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出
朝食を済まし、身支度に手間のかかる紺より一足先に月島は駐車場に向かう。
手にするのはフルフェイスの黒いヘルメット。
移動にはいつも大型バイクを使っている。最近では下手をすれば、フルフェイスは入店拒否をされるが、やはり安全第一。それに、アルビノで日差しに弱い月島には、日よけの意味でもこれは大切な防具になる。
黒い薄手のグローブも同じ意味合いを持つ。が、一度、紺に銀行強盗みたいだと笑われて少し改善すべきか検討中だ。
運転に必要な支度を済ませ、バイクを路肩に出して紺を待つ。
程なく現れた彼女に揃いのフルフェイスを渡すと、いつも通り『重い』と嫌がられる。
それでも
「嫌なら置いていくぞ」
そう言うと、彼女は泣きそうな顔で月島の後に飛び乗り抱き着いてくる。
そんな紺を、月島は心底愛おしいと思う。
「さぁ、走るぞ。しっかり掴まれ」
エンジンをかける。鼓動じみた駆動音が手に響く。
制限速度ギリギリまで一気に加速すれば後ろの紺が「速い!怖い!」と言いながら、月島の腰に回した腕に力を込めた。