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Black Paladin ~聖騎士団第十三部隊~  作者: Noire
第一章 紅蓮の剣
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憎悪と絶望

 一方その頃。先に進んでいったエルが見たのは、衝撃的な光景だった。

 すぐ目の前に、フローレの腕が鎖に繋がれている。その鎖は天井に繋がれており、身動きが取れなくなっているようだ、

「エルさん…!?」

「フローレ…!怪我はないか?」

 すぐに駆け寄り、鎖を外そうとする。

「これは罠です…。すぐに逃げてください!」

「大丈夫だよ。知ってて来てるから」

 笑いかけるエル。二人が知っての通り、これは罠だった。彼の後方に人影が現れる。

「…久しいな、ガスト」

「お前の事だから、罠と分かって来ると思ったぜ」

 ガストと呼ばれた男。ガタイが良く、ボサボサの髪をしている彼こそが、聖騎士団第五部隊の隊長なのである。 エルも彼の方を向き直した。


「で、そうまでして俺を呼んだ理由は?」

「…お前を殺すためだ」

「まだそんな事言ってるのか…?」

 ガストの目つきは鋭い。その瞳に宿っているのは、燃え盛る憎悪だった。

「お前は、異端だ。そして、弱い。この王国に居てはいけない存在だ」

 彼は続ける。

「あの時だって、お前は何も守れなかった。ただ異端なだけの弱者に存在価値などない。だから俺が、お前を裁く」

「…随分と勝手な処刑だな。大衆を巻き込んだ癖に」

「前々から奴らは俺に反抗的だった。俺たち聖騎士に楯突く奴は、街ごと潰してやる」

 乱暴すぎる意見。あの騎士王ですら、ここまでの極論を出さないだろう。

「で、俺を殺すのか?…俺を、殺せるのか?」

「思い上がるな。お前は弱い。権力も武力も無い」

「………」

 エルがうつむく。

「仲間も居ない。だからこそ異端だ。お前は、俺に絶対に勝てない」

「………」


 暫くの間。そして。

「…っはははは!」

 エルが笑い出した。

 「お前…頭が切れる奴だと思っていたけど、ただの馬鹿だったわ」

「っ…!?お前!」

「理屈が通ってない。循環論法だ。ただ、俺の全てを否定したいだけ。俺が嫌いなだけ。そうだろ?」

「…っ」

「いいぜ。お前の理論だと、俺は勝てないんだろ?ならさっさとかかって来いよ」

 挑発するエル。激昂する相手とは違い、余裕のある態度だ。

「馬鹿はお前だ…いますぐこの世界から消し去ってやる!『解放』!」


 ガストの手に握られていたのは、長大な棍の様な武器。解放とともに、それは熱を帯び始める。

 以前の盗賊が持っていた、魔法道具とは比べ物にならない熱量と緊張感。心なしか部屋が乾燥していく様にも感じられる。

「『炎杖』レーヴァテイン…超高熱を帯びた杖だっけか」

「その通りだ。鉄をも溶かす我が力、身を以て思い知れ!」

 飛びかかり、聖剣を振り上げるガスト。対抗してエルも闇の力を迸らせた。

 激突。

 キィンという音が何度も響く。暗黒を纏った剣は、超高熱にも耐えうるのだ。

(熱い…!)

 しかし、生身の体は無事ではない。何度も武器を交えていく内に、汗が吹き出る上、体力も削られていく。

「ぐっ…うぉぉっ!」

 エル、必死の猛攻。一度でも攻撃を食らってしまえば、命が危ないだろう。それでも、エルは向かって行った。


 相手の横薙ぎを躱し、連撃。しかし、やはり棍というリーチの長い武器は、剣で立ち向かうには相性が悪い。

「甘いっ!」

「うわぁっ…!」

 いなされ、或いは避けられる。その時できた隙を縫うようなガストの攻撃は、力を発揮しない限り防ぐ事も出来ないだろう。

 エルは闇のカーテンを展開し、その攻撃を防ぐ。

 ガキンという金属音。

「…危なかったぜ」

「何…!?」

 その状況は相手も同じ。ガストの攻撃は闇に遮られ、エルに届かない。一瞬でも隙を見せれば、暗黒を纏った鋭い刃が飛んでくる。

 両者互角の戦い。膠着状態は、暫くの間ずっと続いていた。


 そして。

「はぁ…はぁ…」

「しぶとさだけは認めてやる…!」

 お互いに立っているのがやっとという状態に見える。両者とも、あと一太刀を受けたら死んでしまうだろう。しかし。

「だが…俺の勝ちだ!」

 ガストが声高く宣言する。

「『覚醒』レーヴァテイン!!」

 その瞬間、彼の聖剣が…

 爆発した。

 否、正確には爆風ではない。強烈な炎が、火山の噴火の如く杖の先端から噴き出したのだ。その熱波は、大広間の天井を突き破り、天の雲を貫いた!

「…嘘だろ、そんな力が…!?」

 目の前に太陽が現れたかのような閃光と熱気に、流石のエルも恐怖を覚える。


 余り知られていないが、聖剣には第二の形態が存在する。技量が相応しいものとなり、特定の力を身に付けた所有者は、『覚醒』の言葉とともにその形態を解放することが可能なのだ。

 ガストの「炎杖」レーヴァテインは、本来ただ高熱を発するだけの聖剣だった。しかし、彼の「望んだ全てを破壊する」願望がその力を歪めていった。

 超高熱の焔の刃を発生させる聖剣、真の名を「焔剣」レーヴァテイン。その刃に触れたものは、灰も残さず消滅する。


「お前の命運は尽きた…」

 ヨロヨロとゆっくり近づいてくるガストを前に、逃げ出す事も出来ないエル。ただ、彼を睨むのみである。

(さっき反論はしたが…、俺は生きていても良い存在なのだろうか?)

 絶望的な状態になると、人間はどんどん悲観的になっていく。それは、いくら心の強いエルでも同じだ。

「終わりだ。お前を殺す!」

(あの時、俺は何も守れなかった。あの人の命も…)

 死が近づいてくる。

(もし、何も救えないとしたら。いっそ、ここで終わって仕舞えば…)

 そう思った頃には、ガストは既に剣を振り上げていた。

「さあ、死ぬがいい、エル!」


 紅く燃える刃が、振り下ろされた…!


今回のガストのセリフを「ガキみたい」と思う方もいるかもしれません。でも、人を責める奴って、(注意じゃなければ)たいてい相手を否定したいだけだと思うんですよね。

そういう気持ちをこめて、今回の話を執筆しました。


さあ、一体エルはどうなってしまうのか…!

第一章終了まで残り二話!応援よろしくお願いします(*'▽')

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