誇
痛い。もう、何処が痛いかもよく分からない。それくらい殴られた。
屹度、自分はこのまま死ぬのだろう。ラルムは霞む意識の中で思った。
けれど。理解しても、自分を変える気にはなれない。
神よ。本当にいるなら、救って欲しい人が沢山います。
神を信じる事も出来ない地獄にいる人が大勢います。
そんな事に目も向けない神ならいらない。
これは、戦争だ。たった一人。何も出来ない自分の意地を通す為。≪裏警察≫の一員として、胸を張っている為。この命が尽きても、此奴らに屈しない。
もし、此処で膝を折って、この神に許しを乞えば、自分を喪ってしまう。誇れる物も無い屍になってしまう。
だから。だから。ラルムは歯を食い縛って、立ち上がる。
小野寺先生。助けて貰ったのに、ごめんなさい。
真田さん。いつも穏やかに微笑んでいる姿、憧れました。
桑野さん。父のように慕っていると、いつか貴方に伝えたかった。
紺さん。優しくて真っ直ぐで、月島さんとの会話は理想の夫婦でした。
月島さん。寡黙で、でも、いつもその背で道を示してくれて…ありがとうございます。
それから……ああ。紗音。ごめん、ごめんね紗音。置いていきたくなんかない。帰りたい。
でも、多分もう駄目だ。
せめて、最後の瞬間まで、睨みつけてやる。
黒く冷たい銃口が、額に押し付けられた。それでも怯まず、ラルムは確りと立って黒い影に焦点を合わせる。
「モウ一度聞ク。改心シテ、コノ捜査カラ手ヲ引ク意思ハ有ルカ?」
「もう一度言う。僕は、お前たちの神を否定する」
引き金に指が掛かるのが、やけにゆっくり見えた。
これが走馬灯だろうか?紗音の顔ばかり頭に浮かぶ。
もう一回、あの凸凹の林檎、食べたかったなぁ、なんて。
ごめんね、紗音。
離れないって約束したのに。
ごめんね……愛してるよ。
ラルムは誇らしげに微笑んで、真っ直ぐに引き金を見つめる。
乾いた、破裂音。
それが、ラルムの最期だった。




