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Dark moon  作者: chocolatier
変わりゆく世界
42/48

「おかえり」


帰宅して。紗音の声に迎えられて。ラルムは泣き出したくなった。

数日離れただけだ。なのに、もう何年も会えなかったような気がしてしまう。


「……ただいま」


詰まった声を誤魔化すように、ラルムは華奢な体を強く抱き締める。

感情が昂って、ぐちゃぐちゃで、どうにも出来なかった。息が苦しくて、おかしくなりそうだった。

でも。やっと。腕の中に、紗音がいる。その温もりに安堵して、ラルムは大きく息を吸い込んだ。


あの地獄のような現場で吸い込んだ、焼け焦げた臭いはしない。

紗音は、ここで、生きている。

大切な人が呼吸をしている事。

大切な人に触れられる事。

大切だと伝えられる事。


弟が行方不明になった時、当たり前の幸せの有り難さなんて、嫌になるほど味わったはずだった。

けれど。客観的に叩き付けられる現実は違う。

あの現場では、自分と同じ思いをする人間が大量に生まれた。


そして。あの現場で《裏警察》の皆は傷を抱えながら、真っ直ぐに立っていた。


「紗音」

「どうか、した?」

「愛してる」


決壊した感情が、涙になって次々に落ちる。

紗音は、ただ何も言わずにラルムの背に回した腕に力を込める。


暖かな時間の中で、ラルムは帰宅を勧めてくれた仲間に感謝した。



やっと落ち着いたラルムをソファに座らせて、紗音はナイフを手に取る。

何も出来ない自分だけれど。せめて、ラルムに、少しでも笑って欲しい。

そっと、林檎に刃を当てて、皮を剥いていく。最近覚えたばかりの手元は危なっかしくて、なんだか芋のようにデコボコ仕上がりになってしまった。


でも、ラルムは笑ってくれた。

それだけで、紗音は嬉しかった。


誰かと一緒に笑える。

そんな未来が有る事を、一年前まで考えてもいなかったから。


「あの、ね」

「どうしたの、紗音?」

「私も、愛してる」


そっと、唇を触れ合わす口付け。それだけで、胸が暖かくなる。


「……そろそろ、仕事に戻るね」


薄く笑ったラルムに、紗音は笑って頷く。

仕事が終わったら彼は帰ってくる。この時、紗音はそう信じて疑わなかった。


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