
容赦のない攻撃。先ほどまでエルを圧倒していたものとは思えない姿は、無様でもあった。
「やめろ…やめろおお!」
絶叫。
恐怖に怯え、泣き叫ぶ者の絶叫。
「うわあああ!」
その瞬間、攻撃が止まった。
影たちの姿は、その場から跡形もなく消える。
いつの間にか立ち上がっていたエルが、ガストに向けて叫ぶ。
「もし生き延びたいなら…この場から今すぐ消えろ」
「…くそ…っ!」
圧倒された挙句、見逃された。そんな、強烈な屈辱に涙しながらも、ガストは逃げるように走り去って行った…
戦いの全てが終わった。
エルはフローレの鎖を解く。
「エルさん…すみません…!」
「なにを謝ってるんだよ。悪いのは、全部あの臆病者だ」
フローレが目に涙を浮かべる。
「いえ、私の為に、エルさんが誰かを殺める事になってしまった事が…!」
「…優しいんだな」
優しすぎる考えだ。そんな考えでは聖騎士なんてやっていけないだろう。
そんなこと、誰もが知っている。だが、彼も、その考えに影響されていたのかもしれない。
「安心しろ、誰も殺してない」
「…!?」
フローレが、じっとエルを見つめている。
「あいつに利用されていた奴らは、絶対に殺さないように…って。あいつ自体も許す事は出来ないが、殺すなんて馬鹿らしいしな」
「…そんな事が、できる人がいるなんて」
「…?」
「私は、騎士さんに憧れていたんです。誰かを守る事ができる、そんな人に」
彼女が続ける。
「でも、相手を殺すなんて…って思ってしまって。『殺さずに、守る』って、とても難しいのかな…って」
「…かもな」
「でも…エルさんは…、私を守るためにそれを成し遂げてしまった」
フローレは、少しの間の後、頰を赤らめて言った。
「それってすごく…かっこいいなって」
「…アイリスの次くらいにか?」
「…!そんなんじゃないです…!!」
「ははは…おっと」
ドサッ。
エルは強い疲れを感じたのか、その場に座りこんでしまう。
「しまった…無茶したかな」
「…大丈夫ですか?」
「ああ、少し寝ようかな」
「それは…ここで?」
「もうここでいいや」
そう言うが早いが、すぐにエルは眠ってしまった。
その寝顔を見ているフローレ。
自分も誰かを守れるだろうか?そんな事を考えていると、自分も眠くなってきてしまっている。
(エルさん…ありがとうございます)
彼女は少し微笑んだまま、眠りに落ちて行った。
天井に空いた穴から、朝日が差し込んでいる。
第一章もあと僅か!最終話は、少し違った視点からのお話になりそうです。
できるだけ早く執筆しますので、期待してくださるとありがたいです(*^^*)




