動
夜が来た。
この組織の時間がやってきた。
手入れを終えたライフルを背負って月島は組織所有の黒いバンに向かう。
車体も、内装も、窓も全てが黒い。中は運転席と助手席以外取り外されており、後部はただのフラットな空間になっている。この方が人も荷も積み下ろしが楽なのだ。
後部の扉を開き乗りこむと
「およ、月島も行くの?」
紫色の前髪を揺らして先客が訪ねてきた。
小野寺 秀。処理隊と呼ばれる部隊を率いる隊長を務める。同時に腕のいい医者なので、医療と死者のエンバーミングも担当している。桑野と同期であり、組織全体でみれば、言わばナンバー2のような存在だ。
しかし、問題はこの人物がずば抜けた変人ということ。
まず、年齢性別すべて不明。髪をピンクに近いような薄紫に染め、肩口でおかっぱに切りそろえている。前髪は顔の真ん中まで伸ばし、その髪型のせいで目元の表情が全く分からない。見える口元はいつも『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫のように弧を描いている。服装は大抵サイズの合わないダボダボのハイネックに茶のスラックス。それに白衣を羽織っている。
外見だけでもなかなかに怪しい小野寺は、まあ中身もそれなりに、だ。
それでも組織の皆、小野寺と仲良くしているのは、この人物が優しいと知っているから。
「月島は援護?」
小野寺はライフルを見て訪ねる。
「ああ。秀は?」
「秀サマ今日は後片付け」
奇妙な一人称ももう聞きなれた。そんな月島の横で小野寺は楽チンだねぇ、と笑っている。
そうこうしていると、黒い服を着た隊員2名を連れて桑野がやってきた。
隊員は月島たちと同じ平地に座り、桑野は運転席に掛ける。
「行くか」
桑野の声で車は夜に溶けるように走り出した。