ゲームスタート
あれは、ほんの1時間くらい前のことだった。
「キーンコーンカーンコーン」
4時間目の授業の終わりのチャイムが教室に鳴り響く。
「気をつけ、礼。」
「ありがとうございました。」
昼休みだ。俺はいつも通り購買で買ったパンを持ち、屋上に向かった。昼休みには決まって屋上に行く。
屋上につくと俺は、一番端にあるベンチに腰掛けた。すると、
「圭!やっぱりここにいた。」
と声をかけてきたのは、幼馴染の水谷鎖那だ。
「またそのパン食べてるの?たまにはちゃんとしたもの食べないと、体に悪いよ。」
「うるさいなー。大丈夫だって!」
たまにこいつは、ここに来る。
「なんでまたここに来たんだよ。友達といたほうがたのしいだろ?」
「圭が心配なんだよ。はい!お弁当作ってきたから食べて。」
弁当箱のふたを取ると、なんとカレーライスが入っていた。
「なんでカレー!?普通弁当にカレーはいれなくね!?」
「圭がカレー好きだって言ってたからだよ!味はどう?何点?」
確かに俺はカレーが大好物だ。鎖那は小さいころからそれを知っているだろう。と言っても、弁当にカレーは
普通入れない。鎖那は昔から変わったことをする。天然なんだと思う。
「うーん。60点かなー。弁当にカレーってありえないし。」
「なんでよー。別にカレー入れてもいいじゃん!」
そんな他愛もない会話をしていると、いきなり校内放送が流れ始めた。
「放送します。生徒の皆さん。至急、各自教室に戻ってください。5分後にテレビ放送を始めます。繰り返します。・・・・」
「まだ昼休みなのに、急になんなんだろうね。もう少し圭と話してたかったなー。仕方ない、教室に戻ろっか。」
何がなんだか分からないまま、俺たちはそれぞれの教室に戻った。
俺が教室に戻って少しすると、テレビ放送が始まった。
「大宮高校の皆さん、こんには。僕は、神谷ライム。未来人です。お昼休み中なのに集まってもらってごめんね。
なぜ皆に集まってもらったのかと言うと、これから皆には命をかけたゲームをしてもらいます。ルールは簡単。ゲームは
全部で5つあります。全てのステージをクリアすれば、生きて帰ることができます。もちろん途中で失敗すれば、死。
これから各教室に、案内用アンドロイドを送ります。そのアンドロイドがゲームの説明をしてくれるでしょう。それでは、
第一ステージスタートです。楽しんでね。」
テレビの電源が切れるのと同時に、教室に人型アンドロイドが入ってきた。教室中がざわめく。
「意味わかんねーよ。命をかけたゲームってなんだよ!」
教室のあちこちから、アンドロイドに向かって罵声を浴びせる。すると、アンドロイドが感情のない声で話し出した。
「2年1組の皆さん、こんにちは。知っての通り、これから大宮高校の全校生徒で命をかけたゲームを行います。
ゲーム中は学校の外に出ることは禁止。もしも出たらルール違反とみなし、ゲームオーバー。つまり、死。このゲームが
終わるまでは携帯が使用できないよう、学校中に妨害電波がはってあります。そして最後にひとつ。教師の方々はすでに
殺しました。完全に生徒のみでこのゲームをするために。以上です。これより、第1ステージのルールを説明します・・・」
いきなり話し出したアンドロイドの話の内容を聞き、一瞬教室が静まり返る。しかしそのすぐ後にクラスのムードメーカーの
楠鉄也が発言した。
「俺はこんなくだらないことなんかしたくねーよ。何が命をかけたゲームだ。馬鹿馬鹿しい。」
その声に続くように、周りの皆も便乗した。するとアンドロイドが、
「ゲームに参加しないのは自由です。でもそんなことしたら、ルール違反とみなし殺します。」
アンドロイドの冷たい言葉に怖気ずいたのか、言い返すものは誰もいなかった。俺もその中の1人だった。
「それでは第1ステージの内容を説明します。第一ステージでは、これから前に3種類の飲み物を用意します。皆さんには、
