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Dark moon  作者: chocolatier
変わりゆく世界
47/48

左右の鎖骨。肋の正中。下腹。

順々にメスを進め温度の無い身体を開いていく。

体内の出血も酷い。直接の死因は銃弾によって脳幹が損傷したことだが、この状態ではたとえ撃たれていなくとも失血で死亡しただろう。

カッターで肋を外す。

三本折れていた。位置からして跪いた状態で強く蹴り上げられた事が伺える。

肺、心臓、胃、肝臓、胆嚢、腎臓、脾臓、大腸、小腸。

取り出した臓器は若く健康的な形をしていた。数時間前まで美しい色をして肉体の機能を支えていたのだ。


――まだ、死ぬはずでは無かった。


暴力により傷つけられた箇所を確認していく。

複数の血管が破裂している。

腹腔内に溜まった血液はそこから溢れた物だ。


眉間の傷口は小口径の拳銃によるもの。至近距離ではあるが、押し付けて撃った訳では無いらしい。ある程度銃器に慣れた者の犯行。


射入角から考えて、立った状態で撃たれている。


「馬鹿だねぇ」


そ、とラルムの髪を梳く小野寺の指先が震えた。


「立つの、辛かったでしょ?」


それでも、立った。

それがラルムの意志。


一度大きく呼吸をして小野寺は開いた身体を丁寧に縫い合わせ、そして綺麗に清めた。


「敬礼!」


桑野の一声で、待機室で解剖を見守っていた三十数名の裏警察の面々が直立し、ラルムに最敬礼の姿勢を取った。

最後まで戦い抜いた誇らしき仲間に、せめてもの思いを届ける為に。


「絶対に仇は取ってやる」


敬礼の姿勢を取ったまま皆月島の言葉に無言で頷いた。




ぴんぽーん。


間の抜けた音に、紗音は少し笑って廊下を走る。

また鞄の中で鍵が迷子なんだ。

まったく、おっちょこちょいなんだから。

玄関を開けたらきっと彼は申し訳無さそうに笑う。

『ごめんね、助かったよ』って。

それでリビングに行って、鞄をひっくり返して、カギを拾い上げて『おかしいなぁ』なんて。

だから、彼への贈り物はもう決まっている。鞄で迷子にならない、大きなキーホルダー。でも、まだ内緒。


「おかえり、ラルム!」


微笑んで見上げた先には、知らない顔が二つ。どちらも、ラルムと同じ年頃。そして、何処か似た雰囲気を感じた。


ゆっくり、紗音の笑顔が凍りついて色を無くしていく。

比例して、二人の男の目元に痛々しい影が落ちた。


「ラルム、怪我したの……?」

「いや……」


否定の重さに、胸の底を殴られたような気がした。


「彼は!?

彼はどうしたの!?」

「……亡くなりました」


あたまが、まっしろになった。

おかしいの。

せかいが、ねじれて。


気付いた時には走り出していた。

裸足で、何も持たずに、脇目もふらずに。


頭の中で声がする。


早く。

はやく。

彼を見つけなきゃ。


これは悪い夢。

きっと、彼はいる。

大丈夫だよって抱きしめてくれる。


だから。


待っていて。


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