その中から1つ好きなものを選んで飲んでもらいます。しかし3種類の飲み物の中の2種類は、毒が入っています。つまり、
毒入りではないものを選べば生きれると言うわけです。もしも毒入りの飲み物を飲んでしまった時は、ゲームオーバー。
死んでもらいます。このゲームで試されるのは、運。不正を防ぐため、全員が飲み物を選んでから一斉に飲んでもらいます。
それでは、始めます。皆さんの幸運を祈ります。」
アンドロイドが話し終わるとアンドロイドの腹部に大きな穴が開き、そこからコップに入った3種類の飲み物がたくさん
出てきた。まるで血のように赤い飲み物、その色とは逆に真っ青な飲み物、そして絵の具を水に溶かしたような黄色の飲み物。
どれも飲んではいけないような気がする。普通の飲み物の色ではない。
「さあ、皆さん。選んでください。制限時間は10分。それまでに1人でも飲み物を選んでいなかった時は、連帯責任。
全員殺します。」
アンドロイドが持っているタイマーが動き始めた。すると、いつもクラスでやんちゃしている根黒太一が赤い飲み物を手に
取り、皆にこう言った。
「さあ、皆早く飲み物を取って!このゲームが本当に命をかけたゲームなのかは、わかんないけど楽しそうじゃん!」
その発言の後に、学級委員の桐谷霞が話した。
「黒川君、もっと慎重にならないと。本当に死んじゃったらどうするの!」
「でも制限時間は10分しかないんだよ。飲み物を早く取らないと結局皆死んじゃうよ!」
その言葉につられたかのように、皆次々と飲み物を取り始めた。俺も取った。青色の飲み物を取った。なぜかと言うと、
今日の朝の占いでラッキーカラーが青だったから。朝の占いは毎日欠かさずに見ている。確率は三分の一。クラスの人数は全部で
30人いるが、ほとんど均等に分かれた。もし、あのアンドロイドと未来人のライムが言っていた通りなら半分以上が死ぬ。
本当にそんなことがあるのだろうか。俺は、青い飲み物を握り締め考えていた。そして10分が経過した。するとアンドロイドが
話し始めた。
「時間です。それでは皆さん、一斉に飲み物を飲んでください。」
皆が一斉に飲み物を飲みだした。おれもコップに入った青い飲み物を一気に飲み干した。数秒の後、クラスに異変が起こった。
赤色と黄色の飲み物を飲んだ生徒たちが、苦しみだしたのだ。呼吸をするのが苦しそうに首をおさえている。
すると1人、また1人と冷たい教室の床に倒れていった。俺はただ、言葉を失った。なぜこんな事が起きているのか。
そうだ。これはドッキリだ。そうに違いない。俺は何を思ったのか、倒れている根黒太一の肩をゆすり、
「なあ、もう起きてくれ。十分驚いたよ。これはドッキリなんだろ。早く起きてくれよ。さっきまであんなに威勢がよかったじゃないか。」
しかし、根黒太一はピクリとも動かない。顔は青ざめている。俺は今何が起こっているのか、何でこんなことに巻き込まれているのか
が全く分からなかった。ほかに生き残った生徒もただ立ちつくしているだけだった。その沈黙を破ったのはアンドロイドだった。
「おめでとうございます。青色の飲み物が当たりでした。生き残ったあなたたち9人は運が良かったですね。ここで死んでしまった人たちは残念でした。次のゲームも頑張ってくださいね。」
すると、学年で1、2を争うくらいの秀才中田隆二が怒りに満ちた声で、
「ふざけるな。こんなことをしていいと思っているのか。人の命を何だと思っている。」
隆二の怒りは収まらず、アンドロイドに飛びかかった。
「隆二!やめろ!」
と俺が声をかけた時にはもう遅かった。
「中田隆二。ルール違反です。」
その声がしたのと同時に隆二の体は吹き飛んだ。もう体の原型をとどめていない。
「せっかく生き残ったのに、残念でした。皆さんもルール違反をするとこうなるのでしないように。ゲームはルールを守って
楽しくやりましょう。それではしばらくしたら次の指示を出すので少々お待ちを。」
生き残った俺たちは、たくさんの死体のそばで何も話さず、呆然と立ち尽くしていた。